第42話

「はぁ……はぁ……当主様ッッッ!」


「……なんだ」


 とある屋敷にて。大急ぎで何者かがその屋敷の持ち主の執務室へと駆け込んだ。その者の恰好はボロボロで、それを一目見た当主と呼ばれた男は何があったのかを察した。


「まさか、バレたのか。奴らに」


「は、はい……!ここはもう危険です!すぐにでも─────」


「……そう急かすな。ここは結界で隠されている以上見つかることは無い。それに撲滅部隊だったか?そんな集団、ただ噂が独り歩きしているだけだろうが。そんな奴らがここを見つけることなどできない。貴様も十分分かっているはずだ。この結界の力を」


「そ、そうですね……」


 そう諭されようやくその男は落ち着きを取り戻す。そして当主と呼ばれた男はそばにいた執事に指示を出した。


「すぐに結界を強化しろ」


「はっ」


 指示を受けた執事は執務室から出て、結界を張る魔道具が置かれている部屋へと入る。そして自身の魔力を流し込み、屋敷全体に薄く張られている結界を強化したのだった。

 この結界は普通の結界とは異なり、人の気配も消すことができる。更に結界発動時に漏れ出る魔力が一切漏れないと言う最高級品なのだが。


 こんな魔道具、一端の、それもそんなに位の高くない貴族が得られるようなものではなかった。


 そして結界の強化を終えた執事が執務室に戻ってくる。


「完了しました」


「ご苦労」


(まだこの結界で見つかることは無いだろうが……何か手を打っておいた方がいいな)


 そう考えた当主は目の前で未だに息を荒らしている男に指示を出す。この男は例え死にかけだろうが気にしない。人使いが荒いのだ。


「おい」


「な、なんでしょう……」


「すぐにローゼを呼べ。今すぐにだ」


「は、はい……!」


 そう睨みながら言われた男は一瞬転びそうになりながらもなんとか踏み止まり、すぐに最初この部屋に入ってきたのと同じように執務室を出たのだった。


 





「……っ」


(気配が消えた……それだけじゃない。最初にキアラ様がつけたマークも見えなくなっている。想定されていたか)


 追っている最中に起こったそれに、一瞬動揺したフィスは近くの屋根に飛び乗り、最後に途切れた気配のした方を向く。その方向は貴族街だった。


「貴族の中に反政府軍に与した奴がいる……チッ、最初から分かっていたことじゃねぇか。それが決定的になってもなんも嬉しくねぇ」


(だが絞られてはきている。後は詰めるだけだが)


 フィスは更なる厄介事が起こりそうな予感がして、思わず天を仰いだ。


 それからフィスはキアラたちと合流し、敵の所在が消えたこととこれで貴族が関わっていることが確定したことを報告する。


「そう。だったら今日はもういいわ。一つアジトを潰せたことだし。総員、帰還!」


「「「「「はっ!」」」」」


 そして指揮官である彼女のその言葉でフィス達はスッと乗っていた屋根から姿を消したのだった。




「なぁなぁフィス」


「どうした?」


「お、俺……捕まんないかな?」


「なんでだよ」


 次の日、自分の机に座ったフィスに前のアイゼが青褪めた表情で後ろを向いて来た。彼は前に“塾”に通っていた旨をフィスに話している。


「あぁ、塾の件か」


「き、キアラ様何か言ってた……?塾に通ってた平民全員処刑するとかどうとか……」


「いんや?そんなこと言ってなかったぞ?」


「そっか……」


「反政府軍に与していないって証拠を出してくれれば」


「無理難題すぎない!?」


「いや、魔書契約で王国に逆らわないことに同意すればいいんだってさ」


「はぁ……よかった。それくらいならいくらでもするよ」


 それを聞いたアイゼはさっきまで不安だったんだろう、長く長く息を吐いた。何せ自分の恩師がいるところが実はテロリストの巣窟だったと言われていたのだ。手を貸していたと言われても何も言い返せない。

 

 確かにアイゼは自分をここに合格させてくれた“塾”の先生方には感謝していた。しかしそれとこれとはわけが違う。そこの区別はついていた。


「しっかしまさか反政府軍の根城だったなんて思わなかったぜ」


「“塾”に入っていた生徒も数多いし、きっと今日初っ端からその話があるんじゃねぇの?まぁ仕方ないだろこれは」


「そう言ってくれると嬉しいぜ」


 直後、フィスの言った通りAクラス担任の先生であるリーベルから“塾”が反政府軍の根城だったことについての説明があり、魔書契約についての話もあった。


「なのでもし自分の潔白を証明したければ魔書契約を結ぶんだな」


 そう言ってこの話を閉めたリーベルは次にといくつかの連絡事項を述べていく。そしてある程度その話を終えた彼女はそそくさと教室を出て行った。淡白なのだ、彼女は。


「フィス、行こうぜ」


「あぁ」


 そしてフィスとアイゼはシェルと合流し一緒に一限が行われる闘技場へと向かったのだった。

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