第41話

 大きな音を立てて天井が崩れる。それと同時に黒ずくめの一団が降りてきた。


「っ!?だ、誰だ!?」


「反政府軍に所属しているとしここを排除する」


「くそっ……!どうしてここがわかった!?」


 あっさり白状した男が隠していたナイフを投げる。が、それは当たる直前でぴたりと空中で止まった。


「何っ!?」


「はっ……!」


「ぐぁっ!?」


 普通だったらあり得ないその光景に動揺した男は次には胴を深く斬られ絶命した。それが開戦の狼煙だったようで、あちらこちらで戦いが繰り広げられ始める。


 しかし、その戦いは一方的だった。


 そんなこと、初めから分かっていた。本職の騎士と、軍と言っても結局こういうところにいる構成員の実力などたかが知れていた。


 そもそもエルファニア王国にいる今の反政府軍全体の勢力は全盛期の約半分以下。それはフィス達が積極的にアジトを潰し、構成員を一人残らず殺し尽くし、できるだけ情報を統制したからだろう。


 今まで隠れ続け、今か今かと待ち続け、そしていざ決行し貴族を殺した結果がこれである。こんなの国を変える以前の問題だった。


 彼らは結局隣国所属だった以上、数こそ最強だと信じて疑っていなかった。その為エルファニア王国では冠位魔術師ステラーズや近衛騎士、宮廷魔術師さえ警戒していれば問題ないと思っていたのだ。


 実際それは間違いではない。間違いではなかった。しかし彼らは目覚めさせてしまった。



 ─────本当の化け物を。



「あはははは!弱い弱い弱い!どうしたのかしら!?」


「がっ!?」


「化け物めっ!?」


 敬愛していた父親を信じていた者に目の前で殺された少女の怒りを、彼らは買ってしまった。鏡の魔女の怒りを。


 全てを映し、全てを返す。彼女が放つ魔術は多種多様。

 

 縦横無尽にいろんな魔術をぶっ放すキアラのその姿は例え味方にとっても一種の災害にしか見えない。


「っ!?あっぶな!?」


「あ、ごめんなさーい!」


「……軽いなぁ、お嬢様。いいんだけどさ」


 フィスは彼女から飛んできた魔術をギリギリで避ける。なまじ敵意がない分察知するのが難しい。質が悪い。


 彼女は一度ハイになると脇目も振らずに魔術をぶっ放し続けると言う厄介な性格を得てしまった。

 人よりも魔力があるが故に反射する魔力ミラーマジックを長時間運用できる。それが彼女のそれを増長させていた。


 なので、まず撲滅部隊に入るには彼女の魔術を避ける技術を身に付けなければならないのだ。


 それを提言したのは紛れもないフィスである。


 そんな彼だが、しっかりと自分の方に飛んでくる彼女の魔術を対処しながら静かに一人ひとり的確に殺していった。彼の魔術はそれほど派手ではない。しかし対人での威力が桁違いだ。


 なにせ、当たればほぼ確実に殺せるのだから。


 座標指定の、ほぼ不可避の見えない斬撃。確かに魔力は多分に消費するが、それに対する利があまりにも大きすぎる。この魔術は今のところ使っている者がフィスしかいない。


「くそっ……!どうしてこんな……!」


「私の父上を殺した以上、許すわけないでしょう」


 そう言いながら彼女はまた一人殺す。この時既に人数が半分を切っていた。久々に見るキアラの姿にフィスは、


「はしゃいでんなぁ」


 と、本人が聞いていたら強く否定するような感想をボソリと呟いていた。


 その時だった。


「っ!」


「っと」


 キアラの死角から突如魔術が飛んでくる。フィスはそれをいち早く察知しその魔術を斬り伏せ、それを放った魔術師へと突貫する。


 突き出した剣は魔術師の胴へと突き刺さるかに思えたが、その寸前で避けられてしまう。


「チッ」


「……なんだこの速さは」


 フィスは仕留めきれなかったことに舌打ちし、避けた魔術師はその移動速度に舌を巻いた。そして再度フィスは魔術師を殺そうとするもその間に剣士が割り込んできた。


 しかしその剣士でさえも数合切り結んだのちフィスに斬り殺されてしまった。


「使えない奴め……」


「それはお前も同じだけどな」


「クソッ……」


 そう言いながらフィスは魔術師が放った魔術を手にしていた剣で斬り伏せる。それは魔術師にとってあり得ない光景だった。それに動揺した魔術師は呆気なくフィスに殺された。


「クソッ!魔術師が殺された!」


「逃げろ!少しでも本部に情報を送るんだ!」


 一人がそう叫ぶと、別の一人がそれに賛同するかのように叫びだす。それを聞いた他の構成員らは即座に撤退し始める。


 そんな彼らをみすみす逃がすようなフィスたちではなかった。


「が─────っ!?」


「逃げ─────っ!?」


 彼らは散らばるようにして逃げるもキアラの魔術によってあえなくその命を散らしていった。しかし一人だけ運よく生き残った者がいた。


(まずいまずいまずい!早く、早く当主様に伝えなければ……!)


 彼は砂煙に紛れるようにしてその場から離れる。これ以上彼らに目を付けられないようにするために。


「フィス」


「なんでしょう」


「追って。殺さないで」


「はっ」


(どうせ下っ端だしさっきの奴が言ってた本部だってアジトの一つだろうけど、一つでもアジトを潰せれば問題ない)


 そう考えたキアラはいつものようにフィスにマーキングをつけた。これがあれば王都内どこにいてもフィスを見つけることができる。


 そしてフィスは一度魔力を無色にすると再度強化術を使い、この場を離れたのだった。

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