第28話

 それから各自生徒らが移動し始める。それを見てフィスたちも移動を始め、1年Aクラスの教室へ。黒板に貼ってあった座席表を見ながらその机の場所へと向かい座ると、


「……あなたは、もしかして貴族様ですか?」


「ん?」


 前に座っていた男子がフィスに声をかけた。どうやらキアラたちと一緒に教室に入ってきたことからそう勘違いしたらしい。


「違うよ。俺は従者だから」


「何だ良かった。あ、俺の名前はアイゼ。ただの平民だ。よろしく」


「俺の名前はフィスだ。こちらこそよろしく」


 この学園に入学できることすなわち、この国の同世代の中ではかなり優秀だと言うことができる。そのため、このアイゼという少年も平民ながら魔術を使うことができた。


「従者でこの学園に入学できるなんて、相当大変だっただろ?」


「まぁな。でも戦闘試験は元々訓練してたから対策しなくてもいけるって踏んで、筆記試験の勉強に全力を注いでたからな」


「なるほどなぁ……俺はその逆だわ」


「戦闘試験は得意不得意が大きく出るからな。この学園は優秀な人材を取るって意味で作られたから別に戦闘試験が悪くとも筆記試験が特別良かったら入れるって言うし」


「それ、俺の先生も言ってた」


「先生?」


「そ。平民向けの、学校みたいなやつで“塾"……?って名前の。俺そこに通ってたんだよね。家の手伝いしながら」


「へぇ……って、何で疑問系なんだよ」


「珍しいだろ?塾って言葉」


「まぁな」


(平民向けの学校……道場みたいなもんか)


 フィスはその塾というものが分からなかった為、そのように解釈した。



 その後教室の中に先生と思わしき人物が入ってきて、生徒たちはすぐに自分の席に着席する。


「私がこのクラスの担任を務める、リーベルだ。一年よろしく頼む」


 それから彼女はこの学園の概要について説明し始めた。


「この学園でのまずはルールだな。基本的に立場での差別は止めろ。貴族だからと平民をいじめて良い理由にはなり得ず、また平民だからと言って自身を卑下し、落ちこぼれる理由にもなり得ない。いいか。ここは学ぶ場所だ。無駄な揉め事など言語道断。即座に処罰する」


 その強い言葉に、この教室にいる生徒ほとんどが驚いた。そんな彼らを無視し、リーベルは続ける。


「そして処罰内容は風紀委員会が決定する。これを覆すことは基本的にできないと思え。例え家の権力でもってしても、だ」


「そんなこと、やってみないと分からないじゃないですか」


 と、そのリーベルの言葉に触発されたのか一人の男子生徒が立ち上がった。彼の家はこの国の中でもかなり位が高く、大抵のことは権力でなんとかできていた為この学園でもそれが通用すると思っていたからだ。


 そんな彼の思惑など見通しているリーベルがまるで馬鹿にするように笑い、


「過去、お前のような馬鹿が同じようなことをしようとした。当時の風紀委員長の実家が子爵家だったからというのもあったんだろうなぁ。だが、そんなことは叶わなかった」


「……何故ですか?」


「風紀委員会も含まれている、この学校トップの権力を誇る生徒会。その長は例え平民だろうとなることができ、その立場はどれほど実家の権力が強かろうと揺らぐことはない。では、何故何者にもその立場を犯せないか────そう、この学園での委員会は一番上に王家がいるからだ。この国で王家以上の権力者はおらず、そして王族自身でさえそれを犯すことはすなわち王族を否定することに繋がる。故に誰もそれを翻そうとしないのさ。やはり、遺伝するものは遺伝するんだな」


 そう言ってリーベルは話を止める。そして最初に突っかかった男子生徒は最後の一言で過去に誰がその馬鹿をしたのかはっきりと分かってしまい、最初の威勢がすっかり消え失せていた。


 それを確認した彼女はさっさと次の話をし始めた。


「次に説明するのは────」


 それから淡々とこの学園での他のルールや授業の取り方、そして施設の説明などが行われる。そんな中、フィスはその説明を聞きつつ別のことを考えていた。


(なんか、視線を物凄く感じる……)


 フィスの真後ろから何やら強烈な視線を感じるのだ。座席表を確認すればすぐに誰が見てきているのかわかるのだが、生憎そんなことができるような雰囲気では無かった。


 それから説明を終えたリーベルはこの後の予定について話した後、


「今日はこれで解散とする」


 そう言って教室を出た。残った生徒たちも帰る準備を始める。


「フィス、帰るわよ」


「はい」


「じゃあなフィス」


「おう」


 キアラにそう言われたフィスもアイゼに一言言ってから外に出ようとすると、


「おい」


「ん?」


 フィスの座席の後ろに座っていた、少年に声をかけられる。その少年はさっきからフィスを睨んでいた者だ。


 一体何の話かと、フィスが心の中で身構える。すると少年は睨みながら、


「貴様、キアラ様の従者か?」


「……そうですが」


 そうフィスが彼に言うと彼は目元を更に鋭くさせ、言った。



「変われ」



「……は?」


「変われと言っている。そのキアラ様の従者という立場、貴様では役不足だ」


 その少年はまるで馬鹿にするかのようにニヤリと笑いながらフィスにそう言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る