第27話
「あのパーティぶりね、フィス。あと────キアラ」
「……カリーナ。まさかあの時みたいに戯言を言うのかしら?」
「ふふっ、そのまさかよ。せっかく本人がいるんだし」
そう言ってカリーナはフィスの方を向いて、怪しげに笑って言った。
「────フィス、私の騎士にならない?」
「……?」
フィスは初め何を言われているのか分からなかったが、徐々に理解し始めるとその目を大きく見開かせる。このようなことは今まで無かったからだ。
「ふふっ、どうかしら?高待遇を約束するけど」
(……そう言われてもな)
フィスの中では、既に答えは決まっていた。
思い出して欲しいのは、彼がどう言った経緯でキアラの護衛になったか、だ。彼は冤罪をかけられてこうなっているのだ。それについては既に無実が立証済みであり、だからこそ彼を部隊長にすることができているのだ。
その為彼は自分の冤罪を晴らしてくれたベリルもとい、ミレニア家に多大な恩を感じている。
「すみませんが、お断り致します」
フィスは90度頭を下げる。それを受けたカリーナは意外にも悲しげな表情をみせずにまるで最初からわかっていたかのように笑っていた。
「まぁ、そうですわよね。わかってはいたけど、こうもあっさり拒否されると来るものがありますわ」
「実際そうは思ってないくせに、よく言うわ」
「ふふっ」
キアラが半目でカリーナを睨みつけると、彼女は誤魔化すかのように笑った。
(あからさま過ぎるわね。また別の理由がありそうだけど……それに触れる必要なんてないか)
キアラは一瞬カリーナが何を思っているのか探ろうとするも、即座にやめた。これ以上は無駄だと判断したためである。
それから一緒に講堂に入り、適当な席に座った三人。キアラにはフィスと言う護衛がいるが、カリーナは一人だった。
「カリーナ、護衛は?」
「年齢的に入学させるのは無理だったわ」
「成程ね。それなら納得だわ」
そうして話して時間を潰していると、講堂の中が騒がしくなってきた。見るとかなりの人数が講堂に集まっていた。
「皆さま、静粛に」
と、その時拡声魔術によって大きくなった声が講堂中に響く。すると、さっきまで騒がしかった講堂が静かになった。
「これより、入学式を執り行います」
それから滞りなく入学式が終わった後、各クラスがその場で発表される。これにフィスは軽く驚く。
(クラス一覧みたいなの張り出さないんだ)
横にいるキアラが驚いていないことから既に知っていたことが分かる。そしてフィスは同時に入学式が意外にも短かったことに納得した。
「Aクラス。キアラ・ミレニア────フィス────カリーナ・ドメイン────」
「同じクラスね。まぁ従者と切り離すことなんて滅多にないから分かってたけど」
「そうなのですね」
「私も同じクラスだけど、何も言ってくれないの?」
「あなたに言うことなんてないわ」
「まぁ、つれないわね。フィス、キアラったら酷いと思わない?」
「そう言われましても……」
「フィス、何も言わなくてもいいわ。こんな性悪女の言うことなんて」
「性悪女なんて……私、よく性格が良いと言われるのだけど?」
「見る目ないんじゃない?そいつ」
「っ!」
その一言でカリーナにあったスイッチがONになったようだ。
「へぇ……そう言うあなたはちょっと苛烈よね。ツンツンしてて近寄りがたいわ。こわぁい」
「っ!」
言い返されたその言葉でキアラのスイッチもONになった。
「馴れ合いが必要かしら?だったら後で付き合っても良いわよ?闘技場で」
「面白そうね。鏡の魔女の力、是非見せてもらいたいわ」
「「っ……!」」
二人の顔は笑っていても両者が放つ言葉は棘しかなく、この空間だけが異彩を放っていた。それに少しだけだがキアラの魔力も興奮のあまり漏れ始めている。何事かと周囲の生徒も彼女たちを見ようとするも、即座に二人に睨まれ慌てて前を向いた。
(……ワイズ様、ごめんなさい)
そして一人フィスは今何かと忙しくなって模擬戦が出来なくなった、好敵手であり雇用主であるワイズに心の中で謝罪したのだった。
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