第9話

「入れ」


「……」


 フィスは自分の横にいた騎士にそう言われ、渋々ミレニア家の屋敷の中に入る。そして連れていかれた場所は部屋の中ではなく何故か訓練場だった。


 ここはミレニア家の騎士が毎日自分たちの主を守るため日々訓練をしているところだが、今日はそこには誰もいなかった。


 そして、


「……」


(なんかいる……いや、何かが張ってある)


 フィスはその中に入った途端、訓練場の上辺り、闘技場で言うところの観客席の方から複数の視線を感じた。よく見ると自分を連れてきたキアラの姿がいつの間にか消えていた。


(成程。魔道具で観客席が隠されているのか)


 しっかりと意識を集中して外に向けてみれば、確かにキアラの視線を感じ取ることができた。そして彼女の近くに複数の人の気配を感じ取った彼は、彼らがキアラの家族と予想付けた。


 それは実際当たりで、なんとミレニア家の当主がキアラの傍で彼を観察していた。


「あれが、フィスと言う少年か……」


「彼は凄いのよお父様!」


「それは前に聞いたからもういい……しかし、成程」


 ミレニア家当主、ベリル・ミレニア。


 代々隣国との国境線を守ってきたこの家は比較的他家よりも戦闘に長けている者が多いが、中でも彼は歴代の当主の中でも一際その強さという面で一線を画している。


 年を重ね50代になり、その実力は落ちてはいるものの未だ前線で戦っているほどだ。彼の全盛期での逸話の中には40人ほどの小隊を率いて隣国の200人ほどいた中隊を壊滅させたと言うものが有名で、一種の伝説になっている。


 そんな彼は今フィスの姿を見て、魔力を感じて、即座に彼の実力を見極めていた。そして彼が知っている中でその実力に当てはまりそうな人物を頭の中で探っていく。


 そうすると一人だけ思い浮かんだ者がいた。


(こいつは……まさか……いや、だが……)


 しかしその可能性を即座に否定する。何故ならその思い浮かんだ者はもう死んでいるはずだからだ。そしてその死に際にベリルは立ち会っていた。


 故にありえない。


(だがこいつの纏う空気と、そして内にあるあの……もしこの少年があの魔術を使ったのなら……あいつの関係者、かもしれないな)


 彼は自身の警戒レベルを一つ引き上げた。もし自身が予想している者に近しかったら……そう考えると否が応でも勝手に身が引き締まる。そんな父親のいつもと違う様子にいち早く気づいた者がいた。


「父上、どうされたのですか?」


「……ん?いや、何でもない」


「そうですか……」


 そしてその横にいるのはミレニア家の長男で次期ミレニア家当主であるワイズ。彼も父親に次ぐ実力者ではあるもののまだ若いが故の技術の粗さがあるため、今は王都の学園に通いながらその腕を磨いている最中である。


 そして今、彼は学園が夏季休暇のため実家に丁度帰っていたためこうして立ち会っている。


 そんな彼だからこそ父親であるベリルの違和感に気づけたし、フィスの持つ得体の知れないものにも気づけた。


「……父上、彼は」


「ワイズ、気付いたか」


「はい。少しだけ」


「ならいい」


 そうしてベリルは彼を見据える。ここで彼を味方にすることができるのか。それを見極めるために。


「しかし……果たしてメリルの言っていたことは本当だったんでしょうか?」


「どういうことだ?」


 と、フィスを静かに観察していたワイズがそうベリルに聞いた。ワイズはフィスに対し確かに得体の知れないものを感じ取っている。だがしかしそれの正体に気づけていない。


 それを察したベリルは獰猛に笑いながら、


「それは私もそうだ。いや、


「父上、どういう事でしょう?」


「今、こうして見て分かった。彼は、凄まじい実力を持っている」


「っ!?」


「今の私じゃあ太刀打ちできないな。はっはっはっ、これはこれは……凄まじい掘り出し物があったものだ」


「父上がそれほど手放しで褒めるなんて……!?彼はそれほどの実力を持っているのですか!?」


「そうだな。もし私の予想が正しければ野放しだったことも分かる。取り敢えず、ちゃんと実力を測ろうではないか────土の魔力ウォールマジック土針マッドニードル


「父上?」


 するとベリルは一人ぽつんと突っ立ったまま微動だにしていないフィスに向けて地面から棘を出すと言う至ってシンプルな魔術を放った。しかし発動する際に外に出る魔力を完全に消し、魔術発生の気配をほぼ完璧に断つと言う、熟練の魔術師にしかできない芸当をやってのけたのだが。


「……っと」


「ほぅ」


 しかしそんな魔術もフィスは地面に流れた魔力の流れを咄嗟に読み、その場に針が出る前に避けた。それに思わず感嘆の溜息を吐いたベリルはここで魔道具越しに話しかけることにした。


「初めまして」


「……どうも」


 フィスは突然声が聞こえてきて驚いて一瞬ビクッとしたが、すぐに声がした方を向く。その行動にベリルは少しだけ眉を上げた。


「認識阻害がかかっているにも拘らず一発で居場所がバレるか。にしても、流石にあれは避けるか」


「えぇ、完全に魔術の気配は消せてなかったんで。それに、三人もいれば気配は濃くなる────なりますよ」


 その言葉遣いにワイズが少しだけ激昂しかけるが、その前にベリルが手を横に出して止めた。そして彼が言った言葉に苦笑いを浮かべながら返す。


「気配を探る、か……常人にはできないことなんだがな」


「そうなんですか?俺……いや、私はこれが普通だと教わりましたが」


「そうか。それと、別に“俺”でも構わんよ」


「ではお言葉に甘えて」


 そう言ったがフィスは少しも警戒を緩めることは無かった。この状況を警戒しない方がおかしいと言うものだ。


 絶対になにかある。彼はそう踏んでいた。


「君のことはメリルから聞いている。どうやら私の騎士を助けてくれたようだな」


「……まぁ成り行きで」


「貴様は、自分がこれからどうなるのか知ったうえで彼らを助けた?」


「……まぁ。どうせ死ぬか戦場送りなのかなって」


「間違いではない。戦場送りに関しては貴様があの場にいた犯罪者を全員殺したせいで一旦見送りになったんだが」


「あ……」


 そこで彼は自分の過ちに気づいた。それでもベリルは続ける。


「そんなことはどうでもいい。私が今注視しているのは君のその有り余る強さについてだ」


「っ……」


 少しだけ空気が引き締まった感じがした。フィスは何も言わず固唾をのんだまま彼の言葉を待った。


 そして少しだけ目を閉じて考えたベリルはゆっくりと目を開け、




「────実力は申し分ない。故に、監視付きでキアラの護衛を任せる。もし一度でも謀反を起こしたその瞬間、貴様を処刑する。いいな?」


「「「「っ!?」」」」


 

 その決定にこの場にいる者全員がそれぞれ驚きを見せたのだった。



─────────────────────────────────────


 ここまでがプロローグ。


 まさかここまで長くなるとは思ってなかった。想定外もいいところ。


 章分けはもっと書きたいと思ってからしようと思ってるんで、どうかフォローして♡とか☆とか、宜しくお願いしまう。

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