第34話
「それでは、今日の講義を終わりにします」
その声が教室中に巡った瞬間、ところどころから気の抜けた声が聞こえてくる。今日は魔術についての理論から始まり、昼過ぎには剣術指南の時間がありそこでほとんどの生徒がしごかれ、そして今、この国の歴史について長々と綴られていたところだ。
そのためこの授業が始まるころには生徒の半数が眠り始めると言う異常事態が起きはじめたほどだ。
しかしこの光景は新入生にはよく見られるもので、まだ二日目だからか、先ほどの歴史の先生もどこか生暖かい目で見ていたほどだ。
これから厳しくなっていくのだが。
「終わったぁ……!」
アイゼが体を伸ばしながら嬉しそうにそう言った。その後ろに座っているフィスは、
「そうだな」
と適当に返しながら既に帰る準備を始めていた。今日はこの後キアラが行きたいと言っていたアクセサリの店に行く予定があるためである。
「そんじゃ!」
しかしそれよりも早くいつの間に準備を終えたアイゼがそう言ってすぐに教室を出ていった。まるで何かに急ぐかのように。
「あぁ、あいつ働いてるんだっけか」
最初疑問に思ったフィスだったが、今日教えてもらった事を思い出す。アイゼは平民であるが故に、この学園に通う分の金を自分で稼いでいる。
学費の半分以上は国が出してくれるが、もう半分は自身で出さないといけない。元々の学費が大きいものなので、平民にとって半分でも十分大きな額なのだ。
その為、この教室にいる平民の何人かはもう教室にはいない。
「お嬢様」
「フィス、それじゃあ行きましょう!」
「はい」
帰る準備を終えたキアラにフィスが声をかける。それに嬉しそうに返事をしたキアラはフィスを連れて教室を出た。
その時、後ろから声をかける人物がいた。カリーナだ。
「キアラ」
「……?何よ、カリーナ」
「私もそれについて行っていい?」
「……何でよ」
「私もそこに行く用事があるからに決まってるじゃない。だったら一緒に行った方がいいでしょう?」
「むぅ……そう言ってまたフィスをかっさらおうと────」
「そんなことするわけないでしょう?あの時のあれは冗談だってば」
「……しょうがないわね。今はそうしといて上げる」
それからキアラは後ろにフィスを連れて仕方なくカリーナと一緒に学園の外に。すると、一人の男性がこちらに近づいて来た。
「お嬢様」
「あ、セイン」
どうやら彼はカリーナの従者のようで、フィスと比べると確かにこの学園に入学できるとは言えないほど年を重ねているように見える。
「紹介するわ。彼の名前はセイン。私の従者よ」
「ご紹介に与りました、セインと申します。キアラ様とその護衛であるフィス、どうぞよろしくお願いします」
「よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
挨拶を終えた彼らはセインを追加した四人で目的地であるアクセサリの店へと向かう。
「お邪魔するわ」
「それじゃあ私たちも」
「そうですね、お嬢様」
店内はやはり貴族向けの店なのか、どこか広々としている上に店内の壁やショーケースに多くの宝石が埋め込まれたアクセサリの数々があった。
その店の中をカリーナとセインは迷わず進んでいき、店員に何かを話すとその店員はすぐに店の奥に引っ込んでいった。
それを傍目で見ていたフィスは、視線をキアラに戻す。
「うーん……こっちの方が魔力の流れがよくなるのかしら……でもそれ以外の性能が微妙になりそうなのよねぇ」
「決まりましたか?」
「微妙だわ。確かにどれもよさげだけど、果たして魔術付与でどれくらい魔術を組み込めるかいまいち分からないわ。店員に聞けばそれが分かるのかしら」
「……私にはわかりかねます」
「ま、そうよね。こんなことするの私ぐらいだし」
魔術付与は、彼女の固有魔術だからこそできるもので、唯一無二だ。そもそも
故に、魔術付与が出来て十分に戦えるキアラは異常と言える。これも才能なのだろう。
「うーん……あ、そうだ」
と、キアラは何か思いついたのか誰にも聞こえないような声で唱える。
「強化術────細視眼」
強化された眼でキアラは目の前のアクセサリを見つめると、そのアクセサリの情報が頭に入ってくる。そして他のアクセサリも一目見て彼女の目から興味が消えた。
「ふぅん……フィス」
「なんでしょう」
「別の所行くわよ」
「カリーナ様に一言伝えますか?」
「いいでしょ別に。もうここにいないし」
それからキアラはカリーナに何も告げることなく店を出て、フィスの案内の元2軒目へと入る。
しかしその店でも彼女が満足するようなアクセサリは見つかることが無かったためすぐに店を出た。
「もういいわ。屋敷に帰りましょう」
「はい」
そうしてキアラたちは貴族街にある屋敷に戻った。何も収穫を得ることが出来ずに。
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