第45話

 ミーアに助けられたフィスたちが周囲が一瞬で焦土と化した光景に固まっていると、これを成した彼女は何も言わずにこの場を去っていった。


「……」


 フィスは一度本気で戦っているからこの光景を生み出せることは知っていたが、ベラリザは初めて見たそれに呆然としていた。


(あれが……冠位魔術士ステラーズの実力……次元が違う。違い過ぎる……!)


 自分も十分強いと思っていた。だがそれ以上の強者に出会った彼女の心は揺れ動いていた。

 対してフィスは、


(今の俺なら勝てる……か?まだ難しいか)


 さっきのミーアの一撃を完全に受けきることはできないと踏んで、どのようにすれば受けないで済むか、そしてあの威力から考えられる彼女の実力と自分の今の実力をしっかりと比べていた。


 あの闘技場で戦った時と比べて、彼女も成長していると。


(苦戦しそうだ、だが─────面白そうだ)


 ここで彼は初めて戦いに“面白さ”を見出し始めていた。それが普通ではないと認識しつつも新しく生まれた欲望に彼は歓喜していた。

 

 今まで何も趣味と言う趣味が無かった彼にとって初めての感覚。戸惑いつつもそれをしっかり自分のものにしていた。


「委員長」


「……なんだ」


「戻りましょう、もう解決したんですから」


「……そうだな。んで、この惨状をどうしようか」


「あ」


 フィスは周りが見えていなかった。

 地面に目を向ければ、そこには黒焦げになった土や草が。これを片付けるのはかなり大変そうである。


(ていうか、土魔術が使えるやつじゃないと無理なんじゃないか?)


「土魔術が使えるやつを呼びましょう」


「いいえ、二人で、やるのよ」


「……は?」


 彼女の無茶ぶりが彼を襲う。フィスは何とかして増援を呼ぼうと画作するも彼女は何も聞かないと言わんばかりに口を閉ざした。

 それで彼は彼女はこのことを隠したいのだと悟る。


 確かに冠位魔術士ステラーズがこの学園に来たとなればそれだけで一大事だ。各所に何言われるか分からないし、きっとあの様子から彼女は無断でここに来たんだろう。


 何故敵の存在を認知できたのか定かではないが、彼女は足早に去っていったことから他の任務を受けていた途中だったかもしれない。


(想像の範疇でしかないけれど、あれほど急いでいたんだったら何かしら事情があったはず……それにきっとここに来たってことは知られたくなかったってのもあったと考えれば……ミーア様を尊重しなければ)


 フィスに指示を出したベラリザは自分も魔術を使いながら証拠隠滅を図ったのだった。


***


「はぁ、はぁ……」


 実を言うと、既に反政府軍は壊滅的状況だった。フィスやキアラの尽力や反政府軍の裏切り者の存在。そして何よりも─────


 ─────


 それが結果として反政府軍の首を絞める結果となった。何より大きかったのは裏切り者による情報漏洩だろう。

 がリスクとリターンを天秤にかけた結果見事協力を申し立て、それが認められたことで調査が更に加速。


 そしてようやく反政府軍のトップの居場所を割り当てた。


 そこに冠位魔術士ステラーズであるミーアは来ていた。


「死ね」


「がっ……!?」


 そして一瞬で反政府軍の本拠地は壊滅的被害を受け、トップもそれに巻き込まれる形で殺されてしまった。色々謎が残る中反政府軍は残党の処理を残し壊滅したのだった。


 ミーアはその一仕事を終えたその帰りに、


「……まだ残っていたの?」


 学園にいた残党を見つけ、今に至る。


 そこまでを国王に報告した彼女は、


「ご苦労」


 と一言だけ受け、謁見室を出た。そして、


「……あの少年、強くなっていたなぁ」


 と呟きながら、雷の速度で王城を出たのだった。


***


「……そう、反政府軍は壊滅したのね」


「はい」


 報告を受けたキアラは溜息を吐く。その表情はどこか嬉し気だった。

 それから前に立つフィスに顔を向けると、


「これで撲滅部隊は解散。通常業務に戻るとするわ」


「はっ」


「……本当に、よかった」


 これで、反政府軍撲滅部隊は事実上の解散。フィスはキアラの執事として今後も彼女の傍にいることになった。


 彼らの胸にはやり切ったと言う達成感と、言い様の無い虚無感に襲われる。やはりどうしても元当主だったベリルを失った事実が彼らの中では大きかった。


「……お父様、私、やり切りました」


「……」


 静かに呟いた彼女のその言葉に、フィスはどうしようもないやるせなさを覚える。ベリルを守り切れなかった後悔が、彼の心を蝕むのだ。


 だがそれでも。


「お嬢様」


「……」


「我々はベリル様の為にも、これ以上の成果を挙げ続けねばなりません」


「……そうね。もうくよくよなんてしてられない─────フィス!」


「はい」


「これからも私の傍で暴れて頂戴!」


「御意」


 彼らはこれからも進み続ける。数々の困難が押し寄せようとも、苦悩と後悔を胸に秘めて進み続ける。

 

 もう彼らの目には、迷いなど無かった─────。




 完。


─────────────────────────────────────


 これにて完結になります。ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!

 それと長らく更新が途絶えてしまって申し訳ございません。とある事情によりかなり萎えていまして……書く意欲が皆無でした。


 ですがなんとか小さい意欲を引き出して今新しい作品を書いている途中なので、是非とも次の作品も読んでもらえると幸いです!


 本当にありがとうございました!


 ではっ!

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冤罪をかけられるも貴族令嬢に拾われた俺。彼女を護衛りながら一緒に暴れます 外狹内広 @Homare0000

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