冤罪をかけられるも貴族令嬢に拾われた俺。彼女を護衛りながら一緒に暴れます

第11話

「何故殺そうとしてるんですか？……と聞いても意味ないですね。理由は大体分かってるんで」

「分かっているのだったら大人しく俺に殺されろ。お前の存在は邪魔でしかない」

「俺を雇っているのは当主様ご本人で、ワイズ様の行動は彼の決定に反しているのですが？」

「ふん。そんなもの後でどうとでも言える。今はお前のような気味の悪い奴がここにいる方が問題だ」

（そうだ……こんなうす気味悪い何かを持っているこいつをここで野放しにはできない……！もうすぐ大規模な戦争が起こるなら猶更だっ……！）

　ワイズは気に入らなかった。このフィスという少年の存在が。

　自分よりも年下のくせに、自分よりも強いと父親であるベリルから認められた。それが彼にとって面白くなかった。

　それに、フィスから感じ取ったその嫌な雰囲気が彼の中にある神経を逆なでしていた。

「俺はあの日警告したはずだぞ────この話に乗るなと。だがお前はその警告に反して受けた。その結果がこれだ」

「そうですか。でも木剣で人は殺せませんよ？もしかして、覚悟がまだ足りないのですか？」

「っ！減らず口を……！やはり貴様はここで殺すっ！」

（……へぇ、まだ青いのか）

　するとワイズはこのままでは埒が明かないと思ったのか、体に無色の魔力を流し自身の体を強化し始める。

　流石ちゃんとしたところで魔術を習っているからか、フィスが使うのよりも幾分か効果は上だったようで無駄になっている魔術が少なかった。

　それにはフィスも流石に驚いて目を見開いていた。

「はあっ！」

「っ」

　数合の打ち合いをしていく中で、少しずつワイズの剣を振る速度が上がっていく。フィスはそれに対応するのに精一杯だった。

（このままだと……）

　フィスは一旦後ろに下がって仕切り直そうとするも、ワイズがそれを許すわけなく、即座に切り込んできた。

「このまま……！貴様を……！」

「……っ」

　押される。徐々に押される。木剣で人は死なないはずなのにそれでも、もしかしたらと思わされる気迫が、今のワイズにはあった。

（まずいな。このままだと例え木剣でも撲殺されてしまう。だったら）

　しかしフィスはすぐに目の前の身体強化の技術を見て盗もうと、観察し始めた。そして自分も身体強化をその場で改良し始める。

　今まで無駄だった部分を削ぎ落して、効率を上げて。

「っ！？それは……！」

　そして自分と同じような身体強化をし始めたフィスを見て、ワイズは少しだけ焦りと恐怖を覚える。

（まさか……こいつ、この一瞬で俺の魔術を盗んだのか！？身体強化とはいえ、ありえない……っ！）

　少しずつ、ワイズが押されていく。それは本来あり得ないことであり、今起こっているこの光景は訓練場にいる騎士も、そしてワイズ本人も想定していなかった。

「っ！」

「む？」

　そこでワイズは一旦鍔迫り合いを止め、後ろに下がった。この時点で訓練場にいた騎士は訓練場にある観客席に避難している。

　そして彼は剣を掴んでいる手を前に突き出し、もう片方の腕をそれに添えて、唱えた。

「津波が迫るような魔力（ウェーブマジック）ッ！」

「っ！？」

　ワイズの体に深い蒼の魔力が纏わり始める。その光景にフィスは少しだけ冷や汗をかいていた。

（訓練場を壊す気かよ……まずいな）

　後の事について一切考えなくなっていたワイズに危機感を覚えたフィスは、仕方なしに自身の魔術を展開することにした。

「いや」

「……なんだと」

　しかしすんでのところでフィスは魔力に色をつけるのを止めた。それを舐められていると思ったワイズは更に魔力を染め始める。

「……ふっ！」

　そうしている間にフィスは無色の魔力で体を強化する。さっき使ったものよりももっと無駄を削ぎ落した、改良された身体強化を使って。

「俺を、舐めるなァ！」

　そう叫んだワイズはその木剣に蒼色の魔力を纏わせ、まるで波に揺られるかのように左右に動いてフィスに接近した。

「大海斬！」

「っ！」

　そして波を纏った剣でフィスに斬りかかろうとした。もしこのまま受ければ、フィスの木剣は粉々になって、諸にワイズの攻撃を喰らって死ぬだろう。

（それは……許容できないっ。だったら……！）

　そこでフィスは剣が自分の肩に迫ってくる直前に、自分の剣を滑らせ、その行く先を逸らした。

「何っ！？」

　そして態勢を崩されたワイズは立て直そうとするが────

「────チェックメイトです」

「っ！？」

　フィスがワイズの首筋に木剣を添える。この瞬間、決着がついた。

「これで、私の勝ちですね。それでは失礼します」

　フィスは呆然として固まったままのワイズに一礼をし、彼の元を離れる。

「……」

　そして騎士もいなくなり一人訓練場に残ったワイズは、少し震えた後大きな咆哮を上げた。

　訓練場をでたフィスは誰かの声が聞こえたと思い後ろを向くが、そこには誰もおらず首を傾げた。

「……ん？気のせいか」

　そう判断し歩き出そうとしたその時、突然木剣がまるで砂のように粉々になってしまった。

「……流石に、あれを耐えるのは無理だったか」

　ガツンガツンと何度も強い衝撃が乗ったのだ、フィスは戦っている最中に壊れるだろうなとは予想していたが、意外と持ったのでもしかしたらとも考えていた。

　しかし、どう頑張っても木剣は木で出来ている為、耐久に関しては言うまでもない。

（これをずっと使おうかなって思ってたけど……流石にちゃんとした奴じゃないとダメか）

　一応フィスには元々使っていた、彼専用とも呼べる剣はあるのだが、それは捕まった際に没収されてしまっていた。

「もうそろそろ剣を買うのもいいかもな」

　そう考えながら、フィスは訓練場を後にしたのだった。

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　ちなみに、フィスが使っていた剣はミレニア家で預かっています。

　あと数日で廃棄する予定です。