第20話
「……」
「……」
カンバがベリルを刺す一時間前。
「……この先にいるんだな」
「恐らくな」
二人の騎士が極秘の任務に就いていた。内容は、
「反政府軍がこのパーティに襲撃を掛けるってのは果たして本当なのか?」
「あぁ、それは間違いない」
「だが、こんな地下に行く必要があるのか?」
「……情報ではこの先に奴らのアジトの一つがあるらしい。早くここを潰さないとまずいことになる」
足早に地下を潜っていく二人。先を歩く騎士は自身の手でも情報を仕入れている為、この先にあると信じて疑わなかった。対して後ろを歩いている騎士はまだ存在を疑っていた。
そして暗い中を進んでいくと、突然
「っ、光だ!」
「……本当にあったのかよ」
「魔術の準備をしろ」
「言われなくともやるさ。強化術」
「強化術」
二人は同時に強化術を使い自身の身体能力を一段階強化する。
「
「
後ろを歩いていた騎士の本職は魔術師であったため、一つ位が上の魔術を使った。
そして前の騎士がハンドサインで手のひらを前に倒す。直後、
「噴火刃!」
手のひらに魔術式が展開され、そこから溶岩で出来た刃が姿を現した。それが出てきただけで周囲の温度が3℃以上上昇し、少しだけ暑くなるが、彼らはこの程度のことは既に慣れ切っていた。
そしてその刃が魔術式から放たれ、反政府軍のアジトと思われる場所へとまるで吸い込まれるように飛んでいった。
直後爆発にも似たような爆音が響くが、それと同時に聞こえてくるであろう悲鳴が聞こえなかった。
「?」
疑問に思った二人は警戒しながら先に進む。そして彼らがそこについて見えたものに、
「「っ!?」」
絶句した。
そこには数多の人の死骸と、更に奥に続くトンネルがあった。その方向は、
「この先はまさか……!」
「急ぐぞ!」
二人はその穴の中へと急いで入って行った。
既に手遅れだということを知らずに。
「カンバてめぇ……!
「っ!」
場所はホール内に戻る。
ベリルが刺されていることを認識したフィスは即座に魔術を使いカンバを殺そうとする。が、いち早く魔術を察知したカンバはすぐにその場を離れるも、彼の頬にかすり傷ができた。
(あの野郎と言いカンバと言い、何故俺の魔術をこうも簡単に避けれる……?)
フィスの魔術は他の魔術とは違って、発動する座標に直接魔術式が展開される場合と、魔術式をフィスのそばに展開して斬撃を飛ばす二種類選べる。そして今展開したのは座標に直接展開するのを使った。その為基本的に避けるとなると予め発動する瞬間を知っていないと避けることができない。
しかしカンバはちらりとフィスを見ただけでいとも容易く避けることができていた。
「お父様っ、お父様!!」
「っ……ぐっ……」
ホール内は既にパニックになっていた。中には王族もいたにも拘らずこのような事が起きてしまったのだ。中の近衛騎士は既に王族の避難を開始させており、フィスはカンバと対峙していた。
さっきまで奏でられていた音楽も、腹の探り合いをしていた貴族らの会話も、スッと鎮まっていた。
「……カンバ、お前どういうつもりだ」
「どういうも何も、最初からこうだったんだよ、俺は」
「……あなた」
「すみませんねぇお嬢様。だがな、これが俺の仕事だ。こうして注目を集めるってのが」
「……なんだと?」
(あの野郎が言ってたことと同じ……まさか他に何か仕組んでいるのか?)
フィスが訝しげにカンバの笑っている顔を見る。中に続々と騎士が入ってきてカンバを囲んでいるが、まだまだ余裕そうだった。
「もうすぐ……我らの悲願が叶う」
「我ら……?他にも仲間がいるんだな」
「あぁ。もうすぐ────来る」
「っ!?離れろッッッ!」
フィスが張っていた探知術に反応があった。それを察知できたのはフィスだけで一瞬騎士らは訝しげに彼を見るもその必死さが伝わったのか、みんなが一斉にその場を離れる。
瞬間。
「「「「「ッッッ!!!」」」」」
地面が突然大きく揺れ、亀裂がホール内に走る。そして大きな音と共に地面が崩壊し、中から赤い鎧を纏った集団が現れた。
────反政府軍だ。
「急いで避難させるんだ!」
「皆さん、こちらに!」
騎士たちが急いで貴族たちを避難させつつ、襲い掛かってくる反政府軍と対峙する。
「死ねっ!」
「っ」
その間フィスはキアラの前に立ち、迫りくるカンバからの攻撃を対処していた。カンバの剣速がどんどんと上がっていく。しかし、その速度に合わせてフィスの剣速も上がっていった。
側から見ればその戦いは普通では辿り着けない領域で、一歩でも近づこうものなら一瞬で巻き込まれる。それほどまでに二人の戦闘は激しさを増していた。
そんな中、
(……お父様)
腕の中で苦しんでいる自分の父親をなんとか治そうと、キアラは自身の魔術を駆使していた。
その時、ゆっくりとベリルの手が動き始め、キアラの頬に添えられる。
「っ!お父様っ!」
そしてうっすらと目を開いたベリルは最後の力を振り絞り、キアラの目を見て、言葉を紡いだ。
「────……すまない。後は、頼んだ……」
「っ!?」
その言葉を最後にキアラの頬にあった腕が、ストン、と地に落ちる。そしてゆっくりと目を閉じ、息を引き取ったのだった。
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