冤罪をかけられるも貴族令嬢に拾われた俺。彼女を護衛りながら一緒に暴れます
外狹内広
第1話
「陛下っ!?こ、これを本当に承認してよろしいのですか!?奴らは一切信用できない、ゴミのような奴らですよ!?」
「……だが、こうすればこの国に巣食う膿を一掃できるだろう。それに、今の国境付近の状況はどうなっているのだ?教えてくれ、サラス将軍」
「……とにかく人手が足りない状況です。食料に関しては幸い何とかなっていますが、兵士の数が足りないせいで押され気味となっています。再来月までこの状況が続けば、恐らくミレニア辺境伯領は占領されてしまうでしょう」
「……っ!?それは事実なのですか!?」
「えぇ。この場で嘘をついて私に、ひいてはこの国にどのような利益があるでしょう?」
「ぐぬぬ……し、しかしこれを行ったとて、奴らが従うかどうか……」
「刑期短縮などを餌にしてつるしておけばいいだろう。まぁ、本当にするかどうかは結果次第だが」
「陛下の言う通り、それでいいかと思われます。これで犯罪者共の扱いは問題ないでしょう。ですが……今日話し合いたいのはこの件ではなく、こちらの件となります」
「……」
そう言いながらサラス将軍と呼ばれた、顔に大きな切傷を携えた男が一枚の紙を取り出し、この国────エルファニア王国の国王と宰相に見せる。そこに書かれていたのは“スラム徴兵”の文字が。
「人手不足解消の案として、将軍の立場から申し上げます。今、手段を選んでいる暇はありません。敵は既にそばまで来ています。故に、ここを防ぎさえすれば一気に攻勢に出ることができます。ですのでとにかく、どこからでも人手が欲しいのです」
「……兵士だけではどうしても戦力が足りぬのか?」
「足りませんね……原因は何なのか、陛下自身、よくお分かりのはずですが?」
「っ!?」
「サラス将軍!これ以上何か言うのなら不敬罪として処するぞ!」
「これはこれは申し訳ございません、ルスカー宰相。今後気を付けますので何卒。陛下、大変申し訳ございませんでした」
「……」
まるで心のこもっていない謝罪を受け取った国王は“……もうよい”としか言えずに難しい表情で黙り込んでしまった。きっと彼の心中には後悔が渦巻いているのだろう。だが今悔やんだとてもう遅い。
蒔いた種は取り返しのつかないところまで成長しているのだから。
「……サラス将軍、兵士の実力を見れば、スラムの奴らなど必要ないと思われるのだが」
「えぇ。本来でしたら問題ありませんでした。ですが、イレギュラーによりそれは大きくズレてしまい、兵士の実力云々で取り戻せないところまで来ているのです」
「……」
「現在の兵士の人数は本来必要だった人数の八割程度です」
「だったら……」
「では陛下は、国民に、そして陛下を支持してくださっている貴族らに“賭けにでるから協力してくれ”とでも言うのですか?」
「……」
その後の話し合いで最終的にスラムの住人全てを兵士として徴兵することが決定され、次の日から各地のスラムにすむ老若男女がミレニア辺境伯領へと強制的に移動させられる事態となった。
しかしこれは元居た兵士たちの存在意義が問われた形となり、兵士らに対して言外に“今の兵士は弱い”と言われたようなもの。
それが彼らのプライドを刺激したのか、国に所属している兵士を中心に批判が相次ぎ、すぐにやめるよう声高らかに抗議したがすでにスラムの住人のおよそ70%ほどが戦場に送り込まれている以上、今更やめるのは難しいとしてその抗議は取り下げられてしまった。
だがそれでも戦況が大きく変わらず人死にが増えるだけになってしまった。
その後、何とか膠着状態にまで持ち込んでから一か月が過ぎた。
「ふぁ……」
ここは、とある路地裏の奥にある路地裏にあるにしては立派な建物。その入り口に立っている灰髪の少年────フィスはとある事情によりこの建物を拠点としている裏社会を取り仕切る組織の一つ、狼剣組のボディーガードを務めていた。
しかしこんなところに尋ねてくるような人などいるはずもなく、いたとしてもそれは狼剣組のボスの知人がほとんどだ。故に、本来ならボディーガードなど必要ない。しかし何故かここのボスは、
『─────ボディーガード必要でしょ!』
と狼剣組の幹部らの意見を押し切り、フィスを無理矢理ボディーガードとして入り口に立たせていたのだった。だが実際フィスがやっている仕事のほとんどはボディーガードとは思えないものばかりだったが。
先ほども言った通り、ここに来るような人などいるはずもなく。
彼はずっと退屈していた。
「……」
だがこの退屈な時間も彼にとって大事な時間だったりする。先日の仕事で疲労した心を少しでも癒すためにも、こんなゆったりとした時間をある程度確保しないといけないのだ。
「……ん?」
とその時、奥から三人ほどこちらに来る気配をフィスは感じ取った。またボスの知人かと思った彼はその感じ取った気配に違和感を覚えた。
こんな路地裏に来るような人が持つ、濃密でどす黒い死の空気を一切感じなかったからだ。
それもそのはず、今この建物に向かっているのは三人の兵士だった。国直属の兵士団に所属している兵士で、ある程度の実力を持った者たち。確かに死の気配は持っているものの、フィスよりも濃くはなく薄かった。
(ボスの知人よりは弱いけど……警戒するに越したことは無い)
その三人が兵士だと全く気が付いていなかったフィスは、その三人が自分が定めた境界線を越えた瞬間侵入者とみなすことにした。
自分はここを守るボディーガードで、その役目を今日久々に果たすために。
そして三人が境界線を越えた直後────
「……消えた?」
まるでスッとその三人の気配が忽然と消えたのだ。普通気配が消えるのは魔術で気配を消したときか、それとも────死んだときか。
(まさか三人が一気に殺された……?一応確認しに行こう)
フィスは一旦この場を離れ、気配が消えた場所へと向かった。警戒しながら進んでいくと、突如意識外から矢が飛んできた。
「っ!?」
(この気配は……っ!まさか嵌められた……!?)
矢が放たれた方向を確認しても既に誰もおらず、立ち止まった彼の足元には、
「……っ」
────────三人の兵士の死体が転がっていた。
「急いで離れないと────チッ、魔術か……!」
奥から更に数人がこちらに来る気配を感じ取ったフィスは急いでこの場を離れようとするも、まるで足が固まったかのように動かなかった。
今彼の所に向かってきている気配は足元に転がっている死体と似たようなもので、もし見つかってしまえばめんどくさいことになってしまう。
だがそんな状況においても彼は冷静だった。
「────
自身が唯一使える魔術で足元の魔術に送られている魔力の線を断つ。そして体が自由になった彼が即座にこの場を離れた。
もし彼が初めからここに来なければ、運命はまた変わっただろう。
しかし興味本位でここに来てしまったがために、もう彼の運命が狂い始めてしまった。
その事に彼が気付くのはもうしばらくあとになってからだった。
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