第37話

 豊作と言われているこの年だが、一年生の間では既に派閥が生まれていた。


 まずはキアラ派。


 彼女を中心とした派閥は主に強くなりたいと思っている一年生徒が大半で、派閥の幹部争いなどは起こっていない。理由は単純でフィスの存在があるからである。

 彼女と懇意になりたいと思ってもその前にフィスがいる。キアラが彼に向ける信頼は傍から見ても大きいものだとまざまざと感じさせられてしまう。その為、辺境伯という権力に縋ろうとした弱小貴族はあえなく去っていったのだ。


 次にカリーナ派。

 この派閥は彼女だけでなく兄のシェルの派閥だと言えるため、正確にはカリーナ派ではなくドメイン派と呼んでも差し支えないだろう。

 カリーナがみせたあの魔術に魅入られたものと、ドメイン家という権力に惹かれたものが主にこの派閥に集っている。


 最後にレインハルト派。

 主に最初に上げた二つの派閥からあぶれた者たちが自然とレインハルトを担ぎ上げた派閥で、本人にはそんな意思がないにも関わらず出来上がった派閥だ。

 これは他の二つとかなり敵対している。権力欲しさに近寄ったのに得る者が無く逃げ出した者たちでできた派閥であるが故に、完全に逆恨みなのだが。


 そう言う訳なので、キアラ派とカリーナ派の生徒は仲が良い。いや、共通の敵がいるから協力関係にあるとも取れる。


 そんな関係にあるのなら衝突だって何度も起こりその度にレインハルト派の生徒が負けそうであるが、レインハルト派にはこの二つの派閥にはない特徴があった。

 それは─────


「謝れよ!おい!」


「この人数を相手にすんのか!?」


「……めんど」


 圧倒的な人数差である。レインハルト派を名乗る生徒は一年生全体のうち半分以上を占めており、キアラ派とカリーナ派と、無派閥の生徒の人数を合わせても彼らより少ないのだ。


 その為、例え一人ひとりが弱くとも群れていればこのように強く出ることができるのだ。


 それをフィスは目の前で見せつけられていた。


「早く謝れ!」


「……」


 今フィスの目の前には五人の生徒がおり、一人の生徒がフィスにぶつかったとして難癖をつけてきたのだ。


(あれだけでこれほど怒るかよ……ガキか。あ、ガキか)


 フィスの目がどんどん死んでいく。呆れてものが言えないとはまさにこのことだった。


「決闘だ!」


「おう」


 まるでその言葉を待っていたかのようにすぐに返事をしたフィスは、その足で闘技場へと向かう。その様子を見ていた五人組はいきなり返事をされて固まってしまっていたが、すぐに後を追った。







「─────そこまで!」


「あざした」


「くっ……!」


「まさか五人一斉に襲っても勝てないなんて……!」


(ま、こんなもんだろ)


 フィスはこの五人に対して驚異的な何かを感じておらず、負けることは無いだろうと踏んでいてその通りになった。

 倒れた五人をそのままにして審判を務めてくれた先生に礼をすると、そのまま闘技場を降りる。と、


「やぁ」


「ネオ先輩」


 まるでフィスを待っていたかのようにそこにいたネオは笑みを浮かべながら近づいていく。


(胡散臭いなぁ)


 フィスはそう思いつつ彼が近づいてくるのを止めなかった。前に止めようとしても無視して近づいてきたことで言っても無駄だと悟ったからである。


「で、考えてくれた?」


「お断りしますといったはずですが」


「いいじゃないか、キアラさんと一緒に入ってくれよ」


「……キアラ様は生徒会に勧誘されているのでは?」


「兼任すればいい!」


「馬鹿ですか先輩。あ」


「わざとでしょ、それ。わかってるよ」


 あはは、と笑いながらフィスの肩を組んだネオは顔を近づける。なまじ顔が良いせいかその一つ一つ行動が絵になっていた。


「どうだい?君の経歴に箔が付くよ?そしたらキアラさんも鼻が高くなるんじゃないかな」


「そうするとキアラ様の従者としての仕事に支障をきたす可能性があります。それはキアラ様も私も、そしてミレニア家も本意ではありません。ですので─────」


「因みに言ってなかったけど、キアラさんには既に話は通してある。と言うか彼女自身風紀委員会に入る気満々だったけど?」


「……はぁ」


(いつの間に……まさかここに来る前に話をつけてきたのか?面倒な)


 徐々に逃げ道を塞がれたフィスはもう逃げきれないと悟ったのか、静かに溜息を吐いたのだった。


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