第41話 コンコンの刺客

 私たちの前に現れた、コンコン司祭からの二人の刺客。

 精鋭騎士ってことは、かなり強いのか。


「さっさと宝玉を渡せば、死なずに済んだのに。バカな連中」


 女がクスクスと笑う。


「串刺しになりな!!」


 女の視線が私たちから逸れた。

 どこを見ているんだ? 後ろ?


「わっ!! さっきの矢が!!」


 かわしたはずの大量の矢が、こっちに戻って飛んできている。

 すかさず、シャロンが杖を振った。


「マグネティックフォース!!」


 そ、そうか。磁力操作で矢を止めるんだ。

 矢が私たちに刺さる前に停止する。たくさんあった矢は次々と消えていき、一本だけが残される。


「これは……」


 矢はシャロンの磁力操作を振り払い、女の手に戻った。


「ふーん、やるじゃん」


「神具ですか。物を生み出す聖女によって製造された武器」


 通信具の武器バージョンってことか。

 無数に増えて自在に操れる矢か……。なんとまあ面倒な。


 カップルの男の方がニタニタ笑う。


「コンコン司祭精鋭騎士の力、思い知れ!!」


 男が懐からなにかを取り出そうとしたとき、


「……んあ? 思いし……ん? なんか、やる気でないな……」


「絶眼の力を思い知ったか」


 ルミナが高速で接近し、手刀で胸を貫いた。


「な、な……」


「いまの俺は、敵意そのものをふっ飛ばす」


 一方、女の方も、


「ぬぎゃあああ!!!!」


 空中を飛ぶナイフに両手を切断され、絶叫していた。

 シャロンの魔法か。


「これで矢を飛ばせませんね」


「うぐぅ……」


「殺しませんよ。知っていることは全部話してもらいます」


「わ、私たちを倒したくらいで……」


 瞬間、甲板の下から、逃げたはずの老夫婦が飛び出してきた。

 こいつらも刺客だったの!?


 二人とも鉤爪やメリケンサックを装着し、私に殴りかかってきている。


「ムクロ!!」


「平気!! えんえんごくひょうにゃ!!」


 老人二人の体温を急上昇させる。

 たった数度だけど充分。熱中症を発症して、二人はパタリと倒れてしまった。

 死にはしないよね? おじいちゃんおばあちゃんだけど、騎士なんでしょ? 一応。


「なーんだ、あっけないじゃん。なにが精鋭騎士だっての」


「油断大敵です。まだ船にいるかもしれません。一人一人は弱くとも、決して気を抜けない敵ですよ」


「そ、そっか」


 こいつら、私たちの行動を呼んで先回りしてたんだよね。

 にしても、コンコン司祭は何を企んでいるんだろう。

 宝玉が無くなることよりも、確実に手に入れることを優先していたし。


 まあいいや、シャロンが生け捕りにしたやつに吐かせよう。


「な、なあムクロ」


「なに? ビム」


「俺たちの家族、大丈夫かな。たぶん司祭様、人質にするつもりだぞ」


「うーんとね、たぶん大丈夫」


「ど、どうして?」


「港町にいたときね、シャロンに言われたんだ。私は嘘が下手だって」


 そのとき思ったのだ。

 コンコン司祭が私の嘘を見抜いていたらどうしようって。


 きっと、家族を引き合いに出してくる。

 だから、宝玉を剣にしてもらうために武器屋へ行く前に、通話したのだ。


「頼んだから」


「誰に?」


 チラリとシャロンの方を見る。 

 駆けつけてきた船員たちに事情を説明している。


 この会話、聞かれてなさそうだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ムクロとビムの故郷、キウイス。


 メールー教ベル派が所有する塔の一室に、コンコンはいた。


「最後まで利用されていれば良いものを、あいつら……」


 そこへ、下級の騎士が息を荒げながら入ってきた。


「何事じゃ」


「ほ、報告します」


「ムクロとジムビムの家族は?」


「そ、それが、捕獲を試みたところ、何者かに阻止されました」


「なんじゃと!?」


「両名の家族は、彼らと共に都市の外へ逃げてしまいました」


「い、いったい誰が!? ムクロの仲間は全員船の上じゃろうが!!」


 騎士は言葉に詰まり、必死に答えを導き出そうと脳を回転させ始めた。

 大勢の騎士を送り込んだのに、まったく歯が立たなかった事実。

 他の騎士でも、魔族でもない。

 あいつらは、誰だ……。


「俺たちですよ」


 ゆっくりと、男が入ってきた。

 黒髪の、爽やかな顔をした好青年。


 まさか、とコンコンが呟いた。


「スヴァルトピレン」


 青年、フォーゲルが微笑んだ。


「どうも。ムクロちゃんに頼まれまして、しばらく二人の家族を保護することになりました。大した報酬が提示されていないので、できれば無駄な殺しはしたくありません。なので、俺たちに手を出さないようお願いします」


「バカな……。良いのか? ワシは知っている、お前たちの雇い主、マリアンヌを狂わせた者の正体を!!」


「シャロンちゃん、でしたっけ」


「し、知ってて……」


「それはそれ、これはこれですから。では……」


「ま、待て!! 言い値を払う。ワシにつけ」


「すみません。人数不足で、しばらく依頼は一つに絞っているんですよ」


 そう言うなり、フォーゲルが疑似異能によって霊体となって、部屋から消えてしまった。


 コンコンの握られた拳が、震えだす。


「どいつもこいつも……。ワシの配下どもに伝えろ!! ムクロ・キューリスと仲間たちを速やかに殺害し、宝玉を回収するのじゃ!!」


「は、はい!!」


「あの玉は、ワシの、ワシのものじゃ……」

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