第21話 祝福祭・表(2)
「あんたらさ、金さえ貰えたら何だって殺すんでしょ? 虐殺とかしてるらしいじゃん」
私の問に、スヴァルトピレンのリーダーが答えた。
「しているね」
「なんで? 殺しが好きなの?」
おい、とルミナが私を呼んだ。
お喋りしている場合じゃないって?
わかってる。でも気になっちゃったんだもん。
私には到底理解できない人間性。
こいつらがどんなヤツらなのか、知りたくなった。
だって意味不明じゃん。わざわざ人に恨まれる仕事をするなんて。
それに、もし本当に殺しが好きだから、なんて答えたら、私は絶対に我慢できない。
差し違えてでもシャロンの前に連れ出す。
「どうなのよ」
「うーん、殺しが好きなわけじゃないし、殺し屋のつもりもないんだけどな。一応、傭兵を名乗っているわけで、金にならない殺しはしないし」
「なんでこんな仕事してるの? マリアンヌの命令?」
「いいや。マリアンヌ嬢はただの『お得意先』さ。なんで傭兵をしているか、か……。うーん、ガキのころスヴァルトピレンに拾われて、仕事を手伝うようになって、気づいたら現在の隊長に任命されて……。なんでって言われてもな……なるようになったから?」
「金が欲しいなら、もっと他の仕事あるでしょ。強いんだから」
「たしかに。そこまで言われると……たしかにそうだ。けど、まあ、一応俺を育てて暮れた恩があるし、他にやりたいこともない」
「嫌じゃないの? 罪もない人を殺すときとかさ」
「別に。あぁ、でも、可哀想だよね」
こいつ、わけわからん。
心とかないのか?
なんか、金に執着しているようにも感じないし。
まるで壁と話している気分だ。
ローガの方を見やる。
「あんたはどうなのよ。なんでスヴァルトピレンなんかやってんのよ」
「あ? なんでもいいだろうがよ」
「よくない!!」
「ちっ、だりぃな。鍛えたパワーを振るいたい、たったそれだけだガキ」
逆にこいつはわかりやすいな。
ローガが背負っていた斧を取る。
「隊長、急ごうぜ」
「ん? うん、そうだね。少しお腹が減ってきたし」
「俺に任せろ。隊長が戦うまでもない」
「わかった。じゃあそろそろ……そこの子供殺して、宝玉を回収しよう」
ローガがルミナに突っ込んだ。
速いっ!! でも、ルミナには、
「絶眼!!」
紫色に変色した瞳の力で、ローガをふっ飛ばす。
絶眼に映るあらゆる『害』は、ルミナから遠ざかるのだ。
「ほう、絶眼か。てことは魔王の一族だな」
「ムクロ!! 二人でデカいのを殺るぞ!!」
それしかないね。
「ふん、しゃらくせえ。異能発動!!」
え、異能!?
異能って、聖女だけの力じゃないの!?
ローガの隣に、巨大な化け物が召喚された。
灰色の肌、四本の足、大きな耳、長い鼻、二本の牙。
「ゾウさん!?」
「ガキ、よーく覚えてから死ね。俺はな、この異能で敵を捩じ伏せたいから戦う。それしか大事なものはねえ!!」
「典型的な戦闘バカ」
「ちげぇな、蹂躙バカだ。行け、女を踏み殺せ!!」
ゾウさんがパオンと鳴きながら走ってきた。
あーもー、マジマジマジ?? ゾウさんって……。
ええい、やってやる。
「えんえんごくひょうにゃ・熱風!!」
ゾウさんは熱など気にもとめず距離を詰めてくる。
うっそ〜ん、人間なら火傷する熱さのはずなのに。
ゾウさんの突進を回避して、
「氷塊爆弾!!」
を食らわせる。
さすがに、痛みで怯んだようだ。
すぐにまた突っ込んで来たんだけど。
一方、ルミナは防戦一方だった。
ローガの、体格の割に素早い動きに翻弄されている。
何度も背後を取られては、斧攻撃を回避するので精一杯なようだ。
くそ、ルミナの絶眼は視界に入っている害しか排除できない。死角からの攻撃には弱いんだ。
「ぱおーん!!」
こっちものんびりしてられない。
くっそ〜、動物好きだからあんまり酷いことしたくないんだけど。
「しゃあない!!」
ゾウさんが突っ込んでくる。
間一髪回避すると、私は地面に熱風を放ち、高く上昇した。
そのままゾウさんの背中に着地する。
「うわ、暴れるな!!」
空気を凍らせ、私の足とゾウさんの背中を氷でくっつける。
これで落ちないはず。
熱で氷を溶かして、頭に向かってよじ登り、落ちそうになったら氷で耐える。
それを繰り返し、私はゾウさんの頭部に辿り着いた。
そして、
「ごめん!!」
大きくて丸い目玉を、高熱で破裂させた。
あまりの痛みと、目を潰された恐怖で、ゾウさんが暴れまわる。
私は背中から降りると、ローガを見やった。
「ほう、なかなかやるな」
「ルミナ、大丈夫?」
マズイ、ルミナの腹から血が出ている。
真っ二つにされなくても、切られたんだ。
しかも、かなり傷が深そう。
「ちっ、不覚をとった」
私が、ローガをやるしかない。
「感謝しろガキ、この俺がわざわざ殺してやるんだからな!!」
ローガの隣に、もう一匹のゾウさんが現れた。
「えぇ……」
「一匹しか出せねえなんて言ってないぜ?」
「いくつになってもゾウさんが好きなんだね。男の子ってそういうもんなの?」
こんなとき、闇堕ちパワーをコントロールできたなら、生き物なら問答無用で爆発させられるのに。
こうなったら……。
「ルミナ逃げよう!!」
「逃してもらえるわけねえだろ」
「もうこんな玉、いらないよ!!」
透明な玉を明後日の方向へぶん投げる。
ローガもフォーゲルも「うおっ」と驚いて、玉を目で追っている。
いまだ!!
「行こう、ルミナ」
フォーゲルが高く跳躍し、飛んでいく玉をキャッチした。
玉が手に入ったからだろう。二人は追ってこない。
なんとかビムのいる場所までたどり着き、
「だ、大丈夫かルミナ!!」
「とにかくどっかの宿に行こう、ビム」
馬で街を駆け抜けた。
「でムクロ、宝玉は?」
「実は……」
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※ここから三人称です。
玉を手に入れたフォーゲルのもとに、エルヴとヴレーデが合流する。
「終わったよ、帰ろう」
「……ん? 隊長、それ」
「なに? エルヴ」
「溶けてませんか?」
「…………ほんとだ、氷だこれ」
そう、玉はムクロが生み出した氷の塊であった。
上手いこと、宝玉に似せたのである。
エルヴが大仰にため息をついた。
「ほんとだ、じゃないんですよ!! 触った瞬間気づきません? 普通」
「なんか冷たいなーとは思ったけど。は、はは、やっちゃった」
「まったく、いつも肝心なところで天然発動するんですから。どうしてあなたが隊長に任命されたんだか」
「め、めんぼくないです」
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