第22話 祝福祭・裏

※前回までのあらすじ


復讐のためムクロたちのパーティーを離れたシャロン。


一方、同じ街に来ていたムクロたちは、シャロンを探しながら『ケフィシアの宝玉』を奪取するタイミングを伺う。

最強の戦闘集団『スヴァルトピレン』と激突し、間一髪宝玉を手に入れるのであった。


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 ムクロたちが墓地にいたころ。


 シャロンは一人、大聖堂側の塔を目指していた。

 勇者たちは祝福祭を楽しんでいる。お腹が痛いと言えば、簡単に抜け出すことができた。


 塔の警備は、驚くほどに杜撰であった。

 翌日まで続く祭りの初日で、警備兵たちは浮かれていた。

 本来の職務をサボる者が、少なからず存在するのである。


 とはいえ、正面から入るつもりはない。


 大聖堂と塔は、雑草生い茂る空き地を背にしている。

 忍び込むならこちらからである。


 シャロンは裏手に周り、杖を高くかざした。

 杖には、鉄が仕込んであった。


 磁力操作の魔法を用いれば、杖に掴まり空を飛ぶこともできる。

 これで五階まで昇り、窓から侵入するのである。


 さっそく魔法を発動しようとした、そのとき、


「もっと冷静な女かと思ったが、案外無鉄砲だな」


 背後に、レクフルへートが現れた。

 ボサボサの髪をした、スヴァルトピレンの一人。

 マリアンヌの護衛についていた男である。


「なにか?」


「なにか、じゃねえよ。マリアンヌを狙ってんだろ?」


「言いがかりはよしてください」


「この俺が殺気に気づかねえわけねえだろ。めんどくせえ。てめぇがマリアンヌに会った時に漏らした殺気、ビンビン伝わってたぜ」


「……ふ、ふふふ、さすがは、スヴァルトピレンですね」


「ほう、知ってんのか」


 知らないわけがない。

 一〇年前に仲間を虐殺した凶悪な組織。あれから現在に至るまで、ずっと彼らについて調べてきたのだ。


 全員の名前までは把握していないが、何名かの名前はわかる。


「てかよ、残念だがマリアンヌは塔にいないぜ。めんどくせえけど、信頼できる宿に移ってもらった。てめえみたいなのがいるからな」


「……そうですか」


「お前、何者だ」


 シャロンの肉体に変化が生じる。

 背中の痣が帯状に全身に行き渡り、瞳が赤く変色する。


 レクフルヘートはその痣の模様を目にすると、眉をひそめた。


「カフノーチ族? そうか、お前、あのときのガキか!!」


「マリアンヌがいないなら、あなたでもいい」


「よくもまあノコノコと……」


「まだ何人かこの街にいるのでしょう? まさかあなた達までいるなんて驚きましたが、全員殺します。スヴァルトピレンは、誰一人として生かしてはおけない」


「はっ!! 復讐かよ。めんどくせえ」


「めんどくさい? 人を殺すとき、あなたは他に何も思わないんですか」


「思わねーよ。毎回毎回、俺の手を煩わせるなってイライラしているぜ。とくにカフノーチ族をぶっ殺す仕事のときはそうだった。めんどくせえ、めんどくさすぎた。どうせ勝てねえんだから、さっさと自殺してほしかったぜ」


 明らかに、シャロンの纏う怒気が増した。


「クズが」


「はん!! やる気満々だな、返り討ちにしてやるよ」


 レクフルへートがシャロンを指さす。

 ハッと、シャロンが横へ逃げると、彼女がいた場所が爆発した。


「疑似異能」


「へえ、詳しいな」


「本来、異能は聖女の力。神話の時代、女神メールーが原初の聖女ケフィシアに神の力を授けてから、女性のみに発現する。しかし」


 極稀に、異能の源となる無尽蔵のエネルギー、『聖なる力』が男に宿ることがある。

 身体能力が高まる程度の影響しか起こらないが、使いこなすことで擬似的な異能を生み出すことができる。


 それが、疑似異能。

 ローガがゾウを召喚したのも、それである。


「こいよ」


「ちっ」


 シャロンが懐から数本の針を投げた。


「マグネティックフォース!!」


 磁力操作によって、針は四方からレクフルへートを襲う。


「バカが」


 針を腕の力だけで薙ぎ払うと、高速でシャロンへ接近する。


「っ!?」


 レクフルへートが殴りかかる。

 シャロンは杖をギュッと握って空へ逃げた。


 と、レクフルへートの指先が、シャロンへ向けられた。


「しまっ!!」


 空中に爆発が起こる。

 指で示した空間を爆破する。

 それがレクフルへートの疑似異能。


爆発エルドヘャルタ』である。


 シャロンが地に落ちた。


「ふん、ギリギリ仕留められなかったか」


「くっ」


「まあ、次で死ぬんだけど」


 再度、指を向ける。

 だが、


「なっ」


 レクフルへートの背中に、数本の針が刺さった。

 先ほど払ったはずの針が、魔法でまた動き出し、今度こそ彼を刺したのだ。


「ちっ、めんどくせえ。だが惜しかったな。もっと剣や槍が豊富にあるような場所だったら、俺を殺せたかもしれないのに。ここにあるのはてめえの針くらい」


「だから、他の魔法も覚えたんですよ」


 シャロンの杖に、電気が蓄積されていく。

 バチバチと鳴り、青白い光を放つ。


「死ねええ!!!!」

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