第26話 作戦会議・裏 スヴァルトピレン

※キャラ紹介・スヴァルトピレン編


・フォーゲル リーダー、天然だが心がない。

・エルヴ メガネの女性。真面目で怒りっぽい。フォーゲルが好き。

・ローガ 大柄な男。力で敵を蹂躙することが大好き。

・ヴレーデ 狂信的なメールー教信者。マリアンヌを崇拝している。


・デュード 顔を隠した無口の女性。勇者パーティーに潜入中


・レクフルへート シャロンとの戦闘で死亡した。


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 シャロンが目を覚ます少し前。

 ジュネチナのとある廃墟に、スヴァルトピレンが集まっていた。


 部屋の中心でヴレーデが瞑想をしており、彼を囲むようにフォーゲル、エルヴ、ローガ、そしてスパイ活動中のデュードが揃っていた。


 フォーゲルが問う。


「どうだヴレーデ。ヤツらはいるか?」


「いいや、私の虫に門、地下道に至るまで、街から出るためのすべてのルートを見張らせているが、見当たらない」


 ローガが舌打ちをした。


「街中済まなく探せねえのかよ」


「無茶を言うな!! 私の疑似異能とて、召喚できる虫に限りがある」


「あっそ。てことはあのガキども、まだ街にいるわけだ」


「深い傷を負った仲間の回復を待っているのだろう。小賢しい魔族どもめ、必ず見つけ出して殺してやる!!」


 意気込むヴレーデを横目に、エルヴが呟いた。


「それにしても、あのレクフルヘートがやられるなんて」


「だから私がマリアンヌ様の護衛につくと言ったのに」


「ヴレーデは捜索に集中してください」


「ちっ」


「……隊長、どうしましょう。マリアンヌ様は無事ですが、厄介な暗殺者まで出てきたとなると」


 救いを求めるようにフォーゲルを見やる。

 レクフルヘートが死んだことは、すでに全員周知していた。


 その死体も、殺害現場も確認済みである。


「レクフルヘートは面倒臭がりですが、戦いにおいては慎重な男です。彼を倒せる者など、限られているはずです」


「そうだな。上級の魔族か、特殊な異能を持った聖女だろう。現場を見るに、敵もかなり負傷している。二人以上で挑めば倒せない相手ではなさそうだが」


「何者なのでしょうか」


「うーん」


 と、そのとき。


「心当たりがあるのだ」


 仮面の女、デュードが口を開いた。

 彼女の声を聞いて、ローガが腰を抜かす。


「お前喋れたのか」


「ついこの間、勇者パーティーにシャモモンという女が入ったのだ。そいつ、勇者と一緒にマリアンヌ様と会ったとき、一瞬殺気を漏らしていたのだ」


「そいつはいまどこに?」


「わからないのだ。昨晩の祭りの最中に抜け出したのだ。もしかしたらパーティーに戻っているかもだけど」


「……どんなヤツだった?」


「長い黒髪の女なのだ」


「どうやってパーティーに入ったんだ?」


「もともと勇者の知り合いだったらしいのだ。選考会で顔を合わせたとか」


「勇者パーティー選考会か。確かベル派の都市キウイスで行われていたな」


「あと、勇者はそいつと、闇堕ち聖女の話をしていたのだ。仲間だったみたいなのだ」


「闇堕ち聖女?」


 ハッと、エルヴが目を見開く。


「会いました。グーレの街で。男の子の魔族と一緒でした。彼らからワルワル団の下っ端を奪ったのです」


「男の子の魔族……昨日、ローガが戦ったあいつらか。エルヴ、なんで報告しなかった」


「すみません。彼らはワルワル団自体に用があるようでしたので、無関係かと」


「なるほど」


「ということは、マリアンヌ様暗殺未遂は、囮なのでしょうか。私たちを撹乱するための」


「いや、たぶん本当に暗殺するつもりだったのだろう。……マリアンヌ嬢を殺すこと、宝玉を手に入れること、この二つがヤツらの目的。……ローガ」


 突然名前を呼ばれて、ローガは大きな巨体をビクッと震えさせた。


「関所に向かってくれないか?」


「いいけど、理由は?」


「たしか例の闇堕ち聖女は逮捕されていたはずだ。それが平然と外にいて、ケフィシアの宝玉を欲しがっている。おそらく、ベル派の司祭が絡んでいる。宝玉を回収すれば牢獄行きは勘弁してやる、とでも言われたのだろう」


「ほーん、それで?」


「とはいえ、闇堕ち人間と魔族の子供だけで旅をさせるわけがない。必ずメールー教側の騎士がいて、そいつは司祭公認の渡航許可証も所持しているはずだ。旅先でいろいろ融通が効くからな」


「ほほう」


「まず関所で必ず提示している。記録を引っ張り出すんだ。もしヤツらが関所で宿泊先の手配まで済ませているなら、居場所もわかる」


「関所で宿の手配なんかできるのかよ」


「普通はできない。けど昨日は年に一度のお祭りだろ?」


 VIPクラスが飛び入りで祝福祭に参加することを見越して、高級ホテルのいくつかは予め部屋を開けておく。

 さらに宿泊先へスムーズにチェックインできるように、関所にて該当ホテルと経路を案内し、特別宿泊券を渡すのだ。


 そのやり取りが、記録されているはずである。


「司祭公認の旅人なら文句なくVIP扱いだ」


「ほー、なるほど」


「仮に関所で手続きをしていなくても、十中八九都心部の高級ホテルに宿泊しているだろう」


「どうしてわかるんだ?」


「格安になるんだよ。司祭公認の渡航許可証があれば。……これでおおよその所在地は掴めるはずだ」


「けどよ、警戒して安宿にいるかもしれないぜ?」


「好都合だ。子供の魔族二人は目立つからな、必ず誰かしら覚えている。金で情報が買えるだろ?」


「了解。んじゃ行ってくるぜ。なんかわかったら通信具で連絡する」


「頼むよ」


 ローガが一瞬にしていなくなる。

 居場所さえ判明すれば、あとは総攻撃をしかけて宝玉を奪い返すだけだ。


 二人の会話を聞いていたエルヴの頬が、うっすら赤くなる。


(隊長……ステキ……)


 ここぞという時には的確な指示を出す。フォーゲルの隊長らしい振る舞いが、エルヴの乙女心をくすぐる。


 エルヴにとってスヴァルトピレンで活動する理由はただ一つ。

 フォーゲルを支えるためである。

 小さい頃からの付き合いで、頼りないけどかっこいい男のために、人を殺しているのだ。


「さて、マリアンヌ嬢の旅支度も住む頃だろう。そっちの警護も考えないとな」


「フォーゲル、それが……」


「なんだエルヴ」


「マリアンヌ様、今日までこの街に泊まるそうです」


「なんで?」


「ほら、今日は……」


「……あぁ、あの日か」


「はい」


 マリアンヌは年に一度、誰とも接触せずに部屋に引きこもる日がある。

 中で何をしているか、誰も知らない。


「うーん、タイミングが悪いなあ。しょうがない、敵がレクフルヘートにホテルの場所を喋らせている可能性があるし、別名義でホテルを移るようお願いしてくれ」


「了解しました」


 エルヴは通信具を取り出すと、マリアンヌの側近に通話をかけた。

 一応、マリアンヌは今回の暗殺未遂も、レクフルへートが殺害されたことも知っている。

 その上で、まだジュナチネに留まるつもりなのだ。


「はい、はい、承知しました」


「どうだった?」


「フォーゲル隊長、マリアンヌ様からのメッセージを伝えます」


「?」


「『一般人に迷惑が掛からないよう、今夜は大聖堂の隣の塔に泊まる』」


「え」


「『そして、暗殺未遂の犯人を生きたまま捕らえて、連れてくるように』とのことです」


「えぇ〜」


 警護よりも手間のかかる仕事である。

 ただでさえ複雑な状況を打開しようよ画策している最中に、とんだ命令を下されて、フォーゲルはぐったりとうなだれた。


「マジ?」


「マジです。マリアンヌ様は心当たりがあるのでしょうか。犯人に」


 明らかに、マリアンヌは暗殺者に会いたがっている。

 しかも割と丁寧に扱うつもりだ。


「たぶんね。もし犯人が、闇堕ち聖女たちと合流してホテルにいるならしんどいな。一人は生け捕りにして他は殺し、宝玉を奪わなくちゃいけないんだろう? はぁ……さすがにしんどいって」


「すでに彼らは、マリアンヌ様を殺すためにホテル・スワンナへ向かった可能性もありますね」


「そうだな……」


 指先をアゴに添えて、フォーゲルは長考した。

 ただ宝玉を手に入れるだけの任務が、とんだ大仕事になってしまった。

 とはいえ、お得意先のマリアンヌに失望されるのは、できれば避けたい。


「一箇所に誘き出そう。……デュード、一旦勇者パーティーに戻ってくれ。そのあと、パーティーにいるベル派のスパイに聞こえるよう、俺と通話するんだ。十中八九、ベル派のスパイは闇堕ち聖女らと繋がっている」


「わかったのだ」


「マリアンヌ嬢は塔に移った。スヴァルトピレンは宝玉回収を最優先し、全員でホテルに奇襲をかける。ってことにする。きっとベル派のスパイが暗殺者に伝えるだろう」


 暗殺者どもは逆に好機とみなし、警備が手薄になる塔へ向かうはず。


 敵の動きを誘導する罠である。

 実際はスヴァルトピレンは塔で待機し、返り討ちにするのだ。


「もちろん、ローガが宿泊先を特定したら、念の為に俺が一人で確かめに行く。罠に掛からないかもしれないし、宝玉を守るため、誰かしら残っている可能性があるからな。いないようなら、すぐに合流するよ」


「上手くいけば一網打尽。宝玉回収とマリアンヌ様の命令、どっちも完遂できるのだ」


「そういうこと」


 しかし、とエルヴが不安げに問いかける。


「一人で大丈夫ですか? 隊長」


「たとえホテルに全員揃っていても、俺ならどうにかなるよ。とうぜん、お前たちにはこっちに合流するように通信具で連絡するけどさ」


 エルヴが頷く。

 スヴァルトピレンのメンバーのなかで、彼女だけが唯一、フォーゲルの擬似異能を知っている。


 彼なら大丈夫。

 囲まれても死にはしない。

 こちらが合流するまで、敵を足止めできる確信がある。


「ささ、動き出そう。めんどくせえけど、スヴァルトピレン、出動だ」


「ふふ、レクフルへートの真似ですか」


「うん。あいつのためにもしっかり稼ごう」

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