第27話 再戦

 私たちはホテルを出て、マリアンヌがいるであろう塔へ向かった。

 祭りのあとだから街はそこら中にゴミが散らばっていて、昼間なのに泥酔している人もチラホラいた。


 昨夜の騒ぎが嘘であるかのように、どこも静かだ。

 みんな疲れているんだろう。


 とはいえ、私とルミナの赤い目は目立つので、フード付きのローブで目元を隠しながら歩く。


「塔の周りは厳重に警備されているはずです。誰か囮になってくれると嬉しいのですが……ルミナくん、頼めますか?」


「いいけど、俺は逃げ回ったりしないぜ? 立ち向かう騎士は全員殺しちゃうけど」


「そ、それはかなりやり過ぎですね。狙いはあくまでマリアンヌですので」


 なーんかルミナがイキってる。

 勝率悪いのにね。強いのは認めるけど。


「私がやるよ。ルミナはシャロンと一緒に塔に入ったほうがいいよ。狭い通路の方が、絶眼の弱点も補えるでしょ?」


「わかりました。無茶だけはしないでくださいね」


「がってん承知!! でも、どうやって引きつければいいかな? 騒ぐとか?」


「そうですねえ。少し寄り道しましょうか」


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 私は一人、物陰から塔の様子を伺っていた。

 やっぱり騎士がたくさんいる。

 警戒しているんだ、暗殺者を。


 それはつまり、間違いなくあそこにマリアンヌがいるということ。


「ふー、緊張してきた」


 次の瞬間、塔から少し離れた場所から爆発音が轟いてきた。


 慌てた様子のビムが、警備をしている騎士に叫ぶ。


「ま、魔族だ!!」


 警備兵たちが一斉に向かっていく。

 よし、計画通り。

 あの爆発は、ここに来る前に手に入れた『爆竹』によるもの。


 何ヶ所かに設置していて、時間差で爆発するのだ。


 で、騎士の格好をしているビムが、警備兵のフリをして連中を誘導したわけ。


 でも、ここからが本題。

 ルミナの予想なら、まだいるはずだ、どこかに。


「ムクロ、行きます」


 塔の裏手に回り込み、ドキドキしながら近づく。

 すると、


「小賢しい策を弄しますね」


 聖堂の屋上から、メガネ女エルヴと、ゴリマッチョのローガが降りてきた。

 やっぱりいたよ、スヴァルトピレン。


「あなた一人ですか?」


「エルヴ、きっとこいつも囮だぜ」


「ローガ、ここは任せます」


 このままエルヴを行かせるわけにはいかない。


「いいの? 二人で私の相手をしなくて」


 懐から、宝玉を取り出した。

 今度は氷の球じゃない。正真正銘、本物だ。


「宝玉、ほしいんでしょ?」


「それを利用してまで、マリアンヌ様を殺したいのですか? 理解不能ですね」


 ローガがエルヴに告げる。


「二人でさっさと殺っちまおうぜ、どうせ塔にはヴレーデとデュードがいる。あいつなら大丈夫だ。それに、隊長だってこっちに向かってるさ」


「そうですね。宝玉回収に専念しましょう」


 私が、一人でこいつらを足止めする。

 正直不安でいっぱいだけど、やってやる。

 半分闇堕ち聖女を舐めるなよ!!


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※ここから三人称です。




 一方、シャロンとルミナは既に塔内に侵入していた。

 シャロンの磁力操作で遥か上空から攻めたのだ。

 ルミナもシャロンに捕まる形で塔の屋上に降下。

 気配を殺し、周囲を確認する。


 聖堂の屋上にいたエルヴとローブがムクロに気づいた段階で、屋上扉から侵入したのである。


 五階まで降りたところで、二人の前にスヴァルトピレンが立ち塞がった。


 細身の男ヴレーデと、マスクで顔を隠した女デュード。


 ヴレーデが告げる。


「そこの長い髪の女は通す。デュードが案内する」


 シャロンの思考が硬直する。

 通す? 会わせるというのか、マリアンヌに。

 これも罠? 分断させて一人ずつ殺すための。


 レクフルヘートに吐かせた情報によれば、あと一人いるのは間違いない。


「忌々しいが、大聖女マリアンヌ様が話がしたいそうだ」


 どうするか、ここで戦闘をしている時間はない。

 さっさとマリアンヌを殺し、全員で離脱するのだ。


 ムクロが二人を足止めしてくれている。

 ルミナがここで一人を。


 残るはデュードと、おそらくフォーゲル。


 二人。ギリギリ相手にできる人数。


 ならば罠だとしても、進むしかない。


「シャロン、行け。一人の方が俺も戦いやすい」


「ご武運を」


 わけもわからぬまま、シャロンが歩み出す。

 ヴレーデとすれ違おうとした、そのとき、


「ぬぐぅ!! やはり許さん!! 下賎な者がマリアンヌ様に会うなど」


 ヴレーデが手刀を振り上げた。

 しかし、


「おい」


 ルミナが超高速で接近する。

 彼の握った拳が直撃する寸前で、ヴレーデは腕を掴んだ。


「お前の相手は俺だろ」


「女は傷つけるなと命じられているが、貴様らは殺せとの指示だ!! 殺されたいなら、望み通りにしてやるぞ穢らわしい魔族め!!」

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