第28話 魔神 対 疑似異能

 エルヴと、斧を持ったローガが突っ込んできた。

 速い。まともに回避しても間に合わない。


 なら。


「くらえ、氷バリア!!」


 二人の眼前に氷の壁が出現する。

 私の新技だ。空気を凍らせて、氷のバリアを生み出すのだ。


「じゃかあしい!!」


 ローガの斧が壁を真っ二つにした。

 エルヴも旋回し、再度私に接近してくる。


「さっさと死ねクソガキ!!」


 まずいまずいまずい。

 えーい、最終手段だ!!


「宝玉!!」


「!?」


 二人の動きが止まった。

 宝玉を持つ私の手が、ビリビリと痛む。


「一歩でも近づいたら、これで殺す」


「使えるんですか? あなた程度に」


「ムカッ!! 使えなかったら壊す!!」


「壊せるんですか? あなた如きに」


 この女ムカつく。

 どうする。たぶんこのこう着状態も長く続かない。


 本当に発動してみる?

 試してみようかな。


「おとなしくケフィシアの宝玉を渡せば、あなただけは生かしておきますよ」


「むっ、私がそんな提案に乗ると思うの?」


「賢ければ」


「だいたい、あんたらこれがどんなもんか知ってんの?」


 望めば嫌いなやつらを全員殺せる力を持つ、禍々しい宝玉だけど。


「えぇ、もちろん。ですがそれを回収して勇者に渡す。それがマリアンヌ様からの依頼。それ以上もそれ以下もありません」


「もし、勇者がすべての魔族とか、気に食わないヤツの死を望んだら? あんたらだって巻き込まれるかもよ」


 私の真剣な質問に、ローガは欠伸で応えた。

 まるでつまらない授業を聞いているかのような、退屈で、イライラしている顔だった。


「んなこたぁどうだっていいんだよ。俺たちは傭兵。そして俺は、人をボコした満足感と、ついでに金を得る。他のことなんか道端に落ちた鳥のクソみてぇにくだらねえ」


「くだらない? どこが?」


「いいからさっさと渡せ、殺すぞ」


 こいつら、嫌いだ。

 自分勝手で無責任。

 仕事だかなんだか知らないけど、自分さえ良ければなんでもいいのかよ。


 こんなヤツらが、シャロンを不幸にしたなんて到底許せない。

 マリアンヌが死んだら次はこいつらだ。


 イライラする。

 体が熱い。


 決めた。宝玉なんか使わない。

 私の力でボコボコにしてやる。


 いいや、ボコボコじゃ気が済まない。








 ぶち殺す。







 瞬間、私の中の昂りが最高潮に達した。

 ボーッとする。なのに、心地良い。


「くく、じゃあ二度と働けないようにしてやるよ」


 二人がたじろいだ。


「な、なんですか、急に威圧感が……」


「あー、久々にスッキリしてる。イライラを通り越したこの感じ、くくく、さあ選べ。どっちから死にたい?」


「くっ」


 女が突っ込んできた。

 ザコが。それしか芸がないのかよ。


「消えろ……。煉炎極氷怨贄れんえんごくひょうおんにえ


 女の体温を著しく高め、破裂させてやった。

 血と肉片があたりに散らばる。


「ふはははは!!!! まずは一人。次はお前だ、デカブツ!!」


「なんだ……こいつ……」


「どうしたんだよ、さっきまでの威勢の良さ……ん?」


 女の肉片が動いている。

 磁石で引き寄せられているかのように集まって、再生していく。


 あぁ、確かシャロンから教えてもらったな。

 女の異能は文字通り『再生』。不死の力だと。


 エルヴの肉体は瞬く間に修復され、生き返った。


「はぁ……はぁ……い、いったいなにが? 私は、なにをされたんです!?」


「破裂させても死なないか……どうしよう、これじゃ打つ手が……なんてな、んじゃ凍ってろよ、ザコ」


「まっ!!」


 エルヴを周囲の空気ごと凍結させる。

 別に肉体は損傷していないから、再生でどうにかなることもない。


「ちっ、擬似異能!!」


 ローガが二匹のゾウを召喚した。

 だからなんだよ、小賢しい。


「死ね」


 ローガも破裂させてやる。

 だが、


「ん?」


 しない。

 代わりにゾウが一匹消えただけだ。


 もう一度試すが、やはりゾウが消えるだけ。


「切り殺してやる!!」


 ローガが突進しながら斧を振る。

 さっきは速く映ったけれど、いまの私にはなんてことない。

 老人の体操みたいにのんびりだ。


「あ、当たらねえ!!」


「ノロマが」


 蹴り飛ばしてやる。


「ぐえっ!! くそ、擬似異能!!」


 またゾウを出した。

 面倒だな。

 なんで破裂しないのか。


「なるほど、ゾウがダメージを肩代わりするのか」


「お前の異能じゃ俺は殺せねえ!!」


「アホかお前は」


 体温上昇を二度使う。

 当然、二匹のゾウが消える。


「これで誰も肩代わりしてくれないな」


「な、ま、待て!!」


「いまさら命乞いかよ、みっともねえな、スヴァルトピレンさんよお!!」


「ぐっ……」


「はははは!!!! 祝福祭二日目!! 真っ赤な花火を披露してやる」


 死ね、そう念じようとした瞬間。


「根性おおおおおっっ!!」


 突然、ローガの後方からビムが走ってきて、大きな石で彼の後頭部をぶっ叩いた。

 油断していたところをダイレクトにくらい、ローガはぶっ倒れてしまった。


「ビム……」


「だ、大丈夫かムクロ!!」


「……へへ、めちゃくちゃ大丈夫だったよ」


「え? そうなの?」


 ビムのやつ、私が心配で来てくれたんだ。

 そっか、私を守るとか言ってたもんね。

 

 なんだろう。

 胸がポカポカする。


 あらら、力が抜けてきた。


「私、殺しちゃった?」


「いや、気絶しているだけだ。それにしても……」


 ビムがエルヴの方を見やった。

 カチコチに凍っているエルヴと、地面を染める彼女の血。

 どう見ても、ただ事ではない。


「これ、ムクロがやったのか?」


「うん。でも生きてるよ。へへへ、だから言ったじゃん。私、強いって」


「た、確かに……。で、どうする? 立てそうか?」


「もう少し休めば」


 なんか、頭がぼーっとした後って無性に疲れるんだよね。


「シャロンと合流したいけど、ローガそいつ目を覚ましちゃうかもしれないし、エルヴの氷も溶けちゃうかも。ビムだけでも行ってきてよ」


「バカ言うな。いまのお前を放っておけるか。待っていよう、ルミナとシャロンさんなら、絶対に大丈夫だ」


 そうだよね。

 ごめんシャロン、最後まで力になれなくて。

 けど、スヴァルトピレンを二人も倒したんだから……ちょっと休憩させて。




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※あとがき

生きるって辛いことばかりですね。

応援よろしくおねがいします。

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