宝玉・シャロンの復讐編

第14話 他にはない

 グーレの街に到着するのは明日になるだろう。

 てなわけで、私達は川辺で一休みをすることにした。


 急いだってしょうがないしね。馬車の馬たちにも休憩が必要だし。


「見ろムクロ!! 大物!! 大物釣り上げたぞ!!」


「すっごーい!! ビム天才!! 釣り名人!!」


「いやあ、はは、それほどでも。へへ」


「おーい!! ルミナもこっち来て釣りしようよ〜」


 と誘ってみたものの、「やらない」と一蹴されてしまった。

 寝転んでぼーっと空を眺めているけど、なにが楽しいんだろう。


 一方ビムは釣った魚をカゴに入れて、針に新しい餌をつけはじめていた。


 真剣で、楽しんでいる横顔。

 知っている顔のはずなのに、今日はなんだか少し違う。

 大人っぽくなった?


 男の子って、一年で結構変わるものなのかな。


「ねえビム」


「なに?」


「シャロンのこと好きでしょ」


「えっ!? な、なにを言い出すんだ突然!!」


「だってさ、ビムが好きなタイプって『私と正反対』な人なんでしょ? じゃあシャロンじゃん。身長もあるしスタイルもいいし、頭も良いし、落ち着きがあるし」


「ま、まあそうだな」


「じゃあ好きなの?」


「い、いや別に……俺は……」


 ビムってば、顔が赤くなってる。

 図星だったんだな。わかりやすいやつめ。

 なんだか寂しい気もするけど、応援するしかない。


「俺は……」


「ビムくんの嘘かもしれませんね」


「ぬわあ!! シャロンさん!! 突然出てこないでくださいよ!!」


「ふふふ、楽しそうな話をしていたので」


 いまの話を聞いていたのなら、シャロンはビムの気持ちを知ったってこと?

 いきなり急展開。どうしよう、私が寝ているときこっそりイチャイチャしていたら。

 さすがに気まずいかも。


「ムクロさん、たぶんビムくんの好みのタイプは、私じゃないと思いますよ」


「へ? そうなの? ビム、私に嘘ついたの?」


 ビムは明らかに動揺して、視線を泳がしはじめた。


「だ、だから、その……俺は……」


「どうなの?」


「う、うぅ……ルミナ〜、剣の稽古つきあってくれよ〜」


 あ、逃げた。

 結局真相は闇の中じゃん。

 まあいいか、ゆっくり解き明かしていけば。


 ビムが置いていった釣り竿を拾い、釣りを続ける。

 すると、ポケットに入っていた薄い鉄の板が振動し始めた。


「わわ!! なに!?」


「落ち着いてください。コンコン司祭様から借りている通信神具ですよ」


「あ、そうだった」


 通信神具、略して通信具を取り出して、親指の腹で軽く触れる。

 それに反応し、板からコンコン司祭の声が発せられた。


『ムクロか』


「あ、どうも」


『調子はどうじゃ』


「仲間が一人加わりました」


『仲間? どんなやつじゃ』


「えっと……」


 ジロリとシャロンが私を睨む。

 わかってるって。ルミナが魔王の子供だってのは内緒なんでしょ。


「家出少年です」


『家出……。だ、大丈夫なのかそいつ』


「報告するのはそんくらいかなあ」


『そうか、まあ旅は始まったばかりじゃからな。さてムクロ、こちらから一つ伝えておくことがある』


「はい?」


『勇者が六人パーティーで出発したことは知っておるな?』


 たしか、選考会で選んだやつに加えて、聖女マリアンヌからの使いと、コンコン司祭の使いが混じったパーティーだったはず。


『あの勇者め、気に食わんやつを次々クビにしておるのじゃ』


「クソムカつくヤツだったし、むしろクビ切られてよかったんじゃないすかあ? そいつら」


『よかないわい!! 現在判明しているのは勇者と、マリアンヌの手下、そしてワシの部下の三人じゃ』


「少な」


『もしもの場合、お前たちには速やかに合流しパーティーに加わってもらうぞ』


「えぇ〜、ヤダ!!」


『ヤダじゃない!! いいか、ヤツらは野暮用で遠回りして、【都市ジュナチネ】に向かっておる。いつでも加入できるように、近からず遠からずの位置で旅を続けるのじゃぞ』


「考えときまーす」


『こ、このガキは……。よいか、都市ジュナチネじゃからな!!』


 あ、通話が切れた。


「勇者も大変みたいだね」


「大変なのは、彼の仲間たちでしょうけど」


 ふとビムの方を見れば、ルミナ相手に剣を振っていた。

 あっけなくかわされて殴られているけれど、諦めずに立ち向かっている。

 ルミナ、稽古に付き合っているなんて優しいじゃん。


 二人の稽古を眺めていると、シャロンが呟いた。


「のどかですね」


「うん」


「こんなに楽しい旅は、生まれて初めてです」


「そうなの?」


「はい。私はこれまで、復讐相手の情報を得るために、嘘をついてたくさんの人に取り入り、騙して、脅して、傷つけて、ときには……。そんな旅ばかりしてきましたから」


「そっかあ」


 いろいろあったんだなあ。

 人生経験豊富って感じするもん。


「ですがこのパーティーにいると、正直でいられる気がします」


「えぇ〜」


「な、なにか?」


「だってシャロン、イジワルな嘘ばっかりつくじゃん」


「……ふふ、すみません。ムクロさんを見ていると、つい揶揄いたくなってしまうのです」


「私、もう騙されないからね!!」


「そうですか。まあ私も、もう嘘はつけないんですけど」


「なんで?」


「そういう呪いなんです。次に嘘をついたら、魔法が使えなくなってしまいます」


「ええ!?」


「ちなみに嘘です」


「……」


「騙されちゃいましたね」


「右ストレートっ!!」


「ふふふ、痛いです」


 まったくシャロンってば。

 いつか絶対見返してやる。


「こんな日々が、ずっと続けばいいですね」


「うん!!」


 頷いたけど、それは無理だと思う。

 これから先、危ない橋を渡りまくるだろうし。

 けど、私達が力を合わせれば、絶対どうにかなる気がする。


 違うな。気がするじゃない。絶対にどうにかなるのだ。


「シャロンも、復讐を果たせるといいね」


「えぇ……。そのために生きていますし」


「他に夢とかないの? 趣味とか」


「ないですね」


 即答された。

 復讐だけの人生、か……。

 同情するけど、なんだか悲しいな。


「じゃあ、一緒に見つけようね」


「え?」


「復讐と同じくらい大事なもの」


「……」


 シャロンはニコリと微笑むだけで、何も答えてくれなかった。

 もし、憎い仇を殺したら、シャロンはどうするんだろう。

 どっか行っちゃうのかな。それだけは嫌だな。


 ビムに負けないくらい、私だってシャロンが好きだから。

 私とは正反対で、優しいけどイジワルなお姉さんみたいなシャロンが。





 グーレの街まで、あと少し。


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※あとがき


新章です。

そろそろ本格的に殺し合ってもらおうと思います。


よろしくお願いしますっ!!

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