第8話 ピックス兄弟とルミナ

 村長の家で軽く食事をしてから、私たちは月がてっぺんに登るまで仮眠を取ることにした。

 魔族たちは、月が傾き始めたころに来るらしい。


 そして、


「村長、やつらが来ました!!」


 私たちはすぐに外へと飛び出した。


「オラァ!! 聖女を出せ!!」


 村にやってきたのは緑色の肌をした大柄の男と、線の細い男。

 どちらも目が赤い。正真正銘、魔族だ。


 何故か細い方が牛の生首を持っているけど、たぶん、この村で飼われている牛だろう。


「聖女をよこせばもうこの村には来ねえって約束してやるよ。けけけ」


「さもなくば、この牛みてえにお前らの首を引きちぎるぞ!!」


 なんという典型的な小悪党。

 牛を殺して死体を弄びやがって。

 私はシャロンとビムに目配せし、彼らの前に出た。


「聖女ならここにもいるよ。元だけど」


「あ〜ん? なんだてめえら。俺たちピックス兄弟に喧嘩売るってのか?」


「慈悲の心でチャンスを上げる。大人しく引き下がって二度と村に来ないと誓ってよ。でないと、ガチでボコす」


「てめえ魔族だろ。人間の味方をするってのか? 聖女を殺せば魔王様が喜んでくれる、褒美を貰えるんだぞ?」


「知らないよ。で、どうするの? 言っとくけど、私たち強いよ」


 ピックス兄弟がヒソヒソと相談しはじめた。

 どっちが兄なんだろう。たぶん大柄の方かな。


 ひょろっちい弟(たぶん)がクククと喉を鳴らした。


「なるほどな、そうとうな闇の力を感じる。くく、念の為あの人を呼んでおいてよかったぜ。なあ兄者」


「おう、弟よ。……ルミナさん!! 出番です!!」


 兄が名前を読んだ瞬間、上空から何者かが降下してきた。

 小柄で、私より小さい人間型の魔族。青い髪、真っ白な肌。そして、刃のように鋭い眼光。


 ただものじゃない。そんな気がする。

 こいつが纏う嫌な感じ、ピックス兄弟の比じゃない。


「ムクロさん、気を引き締めてください。ピックス兄弟は最下級クラスですが、彼はおそらく、中級以上」


「やっぱり?」


 ルミナと呼ばれた魔族が、私たち一人ひとりに視線を向けた。


「ふん、強い騎士と戦えるかもって言うから来てみれば、俺が相手するまでもないな」


「そこをなんとか、ルミナさん!!」


「まあいいさ、どうせ暇だったし」


 ビムが震える手で剣を抜いた。


「ど、どどどどどうすんだ。俺たちで勝てるのか?」


「ムクロさん、ビムくん、散り散りになりましょう。できるだけ人気ひとけがないところへ。ピックス兄弟は弱いです。先に彼らを片付けて、三人であの背の低い魔族と戦います」


「な、なるほど。わ、わかった。じゃ、じゃあ誰がルミナとかいうのを引き付けるんだ?」


 そんなの、決まってんじゃん。

 ビムには無理だろうし、シャロンか私。

 ていうか、シャロンかな。強い魔法持ってるもんね。


 と提案しようとしたとき、


「おい、そこの女」


 ルミナが私を指さした。


「なに?」


「騎士の男は戦士だから、殺す。デカい女は魔法使いだろ? 手合わせしたあと、殺す。けどお前は貧弱な低俗魔族。生かしておいてやるよ。殺す気にもならない」


「……あ?」


「俺ってさ、戦士か強いやつとしか戦わない主義なんだよね。修行にもならない勝負は時間の無駄だろ」


「……」


 ピックス兄弟が便乗する。


「へへへ、そうっすよねえルミナさん。元聖女だかなんだか知らねえけど、てめえじゃ勝負にもなりゃしねえっすよね」


「おらそこのガキ、大人しくママのおっぱいでも吸っているか、トイレでガクガク震えながら仲間が食われるのを待っていたほうがいいぜ」


「俺たちの仲間になるってなら? 性奴隷として生かしてやるけどよ、ギャハハハ!!!!」


 ビムとシャロンが私の名前を連呼する。

 やめとけよ、みたいな。落ち着いて、みたいな口調で。

 うーん、ごめん。無理。


「弱いやつほどよく喋るってやつだね」


 ルミナが眉をひそめた。


「は? 俺とお前の実力の差がわかんないのか?」


「あんたこそ知らないの? 能ある鷹は爪を隠すって言葉。あ〜、頭悪そうだもんね」


 全身がゾクゾクする。

 ルミナの殺気だ。へへ、体は正直ってやつで、すんごく嫌な汗が背中を走ってる。

 でも引く気はないね。ぜっっっっっっったいにギャフンと言わせてやる。


「お前、なぶり殺しにしてやるよ」


「さっきから口ばっか動かしてるけどさ、本当はビビってんじゃない? チビだし」


「……後悔して死ね」


「かかってきなよ。ビム、シャロン。あのチビは、私が倒す!!」





 一斉に走り出して、村長の家から距離を取る。

 目論見通り、魔族たちはそれぞれ私たちを追いかけてきた。


 私は村の外れの広場で立ち止まった。

 もちろん、ルミナとかいう男も。


「場所の変更を許したのは言い訳されたくないからだぜ。他の人が気になった、なんてつまんないこと言うんじゃねえぞ」


「まーだお喋り。やっぱりビビってるんだ」


「バラバラにして豚の餌にしてやる」


「とその前にちょっと質問」


「は?」


「ケフィシアの宝玉って知ってる?」


「なんだそれ」


「知らないならいいや」


 ビムやシャロンたちは残りの兄弟を倒してくれるはず。

 倒せるかな。大丈夫だよね。特にビム、信じてるよ。







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※あとがき


メスガキvsオスガキ 世紀の大決戦!!


応援よろしくお願いします。

次回は三人称です。

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