第9話 ビムの根性、シャロンの奥義

※今回は三人称です。




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 ビムと大柄のピックス兄は適当な畑の上で対峙した。

 運良く、作物の収穫が済んでいるので、足元を気にする必要はない。


 ビムはドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、ガチガチに震えた手で剣を握る。


「こ、来い!!」


「あ〜ん? 震えてるじゃねえかよへっぽこ。まるで捨てられた子犬みてえだぜ」


「お、俺はメールー教専属騎士団スピリッツの一人、ジムビムだ!! お、お前なんか、俺が倒してやる!!」


「はっ、いい度胸だな。残念だが弟と違って俺は純粋な魔族。人間如きのパワーじゃ勝てねえぞ!!」


 兄が突っ込んでくる。

 巨体の割にかなり速い。魔族の身体能力は人間を軽く凌駕するのだ。


 カウンターを狙うビムであったが、


「か、体が……」


 ビビって完全に硬直してしまっていた。


「おら!!」


 兄の突進でジムビムは吹き飛ばされてしまう。


「ぐあっ」


 痛い。全身の骨が、内臓が悲鳴を上げるような衝撃。

 涙まで出てくる。


 正直なところ、ジムビムは騎士団のなかでも低レベルの剣士であった。

 体格も、筋力も、運動神経も悪くないのに、ここぞというときに力が発揮できないタイプなのである。


 人を襲う魔族を倒すのは騎士の役目だが、彼はまだ、一匹たりとも倒したことがない。


「く、くそぉ」


「がははは!! 弱い!! 弱すぎるぜお前!! よく騎士になれたなあ。いや、よく騎士になろうと思ったな」


 そんなこと、これまで何回も言われてきた。

 けれど、ビムは一度だって騎士になったことを後悔してはいない。

 ムクロが聖女の学校を卒業し、一人前の聖女として正式に地方へ派遣されるとわかったとき、胸に誓ったのだ。


 ムクロを守る騎士になると。


「た、確かに俺は、へっぽこだ」


「自覚してたのかよ」


「でもな、でも……。根性だけは世界一だああああ!!!!」


 再度剣を握り、走り出す。


「バカが、返り討ちにしてやるよ」


 兄の太い足がジムビムを襲う。

 横腹への直撃。村の彼方まで蹴り飛ばされるか。

 いや、


「なに!?」


 ジムビムは根性で兄の足を掴み、奥へ押し、


「わっ」


 バランスを崩して倒れた兄の胸部を、剣で貫いた。


「バ、バカな……」


「はぁ、はぁ」


 ジムビム、根性で勝ち取った初の勝利である。


「い、いやった、ぜ!!」


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 一方、シャロンは牛舎の近くで弟と向かい合っていた。


「けけ、女を殺すのはたまんねえぜ。俺が一番好きな殺しだ」


「その口ぶりだと、何人も殺めてきたようですね」


「とくに年頃の女をな。女の肉がこの世で最も美味えからなあ!! 焼いて煮て、生でも美味いし文句なしだぜぇ!!」


「そうですか。残念ですけど今回死ぬのはあなたですよ」


 シャロンが杖を振る。


「マグネティックフォース」


 杖から、赤い光が放たれる。

 魔法を発動したのだ。


 マグネティックフォースはシャロンお得意の磁力操作の魔法。

 その効果範囲は約五〇メートル。

 牛舎のなかに収められていた桑やカマが、一斉にシャロンの周囲に集合する。


「なに!?」


「すみません。磁力を操るので。では、死んでください。ゲス野郎」


「ひぃ!!」


 あらゆる農具が一斉に弟を襲う。

 そのとき、


「ま、待て!! 良いのか、俺を殺して」


「はい?」


 農具がピタリと止まった。


「俺は元人間だ。闇落ちしているがな。しかし、人間だった頃の仲間と今も交流がある」


「と、いいますと?」


「俺は、メールー教ロンド派お抱えの最強戦闘集団『スヴァルトピレン』のメンバーだぜ? 俺に手を出せば、仲間たちがお前を殺す。お前だけじゃねえ、お前の仲間、家族を皆殺しにするだろうよ」


「……」


「知っているだろう? 『カフノーチ族を虐殺した』あの事件を。てめえの家族も同じ目に遭うぞ? 俺を見逃せば、許してやる」


「……」


「信じてねえな。見ろ、この青色宝石のペンダント。スヴァルトピレンの証だぜ」


「……」


「だ、黙ってねえでなんとか言えよ!!」


 シャロンの視線が地面を見つめる。

 蚊の羽音のようなか細い声で、呟いた。


「せめて埋葬できるよう、死体を残してやるつもりだったのに」


「な、なんだって?」


 シャロンの息が荒くなる。

 彼女が纏う闇の力が、増していく。


 同時に、肉体にも変化が現れた。

 背中の紋様から伸びた黒い帯が、全身へと走る。

 瞳が、鮮血の如き緋色へ染まっていく。


 あまりの異変に、弟は腰を抜かして小便を漏らした。


「な、なななな、なんだこいつ!!」


「青色のペンダントは、功績を上げた『普通の騎士』に送られるものです。どこで拾ったか知りませんが、勘違いしてるようですね」


「な、なんだお前、そのオーラ、中級以上の……」


「それと、あなた如きゴミクズではスヴァルトピレンになれるわけがないですよ。面識すらないのでしょう。……これまでそうやって嘘をついて、ピンチを乗り切っていたのですね、情けない」


「あ、うわぁ……」


「ですが、私の前で彼らを名乗る以上……塵一つ残さない」


 シャロンの杖がバチバチと鳴る。

 青白い電流が、一点に集中している。


「た、助けてくれ!! ほ、本当は人間なんか食べてない!! 悪いこともしてない!! 無理やり闇堕ちさせられて……」


「最後の最後まで嘘ですか。……冥土の土産に私から一つ教えておいてあげます」


「へ?」


「私がその、カフノーチ族です」


 そして、


「失せろ、ザコが。……サンダーフォース!!」


 杖から放たれた電撃が、轟音と共に弟を飲み込んだ。

 シャロンは本気になれば磁力を超え、電気を操れるのだ。

 

 弟は宣言通り、塵一つ残さず、消滅した。


「くっ」


 フラつき、シャロンは座り込む。

 全身に刻まれた痣が引き、瞳も、元の緑色へ戻っていく。


「つい、ムキになって、力を使いすぎちゃいました」


 魔法は便利で強力だが、燃費が悪い。


「とうぶん動けませんね。……ムクロさん、無事だといいんですけど」




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※あとがき


今回大活躍をしたシャロンちゃんの紹介ページです。

https://kakuyomu.jp/users/ikuiku-kaiou/news/16818023212619568811


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