第10話 魔神再臨

 遠くから落雷のような轟音が聞こえてきた。

 なんだかよくわからないけど、ビムたちは無事だろうか。


「よそ見かよ」


 ルミナが突っ込んできた。

 速いっ!!


「異能発動!!」


 私の力はまだ人を殺せない。

 物であれば温度を一〇〇度操作することはできるが、生き物の体温は何故か五度前後が限界なのだ。


 コントロールできていないから、っぽいけど、ぶっちゃけ五度も変われば充分。


「熱中症になれ!!」


 異能を発動したのに、ルミナの突進は止まらない。

 まるで何事もなかったかのように接近して、手刀を伸ばしてきた。


「うわっ」


 間一髪回避して、拳を握る。

 闇堕ちの影響か知らないけど、いまの私は少しだけ腕力が強くなっているんだ。

 か弱い女の子のパンチだと侮るなよ。


 顔面に、右ストレートを決めてやる。


「くらえ!!」


「ふん」


 そのとき、ルミナの赤い瞳が、紫色に変色した。

 そして、


「ぐえっ!!」


 私の体が、ものすごい勢いで後方に飛ばされたのだ。

 背中から地面に落ちて、後頭部まで打ってしまった。

 痛い、けどすぐに立ち上がらなくては。


「何なのよ、もう」


「ほらどうした。さっきまでの威勢の良さは」


「ちっ、舐めんなよー」


 試してみるか、必殺技。

 実はこっそり編み出していた新しい攻撃手段。


「喰らえ、熱波!!」


 一〇〇度近くまで熱した空気を、相手に飛ばすのだ!!

 焼け死ぬことはないにしても、大やけどは負うはず。

 なのに、


「……あれ?」


 ちゃんと空気を温めて発射したはずなのに、どうしてルミナは平然としているんだ?

 魔族だから? いや、魔族だって熱いものは熱いはず。


「また目が紫色になってる……」


「へえ、気づいたんだ。まあ、これくらい気づくか」


「その目に秘密があるの?」


「いいぜ、教えてやるよ」


 妖しく煌めく紫色の瞳を僅かに細め、ルミナが語りだす。


絶眼ぜつがん。あらゆる害を拒む『拒絶の目』それが俺の切り札さ」


「?」


「俺の視界に入るすべての攻撃は、この目によって弾かれる。魔法だろうがなんだろうがな」


 だから、殴りかかろうとした私が吹っ飛んだのか。


「でも、私の異能に姿形なんかないでしょ。見えないんじゃ効果ないはずじゃない」


「この目は普通じゃ見れないものも映すのさ。自然現象でも、魔力でも」


「異能は魔法じゃないじゃん……あ」


 そういえば習った記憶がある。

 異能は、神から授かりし御業。『聖なる力』が収束して発動するって。

 えっと、だから、つまり。


「俺には、異能がはっきり色として視認できる。お前が俺に向けて発動した異能も見えていた。そして、聖なる力が俺に届く前に拒絶したんだよ。わかったか」


「わからん!!」


「は?」


「よくわからんが、だいたい理解した!!」


「ちっ、こんなバカと戦うハメになるなんてな」


 とにかく、視界に入らなきゃ良いんでしょ。

 走り回って翻弄して、隙を突いてやる


 なんだろう、私いま、すごくムカムカしてる。闘争心が半端ない。


「どうする聖女。まだやるつもりか?」


「絶対に泣かす!!」


 まずはあいつの周りをグルグル走る。

 私の背後から熱波を放って、その反動で加速を得る。


 ルミナが呆れ気味にため息をついた。


「学習しないな」


「え!?」


 ルミナが消えた。


「こっちだよ」


 上から声がする。

 声につられて顔を上げたとき、ルミナの拳が私の額を殴りつけた。


「ぎゃっ」


「ははは、汚え悲鳴だな」


 こいつ、マジで速い。


「くっ」


 痛みで自然と涙が出る。


 身体能力もずば抜けているのかこいつは。

 まずい、本格的にまずい。

 勇者のときみたいに服をボロボロにしたって、こいつはきっと全裸でも攻撃してくる。


 勝てないのかな。

 闇堕ちしてパワーアップしているはずなのに。

 コントロールできていたら話は変わってた?


 なんでコントロールできないんだろう。

 半分しか闇堕ちしていないから?


 くそ、イライラする。

 頭の中が赤く染まっていくのがわかる。

 あのルミナとかいうチビを泣かせたい。

 散々人をおちょくりやがって。


 調子に乗るものいい加減にしろ。

 後悔させてやる。

 命乞いさせてやる。






 殺す。






 殺す殺す殺す殺す。殺してやる。もう何もかもどうでもいい。

 こいつさえ殺せたらどうでもいい。

 村がどうなろうと、村長や聖女のヒュイが死のうと関係ない。

 私の力を全開にして、ぜんぶぶっ壊してやる!!


「クク」


「あ? 頭でもおかしくなったか?」


「チビ助、いつまでも頭に乗るなよ」


「……なんだ、お前、急に魔力が」


 不思議だ。イライラを超えて、とても晴れやかな気分だ。

 暴れたい。めちゃくちゃにしたい。断末魔の合唱を聞きたい。


 ルミナのやつ、明らかに動揺しているな。足が後ろに下がっているぞ。


「あ、ありえない、ただの闇堕ち人間から、上級クラスの魔力が……」


「ハハハハ!!!! 良いこと思いついた!! 視界に入るやつ全員ぶっ殺してさあ!! 私が魔王になってやるよッッ!!」








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※あとがき


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