私、半分闇堕ち聖女なんですって。〜ちょっと気になる幼馴染みと浄化の旅にでます〜

第１１話 ムクロvsルミナ 決着

　溢れんばかりの殺意をルミナに向ける。

「っ！？」

　一瞬、殺気によってルミナがたじろいだ隙に背後へ瞬間移動し、

「ククク」

　小さな背中を蹴り飛ばしてやった。

「ぐっ！！」

「すぐに殺しちゃつまんないからさあ、自慢の絶眼でどうにかしてみろよ」

「てめえ……」

　ルミナは体勢を立て直すと、私に接近。手刀や蹴りなどの基本的な体術を仕掛けてきた。

　が、私には当たらない。余裕で回避してみせる。

　ていうかこいつ、思った通り攻撃のレパートリーはゴミだ。

　絶眼は、防御にしか使えない。

「遅い遅い」

「な、なんだお前、まるで別人みたいに……ッ！！」

「さっきまでイキってたくせに情けないな。もっと足掻いてくれよ」

「ちっ！！」

「煉炎獄氷（れんえんごくひょう）……怨贄（おんにえ）ッッ！！」

　手をかざして温度を下げる。

　策を練ってルミナを凍結させる手もあるが、

「俺への攻撃じゃない？　後ろ！？」

　凍らせるのはルミナの背後の空気。

　絶眼のもう一つの弱点。それは自分に対する攻撃にしか対応できないこと。

　ルミナの後方に巨大な氷の塊が現れる。

　同時に、私はルミナに向けて走り出した。

「氷はフェイク？　こ、今度こそ俺か！！」

「違うよバーカ」

　私がフェイクだ。

　瞬間、背後の氷塊が爆発し、衝撃波と氷のカケラがルミナを襲った。

「なにっ！？」

　やはり、視界に入っていない攻撃は受けるようだ。

　空気を瞬時に凍結させて生み出した氷塊。

　その中心だけを高温にして、溶かした。

　内部に水蒸気が溜まり、飽和して、爆発したのである。

「まだまだ」

　追撃の蹴りがルミナの顔面にヒットする。

　脳みそが揺れて気持ち悪いだろう。

「ぐっ……は……」

「ハハハハ！！！！　さーて、殺すか」

「ち、ちくしょ……この俺が……」

「この俺がぁ？　ククク、ハハハハ！！！！　ザコの分際で、この俺が、なんて台詞吐くなよみっともない！！　この俺が負けるわけないって？　違うな、お前如きだから負けるんだよ！！　この、『私』にな！！」

「ぐっ……」

「引導を渡してやる。血も内臓もぜんぶぶち撒けろよ！！」

　それが終わったら、聖女のヒュイを食う。

　食ってみたかったんだ、聖女。

　そして私に面倒くさい仕事を押し付けたコンコンを殺す。

　ロンド派だろうがベル派だろうが、皆殺しにしてやる。

　全員死ねば、くだらない派閥争いもなくなるだろう？

「クククク。まずはお前から死ね、ザコ魔族！！　煉炎獄氷ーー」

　私が手をかざした、そのとき、

「おーい、ムクロ〜」

　他所で戦っていたビムとシャロンが、走ってきた。

「ビム……」

　無事だったんだ。さすがは私の仲間たち。

「あれ？」

　二人の顔を見てたら、なんか、力が抜けていく。

　気持ちがほのぼのしていく。

　物騒な考えが、脳みそからかき消されていく。

「わっ」

　腰まで抜かしちゃった。

「ムクロ、だ、大丈夫か！？」

「うん、なんとか」

　シャロンが満身創痍のルミナを見やった。

「お互いギリギリなようですね」

　ルミナは舌打ちをすると、仰向けになって寝転んだ。

「殺せ」

「へ？」

「なんでか知らないが、急にお前の魔力が弱まった。だからチャンスかと思ったけど、仲間が来たんじゃ武が悪い。どうせ俺の負けだよ」

「何言ってんの？　シャロンとビムに加勢はさせないよ？」

「……は？」

「これは私の戦いだもん」

　ルミナはむくりと起き上がり、顔を歪ませた。

　なにをそんなに怒っているんだろう。

「舐めてんのかてめえ！！　俺を倒すチャンスだろうが！！　普通全員で挑むだろうがよ！！」

「舐めてないよ。いまだってドキドキしてる。本当に殺されちゃうんじゃないかって」

「じゃあまた、さっきみたいに強くなれよ」

「うーん、それができないんだよね」

　変に気持ちが落ち着いちゃってさ。

「じゃ、じゃあ、俺にボコられてた状態に戻ったけど、仲間の手を借りず、俺に勝つって、そう言いたいのか？」

「うん」

　ビムがあわあわと狼狽だす。

「な、何を言ってるんだムクロ！！　自分の命第一だろ！？」

「だって、まだ旅は始まったばかりだよ？　なのにもう二人の力を借りるようじゃ、この先絶対やられちゃうよ。これから、二人と一緒に戦うこともあると思う。けど、今回は、せめて最初の戦いは、私一人で勝つ」

「い、意地っ張りなやつ……」

　シャロンも苦笑してるよ。

　大丈夫、きっと勝つから。

　力が弱まった状態でも、絶対。

　ルミナが私を睨んだ。

「なら覚悟するんだな。手加減はしねえから」

「うん！！」

　敵の後ろに氷塊を出すやつ、アレをもっかい使う。

　あのときは頭が真っ白になってて、よくわからないまま発動したけど、なんとなくコツは掴んだ。

　私の異能の新しい名前も、うっすら覚えている。

「えっと、……えんえんごくひょうにゃ！！」

　たしかそんな感じの名前を叫んだはず。

「またあの氷爆弾か」

　ルミナが突っ込んできた。

　げっ、氷塊から離れちゃったよ。

　これじゃ意味ないじゃん。

　こうなったら近接戦！！

　今度こそ右ストレートを決めてやる。

　拳を構え、カウンターを狙う。

「バカめ、敵意を抱いた瞬間に俺の絶眼は！！」

　ルミナの瞳が紫色に変色した。

　だが、

「ぐっ！！　使いすぎたかっ！！」

　ルミナが苦悶の表情で目を閉じた。

　なんだろう、目が痛くなったのかな。

　とにかくチャンス。

「うおりゃ！！」

　ルミナの鼻に私の渾身パンチが炸裂。

　ルミナはそのまま倒れると、気を失った。

「いよっしゃ！！」

　ほらね、勝ったでしょ。

　にしても、戦いの途中でいきなり強くなったの、なんだったんだろう？

　闇堕ちが進行したのかな。

　何故だか、また元に戻ったけど。

　まあいいや。

「私の勝ちだ、チビ助！！」