第7話 シーラ村

「お姉ちゃんまたどっか行っちゃうの!?」


 妹のナミナが涙目で抱きついてきた。

 姉離れができない可愛い妹なのだ。


「お姉ちゃんはね、世界を救う旅に出るんだよ」


 本当は私を浄化して悪い人たちに凄い宝玉を渡さないための旅だけど。

 あながち嘘でもないでしょ。


「うそだ!! お姉ちゃんグレたから家出するんだ!!」


「しないよー」


「行っちゃやだーっ!!」


 可愛いなあ。

 しょうがない。出発は明日だし、今夜は一緒に寝てあげよう。


 ちなみにビムも同じ部屋で寝る。

 隅っこの床で寝させるけどね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 妹に気づかれないように、私はビム、そしてシャロンと共に街を後にした。


 コンコン司祭が馬車を用意してくれて、私とシャロンは荷台に、ビムが御者台で馬を走らせてくれている。


「助かりましたね、ビムくんが馬の扱いの上手な方で。私はどうも馬に好かれないので」


「うん。ビムはね、生き物に懐かれやすいんだよ。乗馬の訓練なら、騎士団でも中々好成績なんじゃないかな」


 もし騎士を辞めても馬の調教師として食べていけるはずだ。

 辞めてほしくはないけどね。せっかく騎士になれたんだし。


「とろこでムクロさん、コンコン司祭から頂いた『神具』はちゃんと持っていますか?」


「もちもち」


 懐から手のひらサイズの鉄の板を取り出した。

 メールー教のシンボルが刻まれたこの板は、コンコン司祭から借りているものだ。


 物を生み出す系統の異能を持つ聖女が、その力で生み出す特殊な道具、神具。

 これはその中でも、通信用の神具だ。


 念じれば遠くにある通信神具の持ち主とお話ができるらしい。

 コンコン司祭との連絡手段というわけ。


 一応人数分あるけれど、貴重な物なので旅が終われば返さなくてはならない。


「噂によると、これを生み出す聖女は一日一〇台生産する仕事をしているらしいです」


「異能を発動するだけの仕事なんだ。いいなー」


「かなり集中力が必要らしいです。努力を無駄にしないよう、無くさないように気をつけてくださいね」


「はい!!」


 世界中で何人の人が持っているんだろう。

 国やメールー教の重要人物と、お金持ちと、私たちみたいな特殊な立場の人間くらいかな?


「それでシャロン、とりあえず私たちはどこを目指すの?」


 最終的な目的地は一応、魔王のいる『ノーフォールマウンテン』だけど、かなり遠い。めちゃくちゃ遠い。

 なんせ別の大陸にあるからね。

 まあそのおかげで、私たちがいる国はまだ本格的な魔族の侵略を受けていないんだけど。


「シーラという村です。近頃、二人組の魔族が悪さをしているそうなのです」


「そこを寝床して、ついでにそいつらを退治するってこと?」


「はい。慈善活動でもありますが、ムクロさんが異能をコントロールするための訓練でもあります。……あと、私たちのパーティーの名を世界各地に轟かせなくてはならないので」


「なんで?」


「正義のヒーローパーティーと知れば、協力してくれる人が増えるからですよ。もろもろの経費が浮くかもしれません」


 なるほど。三つの理由があるわけか。

 シーラ村ねぇ、一度聖女の学校の課外授業で行ったことがある。

 のどかで、作物が豊富な良い村だった。


「当然ながら村には魔族を毛嫌いしている人が多いですが、基本的にみんな猫好きなので、語尾に『にゃ』をつけると許してくれるそうです」


「へー。変なの」


「練習してみましょうか」


「にゃにゃ、ムクロ・キューリスにゃ。よろしくにゃ」


「上手ですね。とても可愛いです」


「ほんと? へへ、照れるにゃあ」


「ちなみにこの話は嘘です」


「にゃーーっ!! 猫パンチ!!」


 くっそー。もう二度と騙されないぞ。

 むしろこっちが旅の途中でとんでもない嘘ついて驚かしてやるにゃ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 日が暮れる前にはシーラ村に到着できた。

 村にしては広大な敷地で、あちこちに畑や牛舎がある。


「ビム、あれ忘れてないよね?」


「もちろん。コンコン司祭の署名付き渡航許可証。っつてもカードだけど」


「よし。これでメールー教公認の旅行者だって証明になるね」


 ひとまず村長に会うべく、村の中を進む。

 ちらほら見かける住人は、警戒気味に私たちを見つめていた。


 すると、


「何者じゃ」


 髭を蓄えた初老のおじさんが、槍を持った男たちと共に現れた。

 課外授業のとき見たことある。村長さんだ。


「その赤い瞳、やはり魔族!! 許せん、生かして帰すと思うな!!」


 男たちが私に槍を向けた。


「ま、待つにゃ!! 違うのにゃ!! 話を聞くにゃあ!!」


「ムクロさん、『にゃ』は嘘ですって」


「そうだったにゃ」


 すかさず、ビムが渡航者カードと自分の騎士団員手帳を見せつけた。


「お、俺たちはメールー教のコンコン司祭の命を受けて旅をしているものっす。こっちの女の子は、確かに魔族の仲間っすけど、人間の味方っす」


 馬車の件もそうだけど、こういうときビムが仲間で良かったって心から思う。

 メールー教公認の騎士がいるだけで印象はだいぶ変わるから。


「人間の味方? 魔族が?」


「元聖女で、わけあって闇堕ちしてしまったんす。それで、浄化のためにコンコン司祭に協力しているんす。な、ムクロ」


 うんうんと勢いよく首を縦に振った。

 最初の村で殺されましたなんて、あまりにもかっこ悪すぎるし。


 村長は私の瞳をまっすぐ見つめると、渋々頷いた。


「確かに、魔族にしては優しい目付きをしておる。それで、この村になんの用じゃ」


「一晩の宿を貸してもらいっす。その代わりに、村を苦しめている魔族を退治するっす」


「キサマ、スピリッツの騎士じゃな? ふん、ようやくマトモな騎士を送り込んでくれたかと思えば、こんな弱そうなやつと女二人とは……」


 カッチーンときたけど、ここは我慢。

 揉め事を起こすわけにはいかないもんね。宿でぐっすり寝たいし。


 シャロンが問いかけた。


「その魔族の特徴を教えていただけませんか?」


「とにかく野蛮で凶暴な、人型の魔族じゃ。村の作物や牛を食い荒らし、歯向かう男を皆殺しにしてきた。そして、我が孫も……」


「まさか……」


「いや、孫は無事じゃ。まだな。……ついてきなさい」





 村長に従い後ろをついて歩くと、一軒の大きな家に辿り着いた。

 こんこんとノックして、村長が「ヒュイ」と誰かの名前を呼ぶ。

 しばらくすると扉が開き、私と同い年ぐらいの女の子が現れた。


 顔色が悪く、怯えた様子の女の子。

 白いローブに十字架のペンダントを身につけているところからして、間違いない、聖女だ。


「孫娘のヒュイじゃ。聖女として街で勉強し、この村に戻ってきた。いや、タイミング悪く戻ってきてしまったのじゃ」


「どういうこと?」


「昨晩、魔族どもがヒュイの存在に気づき、今夜引き渡すように脅してきたのじゃ。聖女を魔王に捧げれば報酬が貰えるからと」


 聞いたことがある。

 聖女は闇の魔族とは正反対の聖なる者。

 天敵、というわけではないけれど、魔族にとっては存在が鬱陶しいらしい。


「ヒュイはベックス学院の生徒なの?」


 聖女を育成するための学校だ。

 たどたどしく、ヒュイが答える。


「え、あ、はい」


「戻ってきたって、卒業して派遣されてきたってこと?」


「あ、いえ、ただの帰省です。まだ二年生なので」


「じゃあ後輩じゃん!! よーし、お姉さんに任せなさい!!」






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※あとがき


応援よろしくお願いします。

応援してくれたら靴舐めます。ぺろぺろ。


↓↓

ムクロちゃんのキャラ紹介ページです。

イラスト付きです。

https://kakuyomu.jp/users/ikuiku-kaiou/news/16818023212710356021

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