第5話 シャロン先生

「ねえシャロン。魔法ってなんでもできるの?」


 選考会を終えて、私は今度こそ家族に会うべく街を歩いていた。

 時刻は夕方。お腹が空いてきた。


「なんでもではありませんが、便利な力です。使いこなすには、大変な修練が必要ですけど」


「聖女の異能より強そうだよね」


「そうですね。パワーも応用力も魔法の方が勝ってます」


「なーんだ。聖女ってたいしたことないんだね」


 ビムが叫んだ。


「そ、そんなこというなよ!! 曲がりなりにもムクロも聖女だろ!!」


「元だからねぇ」


 ですが、とシャロンが続ける。


「異能との決定的な違いは、『燃費』です」


「ねんぴー? なんか可愛い言葉だね」


「そ、そうですか? と、とにかく魔法は生命エネルギーを消費しますが、異能は無制限でいくらでも使用できます。そもそも、歴史を遡れば、魔法は異能を模倣するために生み出された力で、そのはじまりは……」


「なるほどね」


「あらら、めんどくさくなっちゃいましたか」


 難しい話は苦手なもので。

 私に代わって、ビムが問う。


「あれ? ってことはシャロンさん、ムクロは闇堕ちでパワーアップした異能を、何回でも使えるってことすか?」


「おぉ、その通りです。よく気づきましたね、ビムくん」


 へー。じゃあ私って結構強いんじゃん。


「てっきりムクロさんの方が早く気づくと思ってました」


「酷い!! これでもスピリッツ入団試験合格してるんすよ!!」


 シャロンも見抜いたんだな、ビムはおバカだって。


「シャロンは他にどんな魔法が使えるの?」


「ふふ、秘密です」


「なんでー?」


「まだあなた達を信用していないので」


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「ただいまー」


 ビムとシャロンを連れて、町外れの小さなお家に踏み入れる。

 母さんと妹は、夕食の準備をしていた。


 私の顔を見るなり、ポカンと口を開けてーー。


「お姉ちゃーん!!」


 妹が泣きながら抱きついてきた。


「久しぶり、かな。ナミナ」


「お姉ちゃん大丈夫なの!? なんか大変なことになってるって!! うわ!! 目が真っ赤!!」


「うーん、いろいろあったけど、とりあえず大丈夫」


 お母さんも抱きついてきた。


「ムクローーっ!!」


「久しぶり、だね。ママ」


「司祭さまから闇堕ちしたって!! あなたが人を殺したって!!」


「うーんと、確定じゃないから安心して」


「でも……」


「とにかくさ、お腹へったからご飯作って。ビムとシャロンのぶんも」


「え、えぇ。……あなた、なんだか少しグレたわね」


 少しすか。


「別にいいじゃんそんなこと。反抗期みたいなもんだよ」


「お姉ちゃんがグレたーーっ!!」


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 久しぶりに家族とテーブルを囲んで、お母さんのシチューを食べた。

 まあ、感覚的には数日ぶりなんだけどね。


「ええ!! シャロンちゃん魔法使いなの!? はじめて見た〜」


「ふふふ、滅多にいませんからね」


 可愛い妹。


「ビムくん、今後ともムクロをよろしくね」


「はい!! この俺が命に変えても、ムクロを監視し続けます!!」


 心配性な母。


 大好きな家族。

 司祭曰く、私が完全に闇堕ちしたら、家族にも影響が出るらしい。


 闇の声が聞こえるようになるだの、闇堕ちへと誘われるだの。


 それは避けなくてはいけない。

 半分闇堕ちして、一年間の記憶が消えて、なんだかもういろんなことがどうでもよくなったけど、家族の平和だけは、必ず守る。


「では、私はこのへんで。ムクロさん、また明日」


 シャロンが帰ろうと立ち上がる。


「あ、送るよ」


「いえいえそんな」


「いいからいいから」


 無理やりシャロンと外に出る。監視役のビムもね。

 もう日も暮れて真っ暗だ。


「ムクロさん、なにか聞きたいことがあるんですか?」


「あ、バレた? さすがシャロン。……あのさ、コンコン司祭に魔王を倒せば闇堕ちは解除されるって言われたんだよ。それって事実?」


「疑っているんですね。うーん、結論から述べると、『あながち間違いでもない』ですね」


「んー?」


「闇堕ちとは、呪い。最上級クラスの魔族が、自分の魂をわけて対象の魂を汚染する行為です。その魔族が死ねば、呪いも解けます」


 そっか。

 そもそも、私を闇堕ちさせたのが魔王だって確証がない以上、魔王を倒してもしょうがないのかな。


「しかし、魔王を倒せば、直属の魔族たちは著しく力が衰えます。というか、死にかけます。もし、その中にムクロさんを闇堕ちさせた魔族がいれば、呪いが解けるかもしれません。絶対ではないでしょうが」


 だから『あながち間違いでもない』か。


「私、どれくらいで完全に闇堕ちしちゃうのかな」


「どうでしょうね。ムクロさんのようなパターンは前例がないので。ただ、闇の力は憎悪や怒り、不信感、不安、絶望といったマイナスの感情で強まります。なので、ムクロさん次第ですね」


「ほほう。なるほどね。シャロンに相談してよかったよ」


「まさか、信じました?」


「うん。……え、嘘なの?」


「いえ。でも、よく信じられますね。まだ出会ったばかりなのに」


「だって仲間じゃない」


「……」


「私はシャロンを気に入って、仲間にした。だから信じる」


「もし、裏切ったらどうするんです?」


「怒って、強めのローキック。シュッシュ!! てか裏切らないでよ。ショックで闇堕ち進行しちゃうじゃん」


 シャロンは顔を見せないように背中を向けると、くすくすと笑いだした。


「ふふ、ふふふ。シンプルでいいですね。一緒にいて気持ちがいいです」


「えへへ」


 なんだか照れるな。

 ん? ビムのやつまでニヤニヤしてるよ。


「ふっふっふ。ムクロは昔からお人好しだの、真っ直ぐで優しいと言われてきたのですよ。まさに聖女の中の聖女なんす!!」


「なんでビムが誇らしげなのよ。あー、闇堕ちしそう」


「えぇ!? 良いところを紹介してあげたんじゃないか!!」


 わかってるよ。いきなり褒められて照れちゃっただけ。

 シャロンは愉快そうに喉を鳴らすと、突然ハッと真面目な顔つきになった。


「マ、マズイですよムクロさん。いま思い出しましたけど、パン以外を食べると闇堕ちの進行スピードが上がってしまうそうです」


「え!? シチュー食べちゃったよ!!」


「ふふふ、本当に信じましたね」


「ぬわっ!! 嘘ついた!! シャロン嘘ついた!! くっそー、ローキック!!」


「いたた。ふふ、ごめんなさい」


 こうして、頭はいいけどちょっぴりイジワルな魔法使いが、正式に仲間になったのだった。







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※あとがき

応援よろしくおねがいします。

やる気がでます。

がんばれます。人生。



↓↓

シャロンの紹介ページです。

イラスト付きです。

https://kakuyomu.jp/users/ikuiku-kaiou/news/16818023212619568811

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