私、半分闇堕ち聖女なんですって。〜ちょっと気になる幼馴染みと浄化の旅にでます〜

いくかいおう

プロローグ1 哀れなムクロちゃん

 いつからでしょう。

 人は悪いことをしても反省できると本気で信じていたのは。

 人間は本来善良なものだという信仰心を、疑うようになったのは。


 赤ちゃんはどうやって生まれるのかをいつの間にか『察して』しまうように、どうしようもない人間が存在することも、今では理解しているけれど。


「「「ムクロちゃん!! おはようございます!!」」」


「はい、おはようございます。みなさん」


 小山のてっぺんにある教会の庭先で、私は一〇人の子どもたちに朝の挨拶をしていました。

 宿舎と一体となった教会は、身寄りのない子どもたちのための施設も兼ねているのです。


 協会本部から派遣聖女としてこの地に赴任して早一年。

 子どもたちの姉であり、ときには悩める人々を救う聖職者として、日々徳を積んで参りました。


「よし、ちゃんと全員揃っていますね」


 と人数確認を終えたとき、


「おやみなさん、おそろいですね」


 神父のミガー様がやってきました。

 私の尊敬する神父様。

 彼は決して孤児を見捨てず、この子たちの、そしてまだ一四歳である私の父親代わりとなって、神の教えや世界の理をご教授してくださっているのです。


「ムクロ」


「はい神父様。ではみなさん、朝の体操をはじめましょう」


 簡単な運動をして、みんなで朝食を取る。

 それが一日のはじまり。絶対に変わらない、平和の証。


「はい、じゃあ走らないで食堂に集まりましょうね」


「「「はーい」」」


 男の子たちが元気よく手を上げています。

 それに引き換え、女の子たちは少し元気がないみたいです。


「ムクロ」


「なんでしょう、神父様」


「悪いが、朝食のあと、少しいいかね?」


「……はい」


 元気がないのは、私も同じですが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ノモちゃん、具合はどうですか?」


「う〜ん、頭がぼーっとする。さっきまで吐き気してたし、すごくイライラしてた」


 ミガー神父様の用事の前に、私は孤児たちの中で最年長の女の子、ノモちゃんの部屋を訪れていました。

 どうやら朝から気分が悪いようなのです。


「ムクロちゃん、アレ、して」


「いいですよ」


 そっと彼女の頬に触れて、『力』を発動します。

 聖女は誰でもなれるわけではありません。生まれつき、神から与えられた『異能』が必要なのです。


 私が持つ『異能』は『温度操作』の力。

 対象の温度を操ることができます。

 といっても、今の私では五度前後の変化しか起こせないのですけど。


「あ〜、体が温かくなってくぅ」


「眠くなるまで側にいてあげますよ」


「ありがとう、ムクロちゃん。大好き!!」


「えへへ、聖女ですから、これくらい普通ですよ」


「……ムクロちゃんは私のこと好き?」


「ん〜、もう少し勉強頑張ったら、もっと大好きになります」


「てことは今でも好きは好きなんだ。やったね!!」


 ノモちゃんはポジティブな子です。

 実家にいる妹を思い出します。


「そういえば、他の女の子たちも様子が変でしたけど、なにか知っていますか?」


 ノモちゃんがじっと私を見つめます。

 なにを考えているのか読めない、複雑な眼差しでした。


「わかんない」


「そうですか」


「ふわぁ、温かくて気持ちよくて、眠たくなってきた」


「いいですよ。寝ちゃいましょうね。おやすみなさい」


「ん〜。ムクロちゃん」


「なんですか?」


「ムクロちゃんは、なんで誰にでも優しいの?」


「え?」


 思いがけない質問でした。

 相手が幼いから、というだけではありません。

 自分自身、考えたこともなかったからです。


「さあ、なんででしょう」


「なんか凄いね」


「なにがですか?」


「秘密」


 なんで人に優しくするのか。

 聖女だから? そういう風に生きろと教わったから?

 じゃあ、聖女じゃなければ人に優しくしなかったのでしょうか。


 いくら思考を巡らせても、わかりません。


 それからノモちゃんを眠らせて、私は神父様の部屋へ急ぎました。









「悪いね、いつもいつも」


「……いえ」


 神父様はすでに裸で待っていました。

 もうすでに、父親の裸体より多く見ている、ミガー様の肌。

 私も躊躇いなく、服を脱ぎます。

 無駄に時間をかけるほうがしんどいからです。


「あぁ、すー、はー、素敵だよムクロ」


 私をベッドに寝かせ、ミガー様が胸に顔を埋めました。


「安心しなさい。直接君を『傷つけたり』はしないよ。それがバレると首が飛ぶからね。少し触るだけさ。匂いも嗅ぐけど」


「はい」


「悪く思わないでくれ。私だって一人の男。辛いんだ」


「わかってます」


 だから許しているんです。

 神父様だって人間。いつも笑顔でいられるわけではないと知っているから。


「助かるよムクロ。君がいないと……くっ、子どもたちを邪な目で見てしまいそうになってしまうから」


「それは……」


「あぁ、決して許されない」


 そのためにも、私一人が我慢をすればいい。


「君は本当に、優しいね」


 神父様がゴソゴソと自分の手を動かしている間、私はじっと天井を眺めていました。

 視線を動かさないように、じっと。心を無にして。

 見てしまっては、さすがに感情が動いてしまうから。


「あの、神父様」


「なんだい?」


「女の子たちの具合がよくなさそうなんです。街に出て漢方薬を買ってきてもいいですか?」


「……」


「神父様?」


「大丈夫だろう。子供なんだからすぐ元気になるさ」


 そのときの口調は、まるで投げ捨てられた紙くずのように軽く、冷たいものでした。


「あぁそれから、今夜も仲の良い騎士たちが来る。用事はこちらで片しておくから、騒がしくなる前に早く寝なさい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜。


「んっ」


 寒気を感じて、私は目を覚ましてしまいました。

 廊下の方から、男性たちの笑い声が聞こえてきます。

 例の仲が良い騎士たちでしょうか。


「こら、はしゃぎすぎだぞお前ら」


 神父様の声です。


「だってよ、うぅ、こいつはたまんねえって」


「そうそう。田舎に配属されてよかった〜。都会じゃすぐバレちまうからな」


 なにをしているのでしょう。

 好奇心で覗きをしてはならないと神書には書かれていますが、足が止まりません。


 部屋を出て、廊下へ。

 声は下の階からのようです。


 ゆっくりと宿舎の階段を降りて、奥の部屋へ。

 扉を少し開けて、隙間から覗いてみれば。


「え」


 ノモちゃんや女の子たちがーー。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


生まれた女の子が聖女である確率は、およそ一〇〇分の一です。

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