第36話 ビムの決闘

 店を出て、ビムとホワイトホスがそれぞれ剣を抜いた。

 何が始まるのかと、通行人たちも足を止めて見物している。


「ビム!! ガッツだよ!!」


「任せとけムクロ!!」


 ルミナがぼそっと呟いた。


「あいつ負けるな」


「なんでそんなこというの!!」


「こんな決闘興味ないし、俺は先に港へ行っているぜ」


 人混みをかき分けて、チビ助はいなくなってしまった。

 まったく、応援くらいしなさいよって。


「行くぞセクハラ野郎!!」


「さっさと来い、田舎騎士くん」


「こなくそ〜、根性おおっ!!」


 ビムが切り掛かる。

 ちなみに、いくら決闘とはいえ殺しは御法度。

 寸止めで決着をつける。


「おりゃ!!」


「ふん」


 ビムの剣を軽くかわし、ホワイトホスの反撃。

 むむ、ビムってば防御するので精一杯みたい。


「ムクロさん」


「なにシャロン」


「思い出しました。彼、勇者パーティー選考会にいましたよ」


「そうなの?」


「なぜここにいるのでしょう。それに、あのときあれだけ目立っていたムクロさんを、まるで初めてみたかのようなリアクションまでして」


「さあ? 記憶力悪いんじゃない?」


「……だといいですけど」


 とかなんとか喋っていると、ビムがようやく反撃を繰り出した。

 いけ、がんばれビム。


「ふっ、脇が甘いんだよ田舎騎士!!」


 ホワイトホスの剣がビムの剣を弾く。

 瞬間、ビムの血と汗が染み込んだ大事な剣が、真っ二つに折れてしまった。


「これで終わりだ」


 動揺するビムに、切先を突きつける。

 決着だ。

 ビムが……負けた……。


「そ、そんな、俺が……」


「これでわかっただろう、君はムクロ姫に相応しくない」


 ガックリと膝をついて、呆然としている。

 慰めてあげないと。


 私が近づこうとしたとき、


「これからは僕が彼の代わりに同行します。ムクロ姫」


「勝手についてくればいいじゃん。そんなことより……あれ?」


 ビムがいない。

 いや、トボトボと歩いている。

 どこに行くつもりだろう。


「ビム」


「ムクロ……俺は……ここまでだ……」


「なに言ってんのよ、気にしなくていいじゃん」


「いいや、気にするさ。しなくちゃいけない。男として、騎士として」


「はあ?」


「どのみち、あんなやつに負けるようじゃこの先……くっ!!」


 涙を堪えて、ビムは走りだしてしまった。

 まったく、意地っ張りなんだから。


「ムクロさん、いまはそっとしておきましょう」


「でも……」


 また、ホワイトホスが話しかけてきた。


「さあムクロ姫。港へ行きましょう」


「あんたとは嫌だ」


「ですが決闘で……」


「知らん!! とにかく嫌だ!! あとちゃんと風呂に入れ!! 臭い!!」


「……」


 ビム、まさか本当に帰ったりしないよね。

 ちゃんと最後まで付いてきてくれるよね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私とシャロンは二人で港へ向かっていると、ちょうどルミナが反対方向から歩いてきた。


「残念ながら、出航は三日後だそうだ」


「じゃあそれまで、この街で待機か」


「そうなるな。ビムは?」


「いなくなっちゃったの」


「ふ、大方適当な宿にいるさ」


「なんでわかるの?」


「あいつは、簡単に諦めるような男じゃない。リベンジする気満々さ」


 そ、そうなのかな。

 そうだよね。ビムは根性だけは世界一だもんね。

 だけどどこの宿にいるんだろう。


 通信具で連絡しようとしたら、ルミナに止められた。


「一人にしておけ」


「えー」


「男心をわかってやれよ」


「負けると一人になりたいもんなの?」


「俺たちも宿を探すぞ」


 答えて貰えなかった。

 なんだよ、複雑だなあ男って。


 とりあえず宿を探して歩きだす。


「ムクロさん、意外ですね。ルミナくんがビムくんに気をつかうなんて」


「ほら、ビムは動物に好かれやすいタイプだから」


「あー、なるほど」

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