第35話 ホワイトホス

『どうじゃ、宝玉の手がかりは掴めたか』


 馬車に揺られながら、私はコンコン司祭と通信をしていた。


「いやあ、それがまったく」


『そうか、引き続き頼むぞ』


「はい!!」


 本当は既に持っているんだけどね。

 ふふふ、私も結構嘘が上手くなってきたな。

 コンコン司祭め、絶対気づいてないよ。


「シャロン、次の街はどこ?」


「ザブザブという港町です。ここで船に乗り、海を渡ります」


「お〜、冒険らしくなってきた!!」


「とっくに冒険してますけどね」


 そんなわけで、私たちは港町ザブザブに到着した。

 馬車は船には乗せられないので、馬たちとはここでサヨナラだ。


「ありがとね」


 頭を撫でて、お別れを済ませたあと、私たちは港へ向かった。

 その途中。


「武器屋に寄っていいですか?刃こぼれしたナイフを買い替えたいので」


 シャロンの希望で武器屋に寄った。

 剣だのハンマーだの斧だの弓だの、いろんな武器が陳列されている。


 私もなんか買っておこうかな。

 ナイフくらい持っていた方がいいよね。


「ハゲの店員さん、良いナイフありますか?」


「誰がハゲじゃ!! うちにある品は最高級品ばかりだよ。なんせ、この俺が作ってるからな」


「おじさんが? すごいね」


「自慢じゃないが、俺は世界一の鍛冶屋でもあるからな。どんな武器でもお手のもんよ」


「ほんとに〜?」


 間違いないぜ、とルミナが口を開いた。


「特殊な力が宿った武器がいくつかある。おそらく、魔族の牙や魔石を素材にしているな」


「へー」


 でもお高いんでしょう?

 相場がわからないけど。


「うーん、おじさん、あそこの小さいナイフ、値札に四万ギルって書いてあるけど、安いの?」


「あ? あ〜、破格の値段だな。なんせ巨大竜の鱗を素材にしているからな。切れ味抜群、刃こぼれだってしねえぜ」


「そうなんだ〜。んじゃあこれ買う」


「残念だけど既に買い手がいる」


「え〜」


「二万ギルプラスしてもいいなら、あんたに売るけど?」


 合計六万ギルか。

 ん〜、悩むなあ。

 けど良いナイフっぽいし、高い買い物だけど損にはならないかな。


「どうしよっかなー」


「わかった、二万じゃなくて一万ギルプラスでいいよ。五万ギルだ」


「お得になった!!」


 じゃあ買う。と言いかけたとき、シャロンが私の肩を叩いた。


「こんなの詐欺師の常套手段ですよ。あんなもの、五万ギルどころか、せいぜい二〇〇〇ギルです」


「そうなの!?」


「普通騙されませんって。竜の鱗なんて、割と安価で手に入るんですから」


「おじさん騙したな!!」


 悪事がバレてふてくされたのか、おじさんは「けっ、良い勉強になったな」なんて嫌味を言い放ちやがった。


 危ない危ない。ぼったくられるところだったよ。


「ビムはどうする? ここで剣買う?」


「いや、俺はいま使っているのでいい。俺の血と汗が染み込んだ相棒だからな」


「血と汗が? なんか汚いね」


「そんなこと言うなよ!!」


 とまあ、他愛もない会話をしていると、店に騎士が入ってきた。

 背が高く、サラリとした白い髪。高い鼻、大きな瞳。

 お〜、イケメンだ。


「おや?」


 騎士がこっちに気づいた。


「なんと。これはお美しい。あなたに出会えた奇跡を、神に感謝しなければ」


 そう言って、騎士は私の前で跪き、手を握って、


「僕の理想の姫君だ」


 私の手に口づけしたのだった。


「うわ」


 ビムが強引に私を引き寄せる。


「な、なななな、なにをするんだいきなり!! せ、セクハラだぞ!!」


「ふん、片田舎の騎士風情が。僕は美しいものを美しいと賛美したまでのこと。むしろ、彼女を前に何もしないほうが失礼だね」


「な、なんだとお!!」


 ザブザブも田舎街だと思うけど。


「それに、そこのお嬢さんも喜んでいるだろう?」


「そ、そうなのかムクロ!? い、嫌じゃなかってのか?」


「へ? 別に」


 なんともかんとも。

 嫌でも嬉しくもなかったかな。


「そ、そんな!!」


「はっはっは、そういうことだ田舎騎士。お嬢さん、お名前を伺ってもいいですか?」


 いけすかない感じの男だな。

 裏では平気で女を殴ってそう。


「ムクロ」


「僕の名前はホワイトホス。お見知り置きを」


「一つ質問。なんで私なの? シャロンの方が綺麗だしおっぱい大きいじゃん」


 あ、シャロンが苦笑しながら顔を赤くしてる。


「もちろん、あちらのお嬢さんもお美しい。しかし僕の目には、あなたしかいないのです。小さく愛らしい体、丸い顔、キリッと強い意志を宿した瞳。魔族特有の赤い目をしているけれど、それが逆に美しい。僕は魔族差別はしない主義だからね。あぁ、僕は君と巡り会うために生まれてきたのか」


 へへへ、そこまで褒められると、悪い気はしないかな。

 見る目あるね、こいつ。


「いったいなぜ旅を?」


「魔王を倒すの」


「魔王を!? なんて壮大な……。わかりました、このホワイトホス、命に変えてもあなたをお守りしましょう」


「仲間になるの? 騎士はもうビムがいるからいいよ。この街でのんびりしてなよ」


「そんな弱そうな騎士でいいのですか?」


 ピクっと、ビムが眉をひそめた。

 挑発されて怒っているんだろう。


「言わせておけば。お前みたいなセクハラ男なんかよりずっと強いぞ俺は」


「ほう、ならば決闘でもしようか。弱者に、彼女を守る資格はない」


「う、受けて立つ!!」


 すごい展開になっちゃったな。

 別に強くなくてもいいのに。


 仮にホワイトホスが勝っても、たぶん仲間にはしないよ、私。


 二人がバチバチと火花を散らすなか、シャロンが耳打ちをしてきた。


「ムクロさん、彼、どこかで会ったことありませんか?」


「そうかな。覚えてない」


「うーん」

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