狙われる宝玉編

第34話 新たなはじまり

 シャロンが復讐を終えた後、私たちはすぐにジュナチネを出発にした。

 再開した馬車の旅。

 残すは、妥当魔王!!


 とはいえ、戦闘の疲れから私とシャロン、それにルミナはクタクタで、荷台の中で爆睡してしまった。

 そんでもって夜。ジュナチネで買っておいたパンをみんなで食べながら、改めて宝玉を取り出す。


 手に持った瞬間、またビリビリとした痺れが走った。


「これが『ケフィシアの宝玉』ですか……」


「そう!! 割と早く手に入っちゃったね」


「気に食わない存在すべてを消しさることができる恐るべき力が宿っているんですよね? 試してみましたか?」


「……ふん!! くぅ〜、おりゃああああ!!!!」


「いま試すんですか」


 思いっきり力を込めてみたけど、ダメだ、まるで反応しない。

 本物のはずなんだけどなあ。


 ルミナが手を伸ばしてきた。


「貸してみろよ」


「ん」


 ポンと手渡すと、ルミナの体が一瞬ビクッと跳ねた。

 ビリビリに驚いたんだろう。


「ルミナは使えるの?」


「俺は魔王の血を引いているからな。こいつを使う資格がある」


「お〜、なるほど」


「よし、行くぜ。人間よ……滅べ!!」


「……」


「……滅んだな」


「「「なに願ってんだ(ですか)!!」」」


 でも発動していなくてよかった。

 本当に人間が滅んでいるんだったら、ビムは死んでいないとおかしいわけだし。


「なーにが魔王の血だよ、まったく」


「ちっ、こいつ不良品だぜ」


「んじゃ次はシャロンだね」


 ルミナから玉を奪い取り、シャロンに渡す。

 なんか、シャロンなら使いこなしそう。

 ドキドキ。


「謎の多い宝玉ですが、とりあえず魔力を流し込んでみましょうか。……魔王の一族よ、滅べ」


「おい!!」


 あ、ルミナが怒った。


「ふふふ、冗談ですよ。やはり私じゃダメみたいですね」


 冗談なのにちゃんと願ったんだ。

 危ないところだったね、ルミナ。


「最後はビムだね」


 シャロンがビムに宝玉を渡す。


「俺? ムクロたちでさえ無理だったのに」


「根性、でしょ? ビム」


「お、おう」


「それに、私は闇堕ち人間、シャロンは半分魔族、ルミナはモロ魔族。けどビムは純粋な人間じゃん。可能性あるかもよ」


「そう言われると……。よっし、男ジムビム、気合い入れます!!」


「がんばれー」


 ビムは意外と器用だから、発動できるかも。

 頼りないけど、あんなクソ勇者よりよっぽどかっこいいしね。


「むむむ……魔王の一族滅べ!!」


「てめぇもか!!」


「ん〜、ダメか……」


「成功してたまるか!!」


 ちゃっかり人間滅ぼそうとしたくせに。

 まあ結局、私たちじゃ扱えないってわけか。がっかり。


「これ、本当に特別な力なんてあるのか?」


「あるはずだよ。ルミナの絶眼は確かだし、持ったときのビリビリ感も、ただならない力を宿してる感じがする」


「ビリビリ?」


「しなかった?」


「持ったときだろ? 別に……」


 シャロンも首を傾げている。

 でもルミナは「したよ」と呟いた。

 んー? 私とルミナだけかー?


 変だなあ、魔族だけだとしても、半分闇堕ちの私にはビリビリして、シャロンにはビリビリしないってのはおかしいよね。

 どういう理屈なんだろう。


「ムクロさん、進路を変えて司祭様に届けに行きますか?」


「んーにゃ、ちと考える。なんかさー、コンコン司祭も悪いことに使いそうじゃない?」


「なきにしもあらずですね。しかし、ずっと所持していてもいつかはバレます。そうなれば、司祭様からの刺客を相手にすることになりますよ?」


「そうなんだよね〜。ま、もう少し考えようよ」


「ムクロさんがそう言うなら」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 さらに夜も更けて、三人とも寝てしまった。

 シャロンは荷台で毛布にくるまり、ビムとルミナは小さなテントを二人で使って。


 私は……なんだか眠れなくて夜空を見上げている。


 瞬く星々。

 大きな月。


 今夜は満月だ。


「ムクロ」


 テントからビムが出てきた。


「どうしたの?」


「眠れなくてな。ムクロは?」


「私も」


 ビムが横に来て、一緒に星空を眺めた。


「綺麗だね」


「あぁ。毎晩見ても飽きないよ」


「でもさ、最近少し怖いんだよね」


「なにが?」


「星って、空に浮かんでいるんでしょ? 小さく光っているけど、本当はとっても大きいらしい」


「遠近法だな」


「たくさん落ちてきたら、みんな死んじゃうと思う」


「……」


「変なこと言ったかな」


「ううん。ただ、ムクロは変わったなって」


 闇堕ちしているからね。

 こんなネガティブな発想をするようになったのも、闇堕ちが原因かも。


「なんか、ごめん闇堕ちしちゃって」


「謝らないくていいって」


「私、嬉しいよ。性格変わってもビムが隣りにいてくれて」


「性格は変わってないよ」


「へ? でもいま……」


「前のムクロはさ、結構胸のうちに押し込むタイプだっただろ? 意識的にも、無意識的にも」


 そうかな。

 そうだったかも。


 文句とか不満とか、あんまり口にしなかった。


「それがオープンになったんだ。そういうところが『変わった』ってこと。たぶん、本質的な部分は変わってないよ。一緒に旅をして確信した」


「いまの私と昔の私、どっちが良い?」


「うーん。それぞれに魅力があるし……。へへ、どっちも」


 なんて、ビムは照れくさそうに笑った。

 何故だかとっても、もどかしい。

 どうにかしたい衝動にかられているけど、なにをしたいのかわからない。


 ただ、いまは星なんかより、ビムを見ていたい。


「あ、で、でもアレだぞ? 幼馴染みとして、だからな? べ、別に変な意味はないからな!!」


「ふーん」


「な、なに」


「別に」


「……」


 気まずさをごまかすように、ビムは視線を空に戻した。

 つられて私も顔を上げる。


 お互いの手の甲が触れ合う。


 昔は、手を繋ぐくらい平気だったのに、いまは不思議と、躊躇いがある。

 なんでだろう。


「俺さ」


「ん」


「雑用ぐらいしか役に立ってないけど、ちゃんと頑張って強くなるよ。ムクロをまも……か、監視しなくちゃいけないからさ」


「期待してる。でも、無理しないでね」


「するさ」


「しなくてもいいよ。隣りにいてくれるだけで充分」


 シャロンの復讐の件で冷静な判断をしてくれたときみたいに、これからも無茶な私を引き止めてほしい。

 でないと、バカの度が過ぎちゃうかもしれないから。


 また手の甲が触れ合う。

 やっぱり、手は繋げなかった。

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