第42話 次なる旅へ

 シャロンが生け捕りにした女は、強情で中々口を割らなかった。

 腕の出血を止めたりなんだりしてやったのに、なんつー恩知らずなやつだ。


「しょうがないですね」


 と、シャロンが女を船の使っていない部屋に連れて行く。

 それからしばらくして、


「全部話してくれました」


 笑顔のシャロンが帰ってきた。

 なにをしたんだろう。そっちの方が気になるけど、なんか聞くの怖いな。


「彼らは宝玉が秘める力についてはなにも知らないようです。ただ、ムクロさんから玉を奪い取れとしか、命令されていないようですね」


「知ったら、そいつらが素直に返さないと思ったのかな」


「それもありますね。けれど私が引っかかるのは、彼女らは『極秘』で任務を下知されていたようです。極少数しか、宝玉の存在と私たちについて知らないのです」


「極秘? なんで? ベル派のみんなで私らを捕らえにくればいいじゃん」


「大っぴらにしたくない理由があるのでしょう」


 それって、コンコン司祭が私的な理由で宝玉を欲しがっているってことじゃないの?

 世界平和のためなら、ベル派のみんなに伝えればいいんじゃないかな。


 あ〜? 大っぴらにしたらロンド派や魔族の耳にも入って大混乱になるから、とか?

 じゃあコンコン司祭は良い人? でもシャロン曰く、私たちを捨て駒にしているらしいし。


 うーん、わかんない。


「それより、ムクロさんとビムくんの家族は大丈夫ですか?」


「え? あ、うん」


「友達、が協力してくれているんでしたっけ」


「そ、そうそう!! 友達!!」


「……」


 うげぇ、絶対に疑われている。

 けど絶対に話せない。私がスヴァルトピレンに依頼したなんて、絶対。


 ビムが耳打ちしてきた。


「お前の大胆さにはつくづく脱帽するよ」


「あはは」


「本当に大丈夫なのか?」


「うん、さっき通話で、メールー教の手が届かない独自の宗教国家に連れて行ったって」


「そ、そうか。ならいいけど」


 陸が見えてきた。

 新しい土地。このまま降りて良いのだろうか。

 引き返してコンコン司祭に会うべきじゃないだろうか。


 お母さんや妹に何の説明もしていないし。


「ビム……」


「ムクロの考えていること、わかるぞ」


「へ?」


「たぶん、戻っても囲まれて殺されるだけだ」


「そっかあ」


「とにかく進もう。魔王を目指しながらいろんなメールー教のお偉いさんに会って、コンコン司祭が本当に信じられる人なのか、考えていこう」


「……」


「もしコンコン司祭が善人なら、俺たちの魔王退治には宝玉の力が必要だって、認めてくれるさ」


「うん!!」



 ビムはこういうとき、道を照らしてくれる。

 普段は私が引っ張っているけど、私が迷ったときは、手を引いて先を歩いてくれるんだ。


 シャロンが指を立てて忠告する。


「いいですか。これから私たちはひっそりと旅をします。コンコン司祭の渡航許可書はもう使えません。使えば、居場所がバレてしまいますから」


「うん」


「お金もないので、とうぶんは徒歩移動です。目立つ道は避け、森を抜けるような遠回りで、人の少ない村を点々としていきましょう」





 港に船が着く。

 遊覧船から降りて、大地に足をつける。


「なんか、私の我がままで偉いことになっちゃったけど、ついてきてくれる?」


 シャロンが微笑んだ。


「他にやりたいこともないですから」


 ルミナが鼻で笑う。


「どのみち俺には関係ない。歯向かうやつは全員ぶっ倒す、だろ?」


 最後に、ビムが笑ってくれた。


「俺は最後までムクロの味方だ!!」


 嬉しいな。こんなに心強い仲間がいてくれて。

 行こう。目指すは魔王のいる、ノーフォールマウンテン!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、半分闇堕ち聖女なんですって。〜ちょっと気になる幼馴染みと浄化の旅にでます〜 いくかいおう @ikuiku-kaiou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画