第17話 待ってろシャロン
※本編前のキャラ紹介
・ムクロ……主人公。少し荒っぽいだけの半分闇堕ち聖女。イライラすると完全に堕ちして暴走する。浄化のために冒険中。
・ビム……ムクロの幼なじみ。頼りないけど根性はある。ムクロが好き。
・シャロン……魔族と人間のハーフ。魔法が得意な女の子。一族を虐殺した仇への復讐を誓う。
・ルミナ……魔王の息子。チビで生意気だけどそこそこ強い。
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※本編
急いで山を降りて街中を走り回る。
宿も、ご飯屋も、服屋も。
けれどいない、本当にシャロンがいない。
「シャローン!!」
たいして大きくない街だし、大声出して探しているのに。
通信具で連絡を取ろうにも、まったく反応しない。
本当にいなくなっちゃった。
「ふん、マリアンヌを追ったんだ。もういないさ」
「ちょ、ちょっと待ってルミナ、なんかもう情報が多い!!」
スヴァルトピレンだのワルワル団だの聖女マリアンヌだの、単語が多すぎてついていけないよ。
頭の中ちんぷんかんぷん。
そのうえシャロンまでいなくなったし。
ビムもなにがなにやらと言った感じで、呆れたルミナがため息をついた。
「ルミナ、俺にも説明してくれよ。一体全体どうなってるんだ!!」
「頭から説明してやる、いいか? まず俺はこの街で起きた事件、そして馬車と共に消えた宝玉について調べるには、地元のワルに聞くのが手っ取り早いと踏んだ。だからお前たちと別行動で探っていたわけ」
「あ、あぁ」
「で、見事ヒット。ワルワル団とかいうギャングの下っ端を脅して情報を吐かせたら、やっぱり知っていた。というか、やつらが宝玉を回収していた。……が、あいつらじゃ宝玉を扱えないから、祭をやる都市、なんだったか」
「ジュナチネ」
「そう、都市ジュナチネで、より格上のギャングと金で取り引きすることにした。もともと宝玉は、ワルワル団がとある洞穴で発見し、神父とやらに売ったけど、その価値はあとから知ったらしい」
「そ、それで?」
「詳しい取引現場や時刻も聞き出そうとしたが、その下っ端はビビりすぎて失神しちまった。だからムクロのとこに連れてきて、起きるのを待つことにしたんだよ」
「おぉ〜」
問題はそのあと。
ルミナが連れてきた下っ端を、スヴァルトピレンの人が連れて行ってしまったとこからだ。
「スヴァルトピレンの二人、馬の調教師なんて名乗っていたが、狙いは十中八九、俺たちと同じ宝玉。たぶん、ワルワル団が所持していることまでは把握していたけど、肝心の居場所がわからなかったんだろうよ」
ビムが首を傾げた。
「なんでスヴァルトピレンまでケフィシアの宝玉を探していたんだ? 世界征服でも企んでいるのか?」
「やつらはメールー教ロンド派の顔、聖女マリアンヌ御用達部隊だ。まあ、マリアンヌからの依頼だろう」
マリアンヌは勇者に宝玉を渡して、魔族を一掃するつもりなんだろう。
ビムがルミナに代わって喋りだした。
「マリアンヌ様は聖女の仕事としてジュナチネの祝福祭に参加する。シャロンさんはそれを知って追いかけた。けど偶然にも、宝玉探しをしているスヴァルトピレンも、おそらくジュナチネに向かう」
「そういうこと。しかもシャロンは知らないだろうよ、スヴァルトピレンまで都市に集まることは」
族滅を命令したマリアンヌと、実行したスヴァルトピレンが、偶然揃う。
本当に偶然? いや、偶然か。最悪な偶然。
「それってかなりヤバくないか!?」
「スヴァルトピレンがマリアンヌ警護も兼ねる場合もある、そうなれば、シャロンは死ぬな」
「いやいやいやいや!! シャロンさんとの付き合いは短いけど、俺たちの仲間だろ!? 死んでほしくねえーよ」
「かと言って、俺たちがどうこうできる相手じゃないぜ、スヴァルトピレンはな。下手すりゃ、俺たちも死ぬ」
「どうすれば……。ムクロはどう思う?」
二人が私に視線を向けてきた。
どうするかなんて、最初から決まってるじゃん。
「行こう、ジュナチネに。まずはそこからだよ。絶対にシャロンに会う。復讐するにしても、私たちに何も言わないで消えるなんて、許さない!!」
「ムクロ、俺と戦った時の脅威的な強さ、まだ引き出せないのか?」
「うん」
「ちっ、あの状態なら多少はマシに戦えるんだけどな」
「嫌なら来なくてもいいよ、ルミナ」
死にたくない気持ちは誰にだってある。
強制するもんじゃないよね、こういうのは。
「バカにすんなよ、確実に負けるとは思っちゃいない」
「さすがルミナ。ビムはどうする? 無理せずこの街に残っていてもいいよ」
ビムは明らかに迷っている態度を見せたあと、虚勢を張るようにドンと胸を叩いた。
「行くさ、俺はムクロの監視役。もしものとき、ムクロを守る使命があるんだ」
「ふふ、かっこいいじゃん」
「へへ、そうかな〜? って、それだけじゃないぞ、俺だってシャロンさんとこのままお別れなんて嫌だからな」
そうと決まればさっそく行動開始。
自分たちの馬車まで戻って、出発の準備だ。
宝玉とか復讐とか、正直難しいことはよくわからないけど、シャロンに会いたい気持ちが私を動かす。
だって、何も言わないでいなくなるなんて、酷いじゃん。
会って必ずローキックしてやる。
「ビム、ジュナチネまではどれくらい?」
「馬車で半日かな」
「おっけー、日が沈む前に到着しよう。……ん?」
「どうしたムクロ」
「ジュナチネって、なんか前に聞いたことがあるなって」
「そりゃ有名な都市だから」
違う、そうじゃなくて、誰かから聞いたんだよその名前。
ジュナチネ。ジュナチネにどうのって……。
「あ!! 思い出した!!」
「なにを!?」
「コンコン司祭だよ。この前の通話で言ってたの、勇者パーティーはジュナチネに向かってるって」
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※ここから三人称です。
一方そのころ。
「ようやく追いつきました」
徒歩で草原を歩いていた勇者パーティーの前に、魔法で髪を黒く染めたシャロンが現れた。
勇者と、小さい少女、そしてマスクで顔を隠した女だけの三人パーティー。
「んー? お前、選考会にいたやつか?」
「ええ、覚えていてくれたんですね」
小さい少女が勇者の腕に抱きつく。
「やーん、勇者さまぁ、誰この女ぁ〜」
「妬くなよトリト、ただの知り合いだぜ」
「本当に〜? あーやーしーいー」
とかなんとか抜かしているこの少女こそ、コンコン司祭のスパイである。
シャロンは通信神具を用いてコンコン司祭を経由する形で、彼女から勇者の居場所を聞き出したのだ。
ジュナチネにマリアンヌが来る。
そしてコンコン曰く、勇者はジュナチネに向かっている。
十中八九会うだろう。というか、会うためにジュナチネに向かうのだ。
故に、シャロンは勇者に接触したのである。
「で、何の用だよ魔法使い」
「私も仲間に入れて欲しいのです」
「あぁ? てめえあの闇堕ち聖女の仲間になったんじゃねえのかよ。……ちっ、思い出すだけで腹が立ってきたぜ」
「えぇ、ですがやはり勇者様が忘れられなくて……。この胸の高鳴り、恋でしょうか?」
にやにやと勇者が笑みを浮かべる。
「へへ、そうかそうか。まあ俺は別にいいけどよ。ちょうどいいぜ、これからジュナチネでママに会うんだ。パーティーメンバーは一人でも多い方が様になるからな」
「ありがとうございます!!」
感情のこもっていない感謝を述べて、シャロンはもう一人の、マスクで顔を隠した女を見やった。
おそらく、ロンド派のスパイ。
彼女に素性がバレるわけにはいかない。
「あれ? そういえばお前、名前なんだっけ?」
「シャモモンです」
「よしシャモモン、俺についてこい!!」
勇者たちの後に続いて、シャロンは歩き出す。
ふと、背後が気になって後ろを向いた。
なんとなく、ムクロが追いかけてきているような気がした。
黙ってパーティーから抜けてしまったこと、心から申し訳ないと感じる。
「遠回りしちゃいましたね」
結局、当初の予定通りになってしまった。
勇者に取り入りって、マリアンヌに接触する予定に。
だが後悔はない。
シャロンにとって最も大切なのは、復讐なのだから。
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