第6話 司祭の思惑、シャロンの秘密
「まったくなんたることだ!!」
翌朝、立派な塔の応接室で、私はコンコン司祭に怒鳴られた。
「勇者パーティー選考会に落ちるどころか、喧嘩しただとお!?」
「ごめんなさい」
しかも公衆の面前で恥をかかせちゃいました。
「お前を浄化するためにワシが提案したのに、自分が置かれている状況がわかっているのか!! ジムビム!! 君がちゃんと監視してないから」
「も、申し訳ございません!!」
ありゃ、ビムまで怒られちゃった。
「ごめんビム」
「だから言ったのにぃ、って言いたいとこだけど、俺もあの勇者嫌いだったし、ムクロがあんなやつの手下になるの、正直めちゃくちゃ嫌だったから、今回は許す!!」
「ありがと」
「なにをコソコソ喋っているのじゃ!! はぁ、本当にお前というやつは。で、独自にパーティーを組んで魔王を倒したいだったな。ったく、どういう立場で我がままを通そうとしているのか、甚だ疑問じゃわ。度し難い。理解できん」
かなり怒ってる……。
うーん。さすがに調子に乗りすぎたかな。
「どうするか、お前のことじゃからーー」
「その前に」
シャロンが口を挟んだ。
「誰じゃキサマ」
「はじめまして。選考会でムクロさんと仲良くなったシャロンです。いくつか質問があるのですが」
「申してみよ」
「勇者様、今朝方街を発ちました。パーティーメンバーは選考会に参加していた者から三名、聖女マリアンヌが選んだ騎士と聖女が二名の計六人パーティー」
「それで?」
「選考会からの三人は、コンコン司祭様の息がかかった聖女と傭兵だそうです」
「……」
明らかに司祭の顔色が変わった。
なになに、シャロンってばなに言い出すの。
ていうかいつそんなの調べたの?
「そこまでして、どうして勇者パーティーに介入したいのですか? 考えられるのは……①魔王討伐の手柄をロンド派だけに渡したくない。②ロンド派の秘蔵っ子勇者を懐柔したい。③勇者が接触するであろう『何か』に用がある。④勇者を殺したい。でしょうか」
「ふんっ、ムクロ、聡い者を引き込んだようじゃな」
うん。私もビムも難しいことは苦手だからね。
頭良いやつが欲しかったのさ。
「ワシからは何も語らん。むしろ、語る気にならん。先に話すのはお前の方だろうシャロン。お前の目的はなんだ。勇者パーティーに入ろうとして、いまはムクロの仲間。実に怪しい」
「……そうですね。確かに私には言えませんね。なら、これで信じてくださいますか?」
シャロンは立ち上がると、服を脱ぎ始めた。
まさかセクシー攻撃? とワクワクしたけど……。
「シャロン、それ……」
顕になった背中に、紋様が描かれていた。
丸と三角と、昔の文字を織り交ぜた紋様。入れ墨? 痣?
「カフノーチ族にだけ現れる痣。これで信じてもらえますか?」
コンコン司祭は長考の末、頷いた。
「シャロン、カフノーチ族って?」
「魔法を得意とする魔族の一種です」
「へー。だからシャロンは魔法使いなんだね」
「混血ですけど」
「でも、なんでカフノーチ族だって明かしたら信じてもらえることになるの?」
「それはですね」
一瞬、シャロンの瞳に闇が宿った気がした。
「ロンド派に滅ぼされているからです」
「え、じゃあシャロンは……」
「はい。唯一の生き残りってやつですね」
ロンド派、つまり勇者や聖女マリアンヌが属するメールー教の一派。
ならシャロンの目的は……復讐?
だから勇者に近づいたのかな。
「コンコン司祭様は察しているでしょうが、私の行動原理は復讐です。カフノーチ族を族滅させるよう指示した人間。実行した連中への。……まあ大雑把に言えば、ロンド派は私の敵というわけです。はじめは直に勇者に接触するつもりでしたが、ムクロさんを通してコンコン司祭と繋がるのも悪くないと判断しました。……あぁ、ふふ、ムクロさんに惹かれたから、というのは本当ですよ」
シャロンがニコリと微笑んだ。
なるほどね。私は利用されているわけか。
怒るべき? いいよ、シャロンなら許す。
コンコン司祭がため息をついた。
「シャロン、お前の境遇はわかった。なるほど、カフノーチ族の生き残りか。……いいじゃろう、話そう。なぜ勇者パーティーに介入したいか、だったな。シャロン、君の説はすべてあっている」
「すべて?」
「つまり、勇者への対応は状況によって変化するということじゃ。……はぁ、まったくお前たちはワシにとって吉か凶かわからんな」
「で、コンコン司祭。私たちは独自にパーティー組んでいいの?」
「……いいじゃろう。こうなっては仕方あるまい。ならば、本来お前たちに伝える予定だった別任務についても明かそう」
「任務って?」
「表面上は魔王退治を進めつつ、『ケフィシアの宝玉』を回収するのじゃ」
「なにそれ?」
「お前が殺した神父が、隠し持っていた秘宝じゃ」
それってつまり、消えた馬車の積荷ってこと?
「とてつもない力が秘められた宝玉。手にすれば、気に入らないものすべてを消しされるほどの。まあ、使うには相応の力が必要だが」
「なんでそんなものを神父が?」
「さあな。とにかく、それをこちらが回収する前に、例の事件が起こり、馬車ごと消えた。ロンド派の手に渡ったのか、魔族が盗んだのか、単純に馬が荷台ごと逃げてしまったのか、わからぬが、決してどちらにも渡ってはならない」
確かに、シャロンの一族を滅ぼすような一派に使わせたくないね。
それにしても、はあ、やることが多いよ。
魔王、もしくは私を闇堕ちさせた魔族を倒して浄化。
ケフィシアの宝玉を手に入れる。
大変そう。絶対大変。
「ロンド派が入手したならば、おそらく勇者に渡すじゃろう。勇者しか使いこなせる者がおらんだろうしな。だから……」
「そのときには勇者から奪わなくてはならない」
「そうじゃ」
「ぬわ〜、体がいくつあっても足りないよお!!」
「心配するな、勇者の動向はこちらのスパイが報告してくれる。もしものときだけ、お前たちに頼む形になる。元々、常にロンド派の動きを間近で監視ししつつ、即宝玉を奪える形にしたくて、勇者パーティーに入れと命令したのじゃ」
「なるほど!! よかったあ」
なにはともあれ、とにかく今は仲間集め。
勇者を倒せるくらい、強いパーティーを組むのだ。
「ビム、なんか面倒なことになっちゃったけど、ついてきてくれる?」
「もちろん!! ていうか、単純に魔王を倒すよりずっと安全そうでホッとしてるよ」
「なんで?」
「ケフィシアの宝玉を使えば、楽に魔王を倒せるじゃないか」
「おお!! ビム冴えてる!! でも、私たちに使えるの?」
「そこは……根性だ!!」
シャロン、私よりビムの方がよっぽどシンプルだと思うよ。
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応接室を出たあと、塔の階段を降りている途中でシャロンが呟いた。
「怖い人ですね、コンコン司祭」
「怒鳴り声に迫力あったよね」
「そうではありませんよ。あの人は、私たちを捨て駒として利用するつもりです」
「そうなの?」
「仮に万が一勇者にケフィシアの宝玉が渡り、私たちが力づくで奪うとします。すると私たちは世界平和のために旅する勇者を裏切った極悪人。最悪、勇者殺しの汚名を背負います。そんな輩を、あの人が匿うはずがありません。利用するだけ利用して、正義の名のもとに処刑するでしょう。……本来は、そのパターンを想定したいたはずです」
ふーん。
抜け目ない爺さんだな。
「でもいまは、勇者と別行動を取ることになったじゃん。上手く行けば、勇者に渡る前にこっそり盗めるかもね」
「ふふ、そうですね。実はまだ誰も発見していない可能性だってありますから、自由に捜索できます」
「あ!! じゃあ宝玉手に入れたらさ、脅しちゃおうよ!! 逆らう奴は片っ端から消すぞっ!! ってさ。そしたら絶対に処刑されないよ」
「す、凄いこと考えますね……。リスクが高すぎるのでやめた方がいいですよ。そもそも使いこなせるかわかりませんし」
そっか、残念。
メールー教のトップに君臨できるチャンスかと思ったのに。
「でもさ、良かったの? コンコン司祭にカフノーチ族だって明かして」
「良くはないですね。けれどあぁでもしないと、旅をさせてはもらえなかったはずです」
「なんで?」
「ムクロさんは我がままで何をしでかすかわからないので、利用できないと考えたはずです。たぶん、独房行きにするつもりだったでしょう。……なので、少なくとも私は本気だと伝えたことで、利用価値を復活させたのです」
「え、じゃあ私のせいじゃん。ごめんね」
「良いんです。私のような怪しい女を仲間にしてくれた恩返しみたいなものですし、私もムクロさんをもっと観察していたいですから」
シャロンが優しく微笑んだ。
なんだか申し訳ないことをしちゃった。シャロンにはあんまり苦労をかけないようにしよう。
にしても、観察か……。
採集された昆虫を連想して苦笑いを浮かべていると、ビムが問いかけてきた。
「あ、あのさ、万が一勇者から奪った場合は、俺もついでに処刑されるってこと?」
「お〜確かに〜。とんだハズレくじ引いちゃったねぇ」
「新人の俺が監視役に選ばれるなんてラッキーすぎると思ったんだよ……」
「大丈夫、そんときは私が守るよ」
「……きゅん」
てなわけで、私と世界の浄化をかけた大冒険がはじまるのでした。
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※あとがき
どうか応援よろしくお願いします。
頑張れます。辛い人生。
↓↓
シャロンちゃんの紹介ページです。
https://kakuyomu.jp/users/ikuiku-kaiou/news/16818023212619568811
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