第2話 ジムビムと勇者とシャロンちゃん

 裁判が終わった。

 というか、裁判といえるものだっただろうか。

 なんというか、コンコン司祭の良いように言いくるめられただけ、のようにも思える。


「はぁ」


 私の刑は一応、無期懲役。

 だけど当面は保護観察処分らしい。


「えっと、じゃあ、帰ろう」


 裁判所から出て、街の景観を眺めながら歩き出す。

 木と石で組み上がった家屋の数々。

 大通りを賑やかに彩る人々や屋台。


 一応、一年ぶりの帰省なのだけど、記憶的には昨日ぶり。

 けど。


「視線が痛い……」


 通り過ぎる人々が、私を侮蔑するような眼差しを向けてくる。

 この真っ赤な瞳のせいだろう。


 闇堕ちの証。魔族の仲間である証。


 肩身が狭いな。

 だいたい、なんで私はこんな目に遭っているんだ。

 気づいたら容疑者にされて、闇堕ちまでしちゃって、地元でも白い目で見られて。


 理不尽極まりない。

 なんか、すごくイライラしてきた。

 胸もドキドキする。体が熱い。


 なにもかもを壊したくなってくる。


 と、


「おーい!! ムクロ〜」


 背後から男の声が聞こえてきた。

 短い金髪の、高身長イケメン。

 腰に剣を差している、騎士団『スピリッツ』の男。


「あ!! ビムじゃない」


 ジムビム。私の幼馴染だ。


「ビムって呼ぶな!! 略すならジムだろ!!」


「だって普通じゃん。ていうか、なにその剣。あそっか、私が派遣されるタイミングで騎士団に入ったんだもんね、そっかそっか、一年ぶりになるのか。背、伸びたじゃん」


「じゃ、じゃん……?」


「どうしたの?」


「お、お前、ムクロなのか? そんな喋り方するやつじゃなかったはずだぞ?」


「うーん。闇堕ちしちゃったらしい」


「ほ、本当に闇堕ちしてたのか……報告は聞いていたけど……まさか……」


「目も赤いでしょ」


 昔の私とあまりに違うから戸惑っているんだろうな。

 確かに、なんとなくだけど、前はもっと大人しい性格をしていた気がする。

 性格の変化。十中八九、闇堕ちが原因なんだろう。


 いまはまだ口調が変わった程度だけど、そのうち、もっと凶暴になっちゃうのかな。


 ビムのことも食べちゃったりして。


「いったいなにがあったんだ!?」


「うーん、それがねえ、よく覚えてないの。派遣されてからの一年間の記憶がまったくなくて」


「で、気づいたら闇堕ちしていた」


「うん。嫌いになった?」


「う、うーん。かなり動揺しているけど……。でも、ムクロはムクロだ!! 慣れることにする!!」


「でももしかしたら私、人殺しかもよ?」


「いや!! ムクロは絶対に無実だね。ムクロほど優しい女の子が、人を殺すわけがない!! もし本当に殺してたら、俺も一緒に死刑になってやる!!」


「おぉ〜、かっこいいね〜」


 ビムは変わらないな。

 顔を見たらイライラが解消されてきた。

 話していると落ち着く。


「ふふふん、この一年、ムクロのために男を磨いてきたからな。……ってあ、あれだぞ? べ、別にお前を意識してるとかじゃないからな!!」


 わかってるよ。

 ビムは小さい頃から、私と正反対の女性が好みだって言ってたし。


「ふーん。それで? なんか用?」


「用もなにも、君は保護観察中だろ? だから俺が、ムクロの監視役に志願したんだ!!」


「へー。すごい大役任されたね。少しは剣術上手くなったのかな? 同世代の男子で一番へっぽこだったけど」


「へっぽこ!? そ、そりゃ剣術はいまいちだが……こ、根性ならスピリッツで一番だぞ!! 君もそう言ってくれたじゃないか!!」


「お世辞じゃない?」


「知りたくなかったそんな事実!!」


「ははは」


 ていうか、バリバリの身内が監視役でいいのかな。

 知らないおじさんよりかはマシだけど。


「たぶん、私の方が強いよ」


「そんなわけあるか!! スピリッツに入団してから毎日筋トレと剣術の稽古をやってる俺が、そんじょそこらの女の子に負けてたまるかっての!!」


「ふふふ、私闇堕ちしてるからね、パワー増してるよ。……ほら」


 ためしに異能を発動してみる。

 

「ぬわ、サムっ!! 真冬みたいだ。す、すごいな、前は肌寒い程度だったのに」


「あれぇ? おかしいな。カチコチ凍結させるつもりだったんだけど」


「気軽に凍結させないで!!」


 うーん、思ったとおりに温度が変わらない。

 もし神父殺しの犯人が私なら、人を殺せるくらいの力は発揮できるはずなのに。

 コントロールができてないのかも。


「血を沸騰させるのはできるかな?」


「試すなよ!! 絶対に試すなよ!!」


「……えい」


「うぎゃああああ!! 死ぬううう!!!!」


「あはは、なにもしてないよ」


「ム、ムクロォ……。前言撤回!! お前は悪い女だぜ!!」


 ふふふ、ビムが監視役ならいくらでも悪いことできそう。

 よく許可が降りたものだ。


「ま、別に逃げたりしないから安心して監視しなよ。ビムなら四六時中一緒でも嫌じゃないし」


「え!? い、家でも一緒ってことだぞ!? 嫌じゃないの!?」


「だから別にいいって。子供の頃から二人で寝たり、お風呂入ったりしてたじゃん。最近はしてないけど、今でもビムになら裸見せられるよ。そういう仲じゃない、元々」


「そ、そうだよな!! ははは!! ……まてよ、それって男として見られていないってことなのか? うぅ……」


「いつまでも喋ってないで私ん家に行こう。家族に会いたい」


「い、いやいや。ムクロ、勇者パーティー選考会に参加することになってるじゃん」


「え、帰っちゃダメなの?」


「選考会はいまからだぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 選考会は街の広場で行われる。

 私が向かうと、すでに二〇人ほどの若い男女が集まっていた。

 騎士、聖女、よくわからない人。等々。


「頑張れよムクロ。勇者と一緒に魔王を倒して、浄化するんだ!!」


 せめて明日にやってほしかった。

 お母さんや妹に会いたかったのにさ。


「ビムこそ、私を監視するんだったら同じパーティーメンバーにならないとね」


「確かに!! や、やばい、緊張してきた!!」


 騒がしいやつ。


 人混みをかき分け進んでみると、


「時間だな、よーし、俺様の仲間にふさわしいメンバーを募集する。ははは、まあ、本当は魔王退治なんぞ俺様一人で十分なんだが」


 銀色の髪をした、背の低い小太りの男が、偉そうに笑っていた。

 こいつが勇者か。

 ふーん。なるほど、ただものではないオーラを感じる。


「ねえビム、勇者って何なの?」


「え、えっと〜」


 ビムも知らないのかな。

 それほど有名じゃない? いや、ビムの場合はシンプルに物覚えが悪いからなあ。


「神に選ばれし子、ですよ」


 私の隣にいた女性が優しく教えてくれた。

 ローブを着た、背の高い女性。たぶん私より歳上だろう。


 長い緑色の髪と瞳に、長い杖。

 聖女、じゃなさそう。


「神に選ばれし?」


「えぇ。聖女マリアンヌが神より授かった子供です」


 聖女マリアンヌ。

 知ってる。聖女界隈でもトップの権力を持つ聖女クイーンだ。

 メールー教の中心人物の一人で、主に西部地区の聖職者を指導している。


「そういえば、旦那もいないのに出産したってニュース、聞いたことがある」


「えぇ。そのときの子供です。真偽の程は不明ですが、ある晩、神の使いが舞い降りて、マリアンヌ様のお腹に命を宿したらしいのです。それが勇者様。まあ、メールー教ロンド派の虎の子ってわけですね」


「ロンド派……。あ〜」


 メールー教協会も一枚岩ではない。

 大きく二つの派閥に分かれている。ロンド派とベル派。

 コンコン司祭はベル派。私もベル派の教育機関で聖女として育てられた。


 というか、この街のほんどはベル派だ。


 わかりやすく説明するなら、『西側』か『東側』という感じ。

 どうして仲が悪いのかは、詳しくはしらない。


 魔族に対する価値観とか、免罪符の存在とか、様々らしい。


 まあ端的に、権力闘争的なやつなんだろう。

 

 そんでもって聖女マリアンヌは、バリバリのロンド派なのだ。

 でも、なんで勇者がベル派が支配する街にいるんだろう。


「お互い頑張りましょう。えーっと」


「ムクロ」


 そういえばこの人、私の目を見ても普通に話してくれるんだ。


「ふふ、私はシャロン。よろしくお願いしますね、ムクロさん」






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※あとがき


情報量が多いですね。

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