第3話 勇者パーティー選考会

「よーし、お前ら、まずはパーティーに入れる聖女を決める。各々、異能を見せてもらうぜ」


 聖女たちが大声で自己主張をはじめる。

 私は傷を治せます。私は占いができます。私は変身ができます。


 しまいには、


「勇者様、私、これまで男性とお付き合いしたことないんです。でも、勇者様のこと、一目惚れしちゃいましたあ」


「私もぉ、いろんなことで勇者様に貢献できると思いますぅ」


 などと、明らかに媚を売るものまで。

 聖女のくせに娼婦みたいな真似しないでほしいな。同じ聖女として恥ずかしい。

 どういう教育受けたんだろう。


 神の子の仲間に選ばれる、それだけで栄誉なのだろうな。

 優良企業に就職するようなもの。

 名声や憧憬なんて自然と集まる。今後の人生勝ち組確定。


 でも、わかってるのかな。魔王を倒す旅をするんだから、危険がいっぱいなのに。


「ほうほう、おおかた決まったな。よし、次は戦闘員だ。こいつを見ろ」


 勇者が注目を集める。

 それに合わせて、騎士らが縄で縛ったゴブリンを連れてきた。

 一匹じゃない、けっこうな数だ。


 ゴブリン。一般的な低級モンスター。

 人や動物を遅い、血肉を貪る怪物だ。


「知っての通り、ゴブリンは魔王の手下の中でも貧弱な部類。が、力を見るには充分だ。一人ひとり、実力を示してみろ。まずは……そこの女!!」


 シャロンが指される。


「わかりました」


 一匹のゴブリンの縄が外される。

 自由を手に入れたゴブリンは、虚勢を張るように、自分を取り囲む人間たちを威嚇しはじめた。


「頑張ってねシャロン」


「一応、メンバーの座を奪い合うライバルですけど」


「あそっか。うーん、私より目立たないくらいで頑張って!!」


「な、中々難しい注文ですね」


 シャロンが前に出る。

 手に持った長い杖を振る。


「ジムビムくん、少し、剣を借りますよ」


 瞬間、ビムの腰の剣が勝手に抜かれ、宙に浮き、


「行け」


 矢の如くゴブリンを目指して飛翔した。

 もう少しで突き刺さる。誰もが息を呑んだ瞬間、剣が停止する。


 刺さらなかった。ゴブリンは安堵しつつも、腰を抜かしてしまった。


「磁力を操る魔法が使えます。範囲内にある鉄は、すべて思いのままです」


「ほう、魔法使いだったとはな」


 凄い。じゃあ敵が剣で襲ってきても、魔法で防いだり、剣を奪ったりできるってことだよね。


 ん? でも確か魔法って魔族が使う術だったはず。

 じゃあシャロンは魔族? 目は赤くなかったけど。


「魔族と人間の混血です。不服ですか? 勇者様」


 混血だと目は赤くないんだ。


「いいや、俺様はフェミニストだからな、誰であろうと女には優しい男なのさ。それに……ひひひ、良い体してるしよお」


 勇者が手を伸ばす。

 シャロンの胸をめがけて。

 こいつ、いくらシャロンがナイスバディだからって。


「楽しめそうだぜ」


 が、揉まれる寸前、シャロンが勇者の腕を掴んだ。

 ナイスガード。


「異性として見られたくはないのですが」


「あ? 良いじゃねえかよ。俺は勇者だぞ」


「この胸には、揉んだ男が呪い死ぬ魔法がかかってますので」


「ちっ」


 あんたの恋人を募集する選考会かよこれは。


「ふん。まあ実力は申し分ねえ。しかし、一つ不満があるな」


「なんでしょう?」


「甘い」


「は?」


「ゴブリンに、容赦してんじゃねえよって……」


 シャロンが停止させた剣を勇者が握る。

 そして、


「話だ!!」


 問答無用でゴブリンの首を跳ねた。


「こいつらは豚以下の下等生物だ。人間を襲うゲロカス未満の生き物に、優しさなんて見せるほうが罪なんだよ」


 さらに、縛られていた他のゴブリンを刺殺する。

 ゴブリンたち、すっかり震え上がっている。


「わかったかな? 魔法使いちゃん」


「え、えぇ。勉強になりました」


「よーし、次。女じゃなくても、強けりゃ男でも良い。ほら、誰かいないか。俺様と一緒に、大義と正義のために、聖なる戦いをしようぜ」


 ふふ。

 やば。つい鼻で笑っちゃった。


 あ、勇者がこっち見た。


「あ〜ん? なんだてめえ、魔族か? なにがおかしいんだ?」


「別に。バッチバチの差別主義者のくせに偉そうなこと言ってるじゃんと思って」


「はあ?」


 ビムが耳打ちしてくる。


「お、おいムクロ。勇者を怒らせてどうする。そりゃムカつくやつだけどさ」


「ごめんビム。たぶん、前の私だったらこんなこと言わなかったでしょ。でもさ、私もう、闇堕ちしちゃってるから」


 勇者が私を睨みつけた。


「差別? ゴブリンを殺したことか? はは〜ん、わかった。お前が噂の闇堕ち聖女だな。神父と騎士を虐殺した大罪人。お仲間のゴブリンが殺されて悲しいってかあ?」


「まだその事件は捜査中だよ。私が犯人だって確定してない」


「知らねえよ。いいか、ゴブリンはな、平気で人を食うバケモンなんだよ!!」


 また、ゴブリンを殺す。


「あのさ、なにも私、ゴブリンの味方してるつもりはないよ。人を襲う。だから殺される。自然の摂理。ぶっちゃけそのへんはどうでもいい。……私が気に食わないのは、あんたが意味もなくゴブリンを殺してることだよ。シャロンの力はちゃんと示されたってのに」


「あぁ?」


「だいたい、ゴブリンなんてのは住処に近づかなきゃ襲ってこないでしょ。たまーに人里に降りちゃうのもいるけど」


「俺様が誰だかわかってんのか、メス!!」


「うーん、わかった。もっとシンプルに言うなら……。なんかムカつくんだよてめー」


「殺す!! ぶち殺す!! クソ聖女が!! 神に代わって、ぶっ殺す!!」


「ははは、神なんているわけないじゃん」


 ごめんコンコン司祭。

 勇者パーティーに入れそうにないや。

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