第4話 ムクロvs勇者
選考会参加者たちがヒソヒソと喋りだす。
やれ「身の程知らず」だの「勇者様に勝てるわけない」だの。
好き勝手言ってくれる。やってみないとわからないでしょ。
負けら負けたで、ごめんなさいすれば良いんだよ。
こんなもん、喧嘩なんだから。
「覚悟しろよ」
「ん!!」
私が前に出る代わりに、シャロンが下がる。
そのすれ違いざま、耳打ちしてきた。
「本気でやるんですか?」
「もちもち。シャロンだってあいつムカつくでしょ?」
「き、気持ちはわかりますけど……勇者なだけあって、強いですよ?」
「そうなの?」
「鉄より頑丈な体、巨岩を持ち上げる怪力、あらゆる状態異常を跳ね除ける神の加護。性格はアレですけど、本当に強いです」
「わかった。教えてくれてありがとう。たぶんなんとかなるよ」
「え!? 私ですら一対一は避けたい相手なんですよ。いくら闇落ちしているとはいえ……」
「じゃあ、マジでヤバそうだったら加勢してよ。大勢でボコボコにしちゃおう!!」
「なるほど!! その手がありましたか……って、私が加勢したところで苦戦すると思いますけど」
うそうそ。これは私の戦いだからね。
巻き込んだりしないよ。
軽くストレッチして、こいよと手招き。
勇者は殺気を宿した眼光のままに、突っ込んできた。
カチコチにしてやる。
と異能を発動したのだが、
「あれ!?」
なんの反応もない。
そして、
「一撃必殺!!」
勇者の拳が私の腹部にめり込んだ。
「うっ!!」
「ちっ、浅いか」
ギリギリ、直撃寸前に後ろに下がってダメージを軽減させたけど、意識が飛びそうになった。
そのまま後退して距離を取る。
焦った。負けちゃうかと思った。
しかし、強いなこいつ。
状態異常無効って、私の異能すら跳ね除けるのね。
さすが勇者なだけある。
「どうしたメス。全裸で土下座したら許してやるぜえ?」
「うっざあ」
こいつ腹立つ。
舐めた態度取りやがって、ただじゃ済まさない。
イライラする。
ぼーっとしてきた、頭が熱くなっているんだ。
絶対に一泡吹かせてやる。
一泡? そんなもんじゃ納得しない。
殺したい。
ぶっ殺して、大衆に内臓を曝け出してやる。
涙でぐちゃぐちゃに歪んだ顔面を切り取って飾ってやるよ。
ここにいるバカどももだ!!
全員、殺してーー。
「ムクロ」
ビムに名前を呼ばれて、ハッと熱が冷めた。
「む、無茶するなよ〜」
はは、ビムってば、あんなに心配そうな顔して。
ふー、冷静になろう。
物騒な考えは捨てよう。
でもどうしよう。たとえ力をコントロールして殺す気でかかっても、意味がない。
勇者に異能は通用しない、か……。
普通に殴ってもダメージ入らないだろうし。
あ、そっか。
「もういっちょ行くぜ」
「異能発動!!」
また凍らせる。
「はっ、てめえの能力なんぞカスなんだよメスゥ!!」
「そうかな?」
「あ? え?」
ちゃんと凍らせたよ。
あんたの、服をね。
「な!? バカがてめえは、服なんか凍らせてなんになる」
勇者が強引に歩き出す。
目論見通りに。
すると、
「なにぃ!?」
服がボロボロと崩れだした。
まるで枯れた落ち葉を力を込めて握ったように。
本来柔らかい素材である布が、凍ったことで繊維が傷つき、柔軟性も失われた。それを勇者お得意のパワーで無理やり動かせば、破けて落ちるわけだ。
そうなってしまえばもう、勇者を包むものはない。
「きゃーっ!!」
女たちが顔をそむける。
男たちが、ニヤニヤと笑い出す。
「なんだよあれ」
「小指がついてるぜ」
よくもまあ、あんなもんでセクハラしまくってたわ。
勇者のやつ、内股になって顔を真っ赤にしている。
「全裸になるのはあんただったね、オスくん」
「キ、キサマァァァァ!!!!」
「まだ戦うの? 醜態晒しながら? さすが天下の勇者様。こりゃ敵わないわ〜」
「う、うぅぅ。お、覚えとけー!!!!」
あらら、勇者様ってば逃げちゃったよ。
はは、でもラッキーだったな、あいつがプライドの高い男で。
真っ当な戦いなら負けてたし。
「ム、ムクロ!!」
「やあビム。見てた? 私の活躍」
「見てたけど……。ど、どうするんだ? 勇者パーティーに入って魔王を倒すんだろ!?」
「あ〜、そういう話だったね」
「確かに、勇者はうざい。あいつに媚びへつらって生きるのは死ぬほどしんどいだろうさ。けど魔王を倒さないと闇落ちが浄化されないんだぞ」
究極の二択だ。
アホ勇者の下僕なんぞなりたくないが、浄化はしたい。
けどねビム、そう慌てることはないんだよ。
「それなんだけどさ、考えたんだよね」
「な、なにを?」
「勇者のやつ、どうせ適当にパーティー組んで魔王倒しに行くんでしょ? ならこっちも、気の合うメンバーで倒しに行く。つまり二手に別れて行動すればいいじゃん」
勇者は勇者のパーティーを。
私は私のパーティーを作るのだ。
要は魔王を倒せばいいだけなんだから。
実際あいつは強いんだし。勝てるって魔王とやらにも。
「で、でもコンコン司祭が……」
「だいたい、仮に私が勇者パーティーに入ったら、ビムは私を監視できなくなるんじゃない? あいつ、あんたみたいなへっぽこ騎士なんか仲間にしないだろうし」
「うぐっ!! むむ〜。ってあれ!? そ、そんなに俺と一緒にいたいの!?」
「うん。だって知り合いがいるほうが楽しいじゃない」
「きゅん……」
「きゅん?」
「あ、いや、そ、そうだな。お、俺もお前と一緒にいたいしな。あ、いや、幼馴染として、幼馴染としてだからな!!」
コンコン司祭にはなんて伝えようか。
さすがに素直に謝ろうかな。
「とにかく、私もパーティーメンバーを集めるよ。まずはビム、そんであとは……」
「私もいいですか?」
シャロンが近づいてきた。
ナイス。ちょうど誘おうと思ったんだよね。
「もちろん。でもいいの? 勇者パーティーに入りたいんじゃないの?」
「それはそうなんですけど……。ふふ、ムクロさんといた方が楽しそうなので」
「よーし、できればあと一人は仲間が欲しいな」
「四人揃ったら、すぐに出発ですか?」
「そうしたいけど、まずはコンコン司祭に謝らないと。ごめんなさい、やっちゃいましたって」
「いまのところ、それが最優先事項みたいですね」
「んにゃ、最優先事項は別にある」
「?」
裁判がはじまって今まで、ずっと何も食べてない。
それに、いろいろありすぎて疲れた。
「家に帰る」
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