第38話 ビムの根性

 さらに日を跨ぎ、ついに出港日当日。

 私とシャロン、そしてホワイトホスは、海岸でビムを待っていた。


「ムクロ姫、彼に絶望を味あわせることになりますが、よろしいですか?」


「好きにしなよ」


「そうですか。……おや、ようやく来たようですね」


 二人の人影がこちらに向かって歩いてくる。

 一人はルミナ。もう一人はもちろん、


「ビム!!」


 額に包帯を巻いた、私の幼馴染だった。

 へへ、久しぶりのビムだ。凛々しい顔つきになっちゃって、男らしさ増してるじゃん。


「ホワイトホス、リベンジだ!!」


「完膚なきまでに叩きのめしてやりますよ」


 安全のため私たちから距離をとり、お互いに剣を抜く。

 本当は宝玉剣を使って欲しかったけど、間に合わなかったから残念。


 ルミナが私の隣に立った。


「もう、ちょっと前のビムじゃないぜ」


「ルミナありがとうね、ビムの修行に付き合ってくれて」


「……ふん。狭い宿に二人で泊まってたから、寝不足になっちまったぜ」


 お喋りしていると、さっそくビムが切り掛かった。

 ホワイトホスは上手く防御したけれど、ビムの連続攻撃に防戦一方だ。


 すごい、この前とまるで動きが違う。


「うおおお!!!!」


「くっ、やられる!!」


 ビムがホワイトホスの剣を弾く。

 その一瞬の隙をつき、剣を突きつけた。


 か、勝った!!


「俺の勝ちだ!!」


「……腕を上げたようですね」


 な、なんだか呆気なかったな。

 それくらい、ビムが成長したってことだ。


「散々バカにしてすみませんでした。どうか、友好の握手をお願いします」


「お、おう!!」


 二人が熱い握手をかわす。

 これにて一件落着だね。


 あとはビムに宝玉剣をプレゼントとしたら、船に乗ろう。


 そう思った矢先、ホワイトホスが倒れた。


「え!? ど、どうしたのビム」


「さあ? 疲れたから寝るって」


 ここで?

 最後まで変なやつ。


「さ、行こうぜムクロ」


「え、うん」


 にしても冷たいな、ビムってば。

 普段ならホワイトホスを宿まで運んであげそうなのに。

 それくらい怒ってるのかな。


 ビムがこちらに向かって歩いてくる。

 すると、


「止まれ」


 ルミナがビムを睨んだ。


「絶眼の力を舐めるなよ。お前、パラサイトヒルだな」


「……くく、くくく、なるほど、絶眼持ちか」


 な、なんだなんだ?

 ビムの様子が変だぞ。


「シャロン、パラサイトヒルって?」


「低級の魔族です。自分より大きな生き物に寄生して、操る能力があります」


「じゃ、じゃあビムは操られてるの?」


「ホワイトホスも操られていたようです。その宿主が、おそらく先ほどの握手でビムくんに変わった」


「うそ……」


 で、でもいったい何のために。

 そうか、私がビムと一緒が良いって言ったから。

 ビムに乗り移って、旅に同行するつもりだったんだ。


「けっ、つくづく上手くいかねえーなー。作戦を練り直すしかねえか」


「あ、あんた!! 何を企んでんのよ!!」


「俺様はな、頂点に立ちてえんだよ」


「頂点?」


「他のヒルどもは、この力で餌になる人間を誘き出して食うことしか考えてねえ。けどな、俺様は違う。この憑依の力は天下を取れる!!」


「なにいってんの?」


「魔王退治をするお前らに同行し、魔王を倒した段階で、お前らの中で一番強いやつに憑依すれば、俺様が新たな魔王になれる。そう思っていたが……こうなったら、そこの魔王の息子に乗り移ってやるぜ」


「させるわけないでしょ!! ビムを返して!!」


「ギャハハ!! 返せって言われてよお、素直に返す悪党がいるかよ!!」


 こいつ、殺す。

 絶対に殺す。


 よくも、よくもビムを利用したな。

 許せない。必ず殺す。


「おー、すげえ殺気。けど、どうやって俺様だけを殺すんだあ?」


「はあ?」


「俺様の本体は、こいつの腹にピッタリとくっついている。わかるか? 腹だぞ腹!! 急所だ!! 力づくで攻撃すればあ? こいつも死んじまうぜえ!! ギャハハ!!」


「うっ……」


「それとも、こいつもろとも俺様を殺すか? できないね、できないできないね!! できねえだろうがよ仲良しパーティーちゃんどもがよお!!」


 確かに、そんなことできない。

 シャロンならどうにかしてくれるんじゃないだろうか。

 懇願する思いで顔を見やったが、シャロンも悔しそうに唇を噛み締めていた。


「シャロン……」


「すみません、私の力では……」


 どうしよう。どうすればいい。

 どうすればビムを助けられる。


「ムクロちゃんよお、やっぱりこいつは『足手まとい』だったなあ!!」


「そんなことない!!」


「そんなことあるんだよ!! 役にも立たねえザコのくせに、お前を守りたいだあ? 笑わせるぜ。……だいたい、頭もイカれてるよな、俺様も演技でお前に媚びていたが、てめえみてえなちんちくりんのガキ、普通好きになるわけねえだろお!!」


 ビム、もといパラサイトヒルが、警戒気味にルミナに近づいていく。


「動くんじゃねえぞ。抵抗すれば、ビムを殺すぜ」


「ルミナ!!」


 このままじゃルミナがあいつに。

 なのに当のルミナは、冷静にパラサイトヒルを見つめていた。


「落ち着けよムクロ」


「でも」


「あいつは、こんな簡単にやられる男じゃないさ」


「……」


「根性なら誰にも負けないんだろ?」


 そのときだった。


「ムクロを、バカにするな」


 ビムが、喋った。

 いや、パラサイトヒルが喋ったのか?

 ビムの目が驚愕に見開いている。


「なに? 俺様のセリフじゃねえぞ!?」


「ムクロは、小柄だけど……ちんちくりんじゃ……ない!!」


 一つの口で、二人の言葉を発している。

 まさか、寄生が解かれようとしている?


「ふざけんな、おとなしく乗っ取られてろ足手まといが!!」


「おとなしくするのはお前だ!! うおおおお!!!!」


 自分の服の中に手を突っ込む。

 腹の辺りに手を伸ばしている。


「そ、そんなバカな!!」


「根性おおおおおッッ!!」


 ビムの手が、ヒルを引き剥がした。

 黒いブヨブヨした生き物が、天に掲げられる。


「ビム!!」


「はぁ、はぁ、ムクロをバカにするやつは、許さない!!」

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