第39話 ケフィシアの剣

 ビムがパラサイトヒルを引き剥がした!!


「ビ、ビム、もう乗っ取られてないの?」


「おう!! あんなやつに好きにされてたまるか」


「さすがビム!!」


 ルミナとシャロンも驚きつつ、クスクスと笑っている。

 安心した。ホッとした。


 ビムは足手まといなんかじゃない。

 少なくとも、自分のピンチは自分で切り抜けられる根性を持っているんだ。


 パラサイトヒルはうねうねと動き回ると、強引にビムの手から離れ、地面に落ちた。


 さらにヒルとは思えない速さでホワイトホスの体に戻り、


「てめえ、田舎騎士が調子乗ってんじゃねえぞボケカスゴミクソ野郎がよお!!」


 バチバチに邪気を纏って立ち上がったのだ。


「ムクロ、ルミナ、シャロンさん、下がっていてください。俺が決着をつける」


「うん!!」


 ホワイトホスが剣を構える。

 とうぜんビムも……と思った矢先。


「おーい、失礼なお嬢ちゃーん」


 武器屋のハゲ店主が、走ってきたのだ。

 しかもその手には、鞘に収められた剣が握られている。


 まさか、あれは!!


「完成したぜ」


「速いね!!」


「だから言ったろ、俺は世界一の鍛冶屋だってな」


 剣を受け取り、それをビムに渡す。


「な、なんだこれ」


「プレゼント」


「ム、ムクロから!? ほわぁ……」


 ビムが剣を抜いた。

 オレンジ色をした、異様な気配を放つ剣。

 私が説明する前に、ルミナが口を開いた。


「ムクロまさか、これ宝玉か!?」


「そう。宝玉を素材にした」


「なっ……」


「形を変えちゃえば、玉は持ってないって誤魔化せるでしょ?」


「だからって、普通やるか……」


 シャロンも苦笑している。


「よく加工できましたね、鍛冶屋さん」


 けど、一番驚いているのはビムだ。

 唖然として、汗までかいている。


「ムクロ、俺にはこんな……」


「大丈夫。ビムなら根性で使いこなせるよ」


「ムクロ……」


「これでバシッと決めてこい!!」


「おう!!」






 改めて、ビムとホワイトホスが対峙する。

 さっきの勝負はおそらく、パラサイトヒルがわざと負けたんだ。

 ビムに取り付くために。


 つまり、今度こそ真剣勝負なのだ。


「ボケ田舎騎士があ!! こうなったらてめえをぶち殺して悲痛の絶叫を聞いてやる」


「来るなら、来い!!」


 ホワイトホスが斬りかかる。

 ビムはその一太刀を回避すると、逆に切り返した。

 が、


「甘い!!」


 ホワイトホスの剣がそれを防ぐ。

 その瞬間!!


「なにっ!!」


 ホワイトホスが後方へ吹っ飛んだ。

 いったいなにが起きたんだろう。


 そうか、剣にはケフィシアの宝玉の力が宿っている。

 以前、ワルワル団が試しに破壊しようとしたときも、ふっ飛ばされた。

 自己防衛機能みたいな力が発動したんだ。


「うぐっ」


「すごい、この剣!!」


「ふざけやがって。だがな、お前じゃ俺は殺せない。この体は、ただの騎士『ホワイトホス』のもの。お前は、無実の人間を犠牲にできない性格だ!!」


「それは……どうかな」


「は?」


「気に入らないやつを消せるんだろ。つまり、気に入らないやつ「じゃない」やつは消さなくていいんだ。この宝玉、いや剣は。……きっと、お前の本体だけを消せるはずだ!!」


「なに!?」


 理屈はそうかも。

 でも、宝玉は選ばれし者しか扱えない。

 実際、私たちは誰も使えなかった。ビムもだ。


 ビムは瞳を閉じて、念じ始めた。

 剣から放たれる電撃が、ビムを襲う。


「ビム!!」


「だ、大丈夫だ!!」


 剣が拒絶しているんだ。

 お前には資格がないって。


「ケフィシアの剣よ……頼む。俺は大した人間じゃないけれど、お前の力が必要なんだ!!」


 目を開けて、ホワイトホスを睨む。


「卑怯なヒルめ、これで終わりだ!!」


 ビムが剣を振る。

 すると、剣から斬撃が放たれて、ホワイトホスに直撃した。

 けれど、彼にダメージはない。まるでそよ風が当たったかのように、直立不動でピンピンしている。


 失敗したのかな。


 と落胆仕掛けたそのとき、


「ピャーーーーーッッ!!」


 甲高い絶叫と共に、ホワイトホスの腹部からサイレントヒルが落ちてきた。

 地面に落ちるなり、苦しそうに暴れまわって、やがて、塵になって消滅した。

 乗っ取られていたホワイトホスも、倒れて気絶した。


 か、勝った。

 ビムが、宝玉の力を使いこなしたんだ!!


「ビムゥ!!」


 嬉しくて嬉しくて、私は本能のままにビムに抱きついた。


「のわっ!! ム、ムクロ、急に大胆な……」


「すごいよビム。すごいかっこよかった!!」


「そ、そうかな。あはは」


「そうだよ!!」


 シャロンとルミナも微笑んでいる。

 途端、ビムは私から離れて、ルミナに近づいた。


「ありがとう、ルミナ。お前のおかげだ」


「ふんっ、俺から言わせればまだまだだ。言っておくが、宝玉を使いこなしたんじゃない。宝玉が渋々、力を貸してやったんだぞ」


「はは、わかってるよ。けど、本当にありがとう。修行してなければ、きっと宝玉は見向きもしなかった」


「ちっ、感謝モンスターかお前は」


 ルミナ照れてる。

 耳が赤い。


 なーんか、良い雰囲気じゃん。

 すっかり友達だね。


 ふーん。


「ムクロさん」


「なに? シャロン」


「意外なライバル出現ですね」


「へ? どういう意味?」


「ふふ、いえいえ。さて、急いで船に乗りましょう」


 そうだった。

 そろそろ出港時間だ。


 気を失っているホワイトホスを、ビムが近くの酒場まで連れて行く。

 その間に、私とシャロンで武器屋のおじさんにお金を渡した。


 だいぶ値切ったけど、それでも全財産払ってしまった。

 まあ、お金ならどうにかなるか。

 船なら、コンコン司祭の渡航書でただ乗りだし。


「よーし、チームムクロパーティー、出港!!」

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