第16話 スヴァルトピレン
※本編前のキャラ紹介
・ムクロ……主人公。少し荒っぽいだけの半分闇堕ち聖女。イライラすると完全に堕ちて暴走してしまう。浄化のために冒険中。
・ビム……ムクロの幼なじみ。頼りないけど根性はある。ムクロが好き。
・シャロン……魔族と人間のハーフ。魔法が得意な女の子。一族を虐殺した仇への復讐を誓う。
・ルミナ……魔王の息子。チビで生意気だけどそこそこ強い。
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※本編
ルミナがワルワル団の下っ端を連れてきた直後、私の隣から声が聞こえてきた。
「こりゃ驚いたな。本当にいたよ」
先程小山から降りたはずの二人。
メガネの女とボサボサ髪の男が、気を失っているワルワル団を見下ろして、不敵に微笑んでいた。
いつの間に戻ってきたんだ?
気づかなかった。まるで瞬間移動したみたいに、一瞬で隣にーー。
ルミナも驚きで目を見開いている。
「え、山を降りたんじゃ……」
私が凝視していると、メガネ女がクスリと笑った。
「だから言ったじゃないですか、レクフルヘート。何事もコツコツやった方がいいって。ほら、まだこの街にいたでしょう?」
「はいはい。エルヴ様には逆らわねえよ。ったく、ホントいつも運が良いよなお前さんは。まさかこうして、リストにいたヤツを発見できるなんて」
ルミナが二人を睨んだ。
「ムクロ、こいつら何者だよ」
「う、馬の調教師なんだって」
「調教師ってのはずいぶん鍛えているんだな」
「へ?」
鍛えてる?
そんなに筋肉質かな、この人たち。
魔族でもなさそうだし。
ボサボサ髪、もといレクフルへートがルミナに告げた。
「おい坊主、そいつ貰っていくぜ」
な、なに急に。
ワルワル団と馬探しに関係があるの?
馬を盗んだ犯人とか?
「抵抗するなら、力づくで貰っていく。めんどくせえことはさせんな」
「嫌だね。俺が手に入れた情報源だ」
「……どうしてこいつに拘る。お前ら、何を探っている」
「答える義理はないな。馬の調教師なんて嘘ついてるヤツらに」
嘘なの!?
じゃあこの二人は何者?
なんでそこまでしてワルワル団の下っ端がほしいわけ?
「……めんどくせえな」
明らかに、二人が纏う気迫が増した。
瞬間、
「見つけたぞ!!」
森から、真っ赤な肌をした魔族が現れた。
頭には角が生えていて、いかにも鬼っぽい魔族。
今度はなんだってんだ。
ルミナがぼそっと呟く。
「あいつ強いな」
「なにあの魔族」
「さあな。だが、腕力や体術といった基礎能力なら、おそらく俺と『大差ない』ぜ」
ルミナと同じくらい強い魔族か……。
レクフルへートに向かって、鬼が叫ぶ。
「ようやく会えたなスヴァルトピレン!! 同胞の仇、ここで取らせてもらう!!」
スヴァルトピレン?
二人の名前はエルヴとレクフルヘートだったはずだけど。
エルヴがレクフルヘートに問いかける。
「誰ですか?」
「前に仕事で殺った魔族の仲間だろ」
鬼の魔族が走り出した。
「死ねえ!!」
レクフルヘートが人差し指を向ける。
直後、鬼の頭部が、爆破した。
「うわっ」
な、なにをしたんだいま。
爆弾? 攻撃らしい攻撃はしてなかったけど。
鬼は……死んでる。頭がふっ飛んで即死している。
「さて、質問に答えろ坊主。お前は何を探っている」
「……」
「言えよ」
「ワルワル団の一人が、俺たちの仲間を半殺しにしたんだよ。その報復がしたくてね」
嘘だ。
ルミナが嘘をついた。
「お前たちこそ、なんでそいつが欲しいんだよ」
「言ったろ? 『いなくなった馬』の情報を手に入れてえんだ」
なんか、嘘っぽい。
この二人、何を企んでいるんだろう。
「んじゃ坊主、俺たちが代わりにボコっといてやるから、貰ってくぜ」
気絶しているワルワル団の下っ端を抱え、二人は走り去ってしまった。
「ル、ルミナいまのなに!?」
「……」
「ルミナ?」
「想像以上だぜ、あいつら。かなり強い」
ルミナ、すごい汗。
自分と同じくらい強い魔族が一瞬で殺されたから、ビビっちゃったのかな。
「まさかとは思っていたが……間違いない、ヤツら、スヴァルトピレンだ」
「なんなの、それ」
「イかれた戦闘集団さ。これまで何人も殺してる。高い報酬と引き換えにな。身近なヤツを上げるなら……シャロン、あいつの一族を一晩で滅ぼしたのが、スヴァルトピレンだ」
「シャロンの!?」
じゃあ、あいつらがシャロンの仇?
あいつらを殺すために、シャロンはこれまで生きてきたんだ。
あんなに、強そうなやつらを……。
「伝えないと」
「シャロンにか? やめとけ」
「なんでよ」
「殺されるぞ」
「……」
かもしれない。
言えばシャロン、絶対に追いかけるもんね。
けど、シャロンに黙っているってのも我慢ならない。
仲間に隠し事なんてできないよ。
てか、全員でかかれば倒せるんじゃないの?
なんて楽観的に考えていると、
「おーい、ムクロ、ルミナ〜」
ビムが大急ぎでやってきた。
「ビム、一人?」
「あぁ、シャロンさん、そっちにもいなかったか」
「え!? シャロンいないの!?」
「急にいなくなっちゃったんだよ」
「な、なんでよ。二人で宝玉の手がかりを探していたんでしょ?」
まさかさっきのやつらを発見して、追いかけたのかな。
不安だ。胸がザワザワする。
「いやさ、もうじき近くの都市で『祝福祭』をやるらしいんだ」
祝福祭って、メールー教のお祭りか。
「そこに『聖女マリアンヌ様』が来るって耳にしたら、突然いなくなったんだよ」
「マリアンヌって、勇者のお母さんだよね」
メールー教でもかなり偉い大聖女。
二大派閥の一つ、ロンド派の顔として、聖職者の教育を指導している。
途端、
「ククク、ははは!! シャロンのやつ、俺らが伝える前に復讐に走ってんじゃん」
「なによルミナ。何笑ってんの? どういうこと?」
「なんだ、知らなかったのか? シャロンの仲間たち、カフノーチ族虐殺を実行したのは、スヴァルトピレンだろ?」
「え、うん。さっき言ってた」
「連中に虐殺を命じたのが、その聖女マリアンヌだ」
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※あとがき
今回登場した組織『スヴァルトピレン』やら、そのメンバー『レクフルへート(男のの方)』ですが、ぶっちゃけ名前の語感の良さを自画自賛してます。
口に出したい言葉ですね。
口に出したい言葉なんです。
ひっ、調子に乗ってごめんなさい。
怒らないで。
謝りますから。
見捨てないで。
うぅ……。
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