第32話 復讐の結末

※前回までのあらすじ


ついに再会したシャロンと母マリアンヌ。

しかし、傲慢不遜であるはずのマリアンヌが見せたのは、娘を愛する母の姿だった。

困惑するシャロンであったが……。


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「はぁ……はぁ……」


 シャロンの髪が銀色に変わる。

 マリアンヌと同じ、銀色に。


 疑似聖女化したのだ。


「デュードさん」


「?」


「寝ていなさい」


 パタリと、デュードが倒れる。

 強制催眠ヒプノシスフォースの力で眠ったのだ。

 残すは一人。あと一人。


「私と、あの子と、同じ色……」


「黙れ……」


「私は、あたなを忘れられなかった。だから、あの子にも同じ名前をつけたのよ」


 シャロン。

 それは勇者の名前でもあった。


「いったい、なにがあったんですか……」


「えぇ、語りましょう。あの事件の真実を」


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 マリアンヌは落ち目の貴族の娘であった。

 聖女として生まれたが故、親は過度な期待を背負わせた。

 勉強に、作法に、人格形成に至るまで介入してきた。


 だからマリアンヌは家出をした。


 その果てで、森に住む魔法使いの魔族、カフノーチ族に拾われた。

 ロンド派として育っているため魔族は大嫌いだったが、献身的に面倒を見てくれた彼らに、マリアンヌは徐々に心を許していった。


 カフノーチ族は他の魔族と違い、温厚で知的であることも理由の一つだろう。


 マリアンヌはそこで恋をした。

 子供も産んだ。

 それが、シャロンである。


 良き妻であろうと努めた。

 良き母であろうと努めた。


 聖女だとか魔族だとか、関係ない。

 自分は、カフノーチ族の人間として生きていくのだと決意したのだ。


 しかし、幸せも長くは続かない。

 実家の使用人が、マリアンヌを発見してしまった。


 当然、親は激怒する。

 それ以上に憤慨していたのは、当時のロンド派のトップたちであった。


 実は当時、ロンド派とカフノーチ族の間に確執があったのだ。

 些細な事件が、大きな火種へと燃え広がっていたのである。


 マリアンヌに告げられる。

 ロンド派は彼女の家を取り壊し、カフノーチ族も皆殺しにするつもりだと。


 もう時間がない。

 みんなで逃げる時間がない。


 追い詰められたマリアンヌが出した答えは……被害を最小限に収めること。


 父と付き合いの長いスヴァルトピレンに依頼し、先にカフノーチ族を殺すのだ。

 夫と、娘だけは残して。


 それしかないと、マリアンヌは指示を下した。


 結果的に、夫は戦闘に巻き込まれ亡くなった。

 だが、娘のシャロンだけは、逃げ延びたのだった。


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「虐殺のあと知ったわ。そもそもカフノーチ族とロンド派の確執は、他の魔族による嘘がきっかけだったと。許せない。カフノーチ族が滅んだのだから、他の魔族も滅ぶべきよ。だから、虐殺の功績を糧に家の権威を取り戻したわ。そして、必死であなたを捜したのよ」


「もっと、他に方法があったはずです」


「じっくり考えている時間がなかったのよ。私にできたのは、せめてあなただけでも守ることだけだった」


「守る? 私があのあと、どんな苦しみを味わったかも知らないで!!」


 突然外の世界に放り出され、シャロンは心細かった。

 怖かった。辛かった。


 何度も自殺を想起したほどに。


「でも、虐殺はあなたが命じたとわかって、私に生きる理由ができた。あなたを殺すって目的が!!」


「シャロン……」


「いっそ殺してくれた方がマシだったんだ!!」


「そんなこと言わないで……」


「っ!!」


 手をかざす。

 いますぐにでも強制催眠を発動できる。

 脳を、精神を操り、自殺させてやれる。


 だけど、だけど……。


 それでいいのか。


 マリアンヌは、本当に悪人と呼べるのか。

 ムクロの言葉が脳裏を過る。


 もし別の方法があるのなら、そっちをやってほしい。


 綺麗事だ。こいつは殺すべきだ。

 殺して、そのあと……私はどうする。


 あんな話を聞いてしまってはもはや、殺したところで胸のモヤモヤが晴れるとは思えない。


 ただ母を殺して、ムクロの願いを無下にして。

 おまけに、聖女殺しとしてロンド派から命を狙われる。


 ムクロに嫌われるだろうか。


 ずっと闇の中を歩いてきた自分の前に現れた、唯一の光に。

 復讐だけが生きる理由だった自分にできた、大切な存在に。


 嫌われたくない。彼女を、世界中の敵にはしたくない。


 でも、でも……。


「シャロン、どうかあの子と一緒に魔王を倒して。そのあとは、好きにしていいから」


「勇者……」


「えぇ。私が『作った』もう一人のあなた。世界中のメールー教のために頑張っているのよ」


 マリアンヌの言葉に、シャロンの決意が固まる。

 やはり彼女が狂っている。視野が狭く、他人の気持ちなど推し量れない、哀れな女。


「命令を下すのは、私です」


「え」


 異能を発動する。

 マリアンヌの瞳から、光が消えた。


「殺しはしません。ムクロさんに失望される危険を犯してまで、あなたには殺す価値はない。というより、簡単に終わらせるのはもったいない」


「……」


「私と同じ苦しみを味わってもらう。大事なものをすべて奪われ、孤独の中で生きるがいい」


「……」


「忘れろ、なにもかも」


「はい」


 マリアンヌの目に、再度光が宿る。


「え、こ、ここはどこ? あ、あなたは誰!!」


 怯えて、蹲って、ガクガクと震えだす。


「な、なんなの!? なんでこんなところにいるの?」


「覚えていることはありますか?」


「わ、わからない。私はだれ? なにもわからない!!」


「あなたには息子がいるんですよ。我がままで太っていて、平気で女性にセクハラをするクズみたいな息子が」


「し、知らないわそんなの!! 誰の話をしているの?」


 ふぅ、とシャロンは大きく一息ついた。


「気をつけたほうがいいですよ」


「え?」


「あなたは大罪人。みんながあなたを殺そうとしている。誰も信用しないほうがいい」


「そ、そうなの?」


「みんなあなたに嘘をつく。優しく近づいて、あなたを利用しようとする。全員敵だと思った方がいい」


「こ、怖い。なにもわからない。私は、なにをしたの!?」


 答えることはせず、シャロンは部屋を出た。


 終わった。

 これでよかったのか。

 長い長い復讐の果てが、これで。




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※あとがき

毎日頑張ってます。

もう頑張りたくないです。


応援よろしくおねがいします。

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