第13話 魔力の使い方
「魔力はねぇ、生命の源とも呼ぶんだよ。だからぁ、取り扱いにはちゃ~んと注意しないといけないよぉ」
ミルクから聞けるのはふざけ混じりの解説かと思ったが、意外にもそれはしっかりとした知識であった。
魔力とは、体内に眠るその者の生命力らしい。ゲームで例えるならば、体力ゲージと魔力ゲージがひと纏めになっているような感じだ。魔法を使いすぎると、一時的に魔力がなくなって魔法を使えなくなるだけではない。体力も同時に低下し、魔力が完全に尽きることは死を意味するのと同意義みたいだ。
今は足輪で魔力の流れが遮断されているが、決して体内から消えているわけではない。足輪の役目は、あくまでも魔力を封じ込めることらしい。
多くの種族が心臓で魔力を作っている。心臓を貫かれれば魔力の核を失い、即刻死に繋がる。逆に原理的な話をすれば、魔力操作を完璧にこなせるなら、頭が吹き飛ぼうが即座に再生することも可能だ。しかし、頭が吹き飛ぶほどの痛みを感じれば、ほとんどの者は激痛に耐えきれず精神が崩壊する。そうなれば、魔力を完璧に制御するなど不可能な話である。
現に、俺は雷椅子による処刑で確実に1度は死んでいるはずだ。イガールも俺の核は確実に停止したと言っていたはず。魔力の理があるため、心臓マッサージのような蘇生術は意味をなさない。だからこそ、俺が蘇ったということが前代未聞の話になるのだ。
そして魔法にはいくつかの属性がある。これはよく聞く仕組みだ。火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性。6つの大きな属性が存在し、それらを組み合わせて派生させたり、昇華させて更なる力を生み出したりするようだ。火を昇華させると、炎や爆発属性に。光と風を組み合わせると雷属性に。水と土と闇を合わせると毒属性になったりなど、その派生は多種様々である。
魔法の使用方法は俺が感じた通りだった。イメージを強く持ち、それに魔力を纏わせることで発現させることができる。更に使用者は属性に縛られることなく、誰でもどの属性の魔法を好きに使うことができるようだ。ただ、種族によって魔力の質は異なる。それによって、得意な属性や不得意な属性という差ができるみたいだな。
「例えば、
また笑いながら恐ろしいことを言っているぞ。
今は魔力を使えないはずだよな。それなのに、さっき俺を押さえ込んだ時の力は普通じゃなかったぞ。そこにバフ効果のある魔法を使うのか? ミルクとは、喧嘩しないほうが良さそうだな。
「ヨンヘルは水属性の魔法が得意みたいでぇ、ルーちゃんは風属性が得意なのかな? ベルバーグに入ってから知り合ったから、皆が魔法使ってるところ見たことないけどねぇ。オルディは何が得意なんだろうねぇ? 気になるなぁ~。ウチこう見えてねぇ、魔法が大好きなんだぁ~」
それにしても、魔力を使うことができないこの状況で、俺は転生恩恵の使用ができる。ということは、転生恩恵に魔力は関係ないということだな。使ってみても特に疲れるような感じもないし、回数制限とかも今のところなさそうだ。やはりこの力を上手く使えるか、それが今後の鍵になる。
後は、思い浮かんだ策が可能かどうかだ。
「……魔力を身に纏って、威圧するような使い方は誰にでもできるのか?」
俺が知りたかったのは、ミラエラ王がやっていた魔力の使い方だ。あれが俺にもできれば、
「もしかしてぇ、闇魔法の【ドゥ・ラ・ミングィ】のことかなぁ?」
ドラミング。威嚇って意味か。ミラエラ王の威圧感は、威嚇なんて生ぬるいものじゃなかったがな。実際に、周辺の重力が何倍にも増したようであった。
「あぁ、多分それのことかな。ミラエラ王のはとんでもないドラミングだったってことか」
「えっ? 王族と面識あるの?」
ミラエラ王の名前を出すと、ミルクはえらく驚いていた。ヨンヘルには話をしたが、ミルクとルーリエには、審議の内容まで話をしていなかった。ミルクの反応を見るに、やはり王族と対面することは一般的ではないようだ。
「まぁ、審議の時にな。ヨンヘルには話したが、俺の審議は異例だったみたいで、三大貴族の長とミラエラ王が立ち会ったんだ」
「三大貴族全員がいたの?」
今度は、三大貴族といった言葉にルーリエが激しく反応した。さっきまで我関せずといった感じで爪の手入れをしていたのに、食いつくように俺の隣に寄ってくる。
何とも美しい。あぁ、美しい。間近で見れば見るほど、ルーリエの美貌に心を奪われてしまう。乾いてきた髪からはやっぱりいい香りがするし、くりくりの瞳が俺を吸い込んでいく。もう変態と呼ばれてもいいから、このまま抱きついてしまいたいくらいだ。
「
(あっ……ごめんなさい。抱きつこうなんて不埒な考えを持ってしまい、誠に申し訳ありません)
危うく苛立ったルーリエに殺されてしまうところであった。確かルーリエの罪状は【貴族反逆】だ。三大貴族の
「す……すまないが、俺も別に三大貴族に詳しいわけじゃない。そんな顔で俺を睨まれても、何もしてやれないぞ」
「ふん、分かってるわよ。久しぶりに鯨の顔を思い出してムカついただけ。別に気にしなくていいわよ」
気にするなって、何があったのかめちゃくちゃ気になるよな。聞いたところで教えてくれないだろうが、
それより、気づけば俺のベッドには2人の美女が座っている。何とも素晴らしい状況ではあるが、ヨンヘルは全く気にもしていないな。何年も同じ部屋にいるから、意識することがないのかもしれない。にしても無反応とは。性欲がないと言っていたが、
「──今より、夕食の配給を開始する」
突如、夕食を知らせる声が響き渡る。
現実世界の刑務所では、食事が唯一の楽しみと聞くが、やはりここでも数少ない娯楽なのだろう。さっきまで楽しそうにベッドの上で話こんでいたミルクが、夕食の知らせと共に飛び跳ねる。手際よく4つの小さな机を一列に並べると、自分の机に箸とコップを準備した。
準備を終えると、急ぎ足で入口の前に立つ。ルーリエとヨンヘルも自分の分の箸とコップを用意すると、ミルクに続くように並ぶ。俺も見様見真似で準備を終えると、最後尾に続いた。
「ごっはん、ごはん~。楽しいごっはん~」
ミルクの感じを見るに、食事はなかなか期待できるものがでてきそうだ。俺も異世界に来てから、ヨンヘルの水を1杯飲んだだけ。房内には旨そうな匂いも漂い、俺の腹の虫も堪らず騒ぎだしている。
「ミルク、ルーリエ、ヨンヘル、オルディ。4名の食事を配給する。自分の分を受けとり、速やかに食事を開始せよ」
看守の1人が部屋の前に立つと、台車で運んできた木箱と水の入った瓶を差し出してきた。1つ1つに自分達の名前が書いてあり、皆は頭を下げながらそれを受け取っていく。俺も真似をするように頭を下げながら受け取ると、小さな机の上に置いて木箱の蓋を開けた。
「……これだけ?」
俺の木箱に入っていたのは、豆まきに使いそうな乾燥した大豆が数粒。見るからに固そうな干からびた肉が1切れ。茹でた人参の小さなザク切りが数個。それだけである。
量は圧倒的に少ないし、何か味付けがしてある感じもない。栄養的に大丈夫なのかも不安になる食事であった。
(嘘だろ。これが夕食なのか? こんなのが毎日続くなら、そのうち栄養不足で倒れるぞ。ミルクはこんな食事であれほど喜んでいたのか?)
期待を大きく裏切られた俺は、横目でミルクの食事に目をやった。するとそこには、幸せそうに大きな肉を頬張るミルク。明らかに俺とは質の違う食事が、そこにはあったのだ。
「なっ?! なんでそんな旨そうな肉が沢山入っているんだよ! よく見れば、ヨンヘルとルーリエのご飯も豪華じゃないか!」
俺だけが質素な食事であり、他の3人は内容がそれぞれ違えど、普通に豪勢な食事が用意されている。動揺しながら立ち上がると、ヨンヘルとルーリエは焼き魚を頬張りながら俺を蔑んでいた。
「当たり前でしょ。私達はゼルを払って上のランクの物を買っているの。タダ飯なんてそんな物よ」
「オルディ、売ってあげようかい? そうだね、2000ゼルってとこかな。貸しといてあげるよ」
全くふざけている。どうせヨンヘルの2000ゼルは、明らかに法外な値段設定だろう。それにしても、ニートを続け過ぎていて忘れていた。母が当たり前のように食事を用意してくれていたこと。俺は、すっかりそれに甘えきっていたようだ。
ただ今は想いにふけていても仕方ない。ここまできたら開き直ってやる。絶対にゼルを稼いで、誰よりも旨い飯にありついてやる。
そんな信念を燃やしながら、俺は大豆をバリバリと噛み砕いたのだった。
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