第11話 種族階級
「シャルディネは……下級種族?」
貴族達が特別な階級ってことは容易く想像できるが、三大貴族以外に貴族と名のつく種族はいないはずだよな。しかも貴族の爵位は、種族ではなく家柄に与えられていると聞いた。それなのに、種族ごとで階級が存在するのか?
「そうです。
シャルディネの草をむしる手が止まっている。虚ろげな瞳で地面を見下ろすその姿は、とても哀しげに見えた。
「だから、シャルディネは偽装評価って罪を犯したんだな。でもその行動がかなりの大罪ってことは分かっていたんだろ? まだ種族階級がどんな仕組みなのか理解できていないけど、そこまでする必要はあったのか?」
軽率な言葉だったのだろう。シャルディネは顔を勢いよく上げると、自身の怒りを剥き出しにして俺を睨みつけてきた。彼女の怒りに、俺は焦って目を泳がせる。これまでシャルディネのひ弱な姿しか見たことがなかった。そんな彼女が明らかな怒りを表に出している。
なぜこんな言い方をしてしまったのか。彼女は種族階級を何とかしようとして、大罪を犯したのだ。そこまでする必要。それがあったから、今ここにいる。思わず出てしまった軽口に、俺はすぐさま後悔した。
俺の動揺を見たシャルディネは、ハッと我に返って再び視線を落とす。そのまま沈黙が場を支配すると、途轍もなく気まずい時間が背筋を硬直させる。
どう考えても俺が原因で場の空気を乱してしまった。それなのにシャルディネは「ごめんなさい」と小さく呟いて、自ら話を元に戻してくれた。
「オルディは……覚えていないから仕方ないですよね。種族階級は、世界への影響力によって決められるのです」
シャルディネが教えてくれた種族階級。
言うまでもなく、三大貴族である
【統率力】の竜。
【自然力】の鯨。
【科学力】の人。
得意分野はそれぞれだが、各々の力は世界を動かすほどの力を秘めている。それ以外にも、
上級階級に位置づけされる種族は、貴族までの権限こそなけれど、1つの種族として王や姫といった役割を作り、国単位の領土が与えられる。そのため中級階級の種族は常に成り上がることを考え、自らの力を王族に示そうと必死なのだ。
そしてその行動力が何を引き起こすのか。これは現実世界でも同じことが言える。欲にまみれた種族がぶつかり合うと、お互いの正義を建前とした戦争が起きる。そんな時に誰が1番の被害者となるか。想像するのは容易であった。
「下級種族は戦争に徴兵され、捨て駒のように扱われる。私の母と父も、戦争に駆り出されて……帰ってきませんでした」
思わず息を飲んでしまう。今でこそ平和であるが、日本人だって過去に戦争を乗り越えてきたのだ。現代人である俺達は、その戦争を生き抜いてきた人々から産まれた。
当たり前のように産まれ、日々に生きる意味を求めながら平凡な時を過ごす。そんな当たり前のように積み重ねられた時間軸の上に、命は立っている。
俺はいままで、戦って死ぬなんてことには無縁ともいえる人生をおくってきた。だが、
過去の戦人が作り上げた歴史の上に、俺達は存在している。そう……俺達の命の足元には、数え切れないほどの悲劇が積み重なっているのだ。
そして、いま俺の目の前にいるシャルディネは、そんな悲劇の当事者である。
「上級とか、下級とか。それらは王族が勝手気ままに告げる無価値な名声。本来それに褒美や権力は存在しません。ですが、生きる者を区別するのに、これ以上ないほど最適な称号です」
知と欲を持てば持つほど、生き物とは同時に醜くなるものだ。価値のない名声に意味をこじつけ、自分達が強くなったという錯覚を他者に植えつける。
上級だとか、下級だとか、そんなのは一部の者の行動によって評価されたものだろう。たまたま自身の種族が上級だった、下級だったというだけで、強制的に存在価値を決めつけられるなんて間違っていないか。
「私達のような下級種族が成り上がるのなんて、不可能に等しい。産まれてから死ぬまで、奴隷のように生きていくしかないのです。
ちょっと待てよ。
シャルディネが言うには、
「シャルディネの思いは理解したよ。その上でシャルディネを不快にさせる質問をしていいか?」
「不快に……ですか? 私は……大丈夫です」
俺が疑問になっている部分を聞けば、下級種族であるシャルディネは不快に感じるかもしれない。だが種族階級ってのがそれほど大切なものなら、どうしても矛盾している部分があるのだ。
「
俺の疑問を聞いたシャルディネは、その原因を理解していたようだ。特に悩む様子を見せることなく、その理由を俺に教えてくれた。
「それは強い嫉妬からですね。
「……なるほど。種族階級が上がってから、さほど年数が経っていないのか。ましてや下級から上級まで駆け上がったなら、妬む奴らが多いのも納得だ。さっき
欠けている知識のピースが少しずつ埋まっていく。それは、漠然と散らばったパズルの角が決まったような。1つの物語を知るきっかけに足を踏み入れたような。そんな躍動感であった。
「約30年前、レクタス公爵様が、この世界に何世代も先の知力と思えるような科学を広めました。それは文明を大きく進化させた。世界を変えていくのに十分過ぎる変革。世界はその科学を奇跡と称賛し、王族もその功績を認めて、マベル家を新たな三大貴族へと任命したのです」
謎が多い人物ではあったが、やはり彼はただ者ではない。俺の中で疑惑だったものが、確信に変わった。
──レクタス公爵。彼は俺の異世界転生の全てを知っている。俺自身の謎を解くには、彼に接触することが最も近道なようだ。
「それによって元々三大貴族であった
なるほど。
「ということは、
「仰る通りです。武力の
やれやれ。どうも
「ありがとうシャルディネ。記憶がない俺にとって、こういった話はとても大切だ。君が同じ房を希望してくれて良かったよ」
「そ、そ、そ、そんな! わ、私は、一般的な常識を話しただけです。それに……オルディとルーリエは私の恩人で、2人とも上級種族です。2人のお役に立てるなら、私はなんだってします」
頬を赤く染めながら、シャルディネは恥ずかしそうに髪の毛先をねじっていた。その姿は愛くるしいものだが、発言には少し引っかかるものがある。
下級種族として生きてきたからなのか、いくら恩人だからって「私はなんだってします」なんて言葉を軽々しく言うものではない。
「シャルディネ、俺達は同じ房の仲間だ。そこに上下関係なんてない。恩とか階級とか、そんなこと考えなくていい。他の皆がどう思うかは分からないが、少なくとも俺は種族階級なんてものに興味は湧かないな」
『種族階級なんて興味ない』
そんな俺の言葉は、この世界で異質なのだろう。シャルディネは目を煌めかせながら、口を大きく開いて固まっている。
決して格好をつけたつもりはなかったのだが、彼女の熱い視線を感じると、あまりの恥ずかしさに思わず空に向かって視線を逃がした。
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