第11話 力の使い方
「俺の名前はオルディ=シュナウザー。ヨンヘルには話をしたのだが、記憶があまり残っていないんだ。だから正確な年齢も分からない。たぶんルーリエが言うように、25歳前後の
俺が名前を言うと、ルーリエとミルクの2人は目を見開いて驚いていた。ヨンヘルもだいぶ驚いていたし、やはりこの体は大層なことをやっていたようだな。
「マジマジ?! あの公爵殺しのオルディ=シュナウザー? めちゃ有名人じゃ~ん! てかてか、オルディって死刑囚じゃなかった? なんでベルバーグに来たのぉ??」
ミルクは特に物怖じすることなく俺に興味を示している。死刑囚から無期懲役になった経緯を話すと、大声をあげながら笑いだした。何がそんなにおかしいのか分からないが、何も考えていないといえばそれまでか。まぁ、変に牽制されるよりはよっぽど良い。
問題は、ルーリエの方だな。俺を毛嫌いするような視線、まさに厄介者認定が完了したといった様子だ。
「それより……大丈夫なの? この人が同居者になったら、すぐに
なかなかに辛辣ではあるが、まぁそれがまっとうな意見だな。だがこの発言自体は俺にとって助かる部分もある。この口振りだと、この部屋には
「部屋以外では偽名使っちゃえば? バレないっしょ!」
「ミルクは本当に馬鹿ね。看守が偽名に付き合ってくれるわけないでしょ?」
「あっ馬鹿って言ったな! ルーちゃんひどぉ~い」
ミルクは真剣なのかふざけているのか。ムードメーカーのように明るい性格なのは良いが、すぐにヘマをやらかしそうな不安があるな。
「なぁ、俺はここに来たばかりで分からないことだらけだ。教えて欲しいのだが、この後は自由時間的なものがあったりするのか?」
俺の質問に率先して答えたのはヨンヘルであった。
「いや、この後は夕食があるけど、食事は基本的に房内で行う。明日の朝まで房内から出れる時間はないね。だから、明日の朝までが1つのタイムリミットだ」
知的な印象はあったが、流石に頭が切れるな。ヨンヘルは俺の質問の意味をすぐに理解している。
この後に自由時間的なものがあれば、新人の様子を見にくる輩もいるだろう。そうすれば、俺がオルディ=シュナウザーだということはすぐに監獄内に広まる。明日の朝までに対策を練る時間がとれたのは良いが、はたして何か策が思いつくだろうか。
「これはオルディだけの問題ではない。総監様が房の移動なんて簡単に聞いてくれるはずもないだろう。君が同居者になった以上、この部屋全員の問題だ。ミルクもルーリエも分かっているな?」
ヨンヘルの忠告に、ミルクは元気良く手をあげて楽しそうに喜んでいた。ルーリエも渋々ながら頷いてくれている。
ヨンヘルは対策を考えるように腕を組む。だが何も策が浮かんでこなかったのか「焦って考えても良くない。今は夕食まで各自ゆっくり過ごして、その後もう一度意見を交わそう」と言い、ベッドに寝そべって引き出しをごそごそと探りだした。
確かに焦っても咄嗟に浮かんでくるわけではない。とりあえず俺が今なにをすることができるか。それを考えると、すっかり忘れていた能力を思い出す。俺には突破口があったのだ。転生者の特権ともいうべき能力が。
(そうだ! 転生恩恵。これを使って、ひとまず周囲のものを調べるところからだ)
【理解力】といった俺の謎めいた力。まずはこの力の能力や制限を知ることが必要だ。独房では確認することができなかったが、気になっていたことがある。
俺はヨンヘルの肩に軽く触れると、【理解】っと頭の中で呟いた。
『理解できません。理解できません。理解できません』
ふむ、やはり生物にはできないようだな。
ヨンヘルは何をしているんだと言いたげな顔をしているが、この能力についてはまだ教えないほうが良い。何に悪用されるか分かったものではないからな。同居者としてヨンヘルはとても頼りになりそうだが、お互いに信頼をおくのは早すぎる。
「どうしたんだい?」
「あぁ……すまない。ゴミがついていたように見えたんだ」
少し強引に話を誤魔化すと、ヨンヘルは不思議そうに首をかしげた。
俺はひとまずベッドに腰かける。それに続くようにミルクとルーリエが自分のベッドに腰かけると、各々は夕食までの時間を気ままに過ごし始めた。
俺は辺りを軽く見渡すと、何か能力の試験に適した物はないか探してみる。あまり行動を怪しまれないように注意しなければいけない。特にヨンヘルは勘が鋭そうだ。
横目でヨンヘルの行動を注意すると、彼は引き出しから1冊の本を取り出して読み始めていた。俺は自分のベッドの引き出しの中を確認するため手に取ると、取っ手を引くと同時に【理解】と思念した。
『理解しました。名称【木組みの引き出し】。デールの木を素材とした、木組みのベッドに付属されている引き出し。1つの容量はさほどないが、衣類などを入れておくと、木が周囲の湿気をほどよく吸収し、細菌などの繁殖を抑えることができる』
能力は問題なく発動する。しかし、こんな誰が見ても分かる物を理解したところでたいした意味はないな。
そのまま引き出しの中を確認する。替えの囚人服が2組。木で持ち手が作られている歯ブラシ。プラスチックのような材質のコップと箸が1組。大判のバスタオルが2つ。最低限の生活用品といった感じの物しか入っていないな。隣にもう1つあった引き出しも開けてみたが、こちらは空っぽだ。好きなように使えということだろう。
「なぁヨンヘル。本を読んでいるところすまないのだが、そこにある扉は何だ?」
部屋には結界に守られた出入口以外に扉が1つある。パッと部屋を見た感じ、ここにはベッドと小さな机が4つあるだけだ。となると……。
「あそこには洗面台とトイレがあるよ。完全な個室になっているが、誰か人が入っている間は部屋の外の警告灯が橙色になるんだ。そして長時間橙色が続くと、その光が赤色に変わる。すると、ものの数十秒で看守が飛んでくるよ。だから扉の開けっ放しはご法度で、これは規律にも書いてある。たいした理由もなく警告灯を赤色にしたら、もれなく部屋の全員に罰則が与えられる。それに4人に対してトイレが1つだから、トイレは早め早めに済ますことをオススメするよ」
やはりそうか。それにしても、監獄だというのに看守の目が届かないスペースがあるのは意外だな。
中の構造を確認するため扉を開けると、その先はとても狭かった。1畳ほどのスペースには、ごく普通の洗面台と鏡。そして隣には洋式のトイレがある。壁には窓もなく、天井にとても小さな換気口があるだけだ。
部屋の壁に右手で触れてみると、ひんやりとしたコンクリートのような質感。正直理解するまでもないが、いちおう性質を調べておく価値はあるかも知れないな。
『理解しました。名称【グランドウォール】。精錬鉄を骨組みにし、ジェネラル鉱石とリンド鉱石を溶かせ合わせた加工物。耐熱性、耐寒性が共に高く、強固な壁として使用することが多い。振動や風化にも強く、魔法耐性も高い。シピンレベル26。炭素鉱物を加工して作られたダイヤモンドと同等である』
ダイヤと同じか。壁が途轍もなく固いことは分かった。いくら個室になっているとはいえ、ここから脱獄をできる隙なんてないというわけか。
トイレの確認を終えると、再びベッドに座って顎に手を当てる。【理解力】を最大限に有効活用して、異世界生活を有意義なものに変えてやろうと思ったが、正直使い道があまり分からない。ここが監獄ではなく普通の街スタートなら、もっと色々な活用法があったはずだ。
(何かないものか……。凄いっと思えるような革命的な使い道は)
たいして調べることができる物もないため、少しガッカリしたように項垂れる。その時、ふと足につけられている足輪に目が向いた。
これは装着している者の魔力を抑える力があるらしい。俺の魔力も抑えられているのだろうか? こいつがなければ、俺も夢にみた魔法を使ってみたりできるのか。どうせ簡単に壊せたりはできないだろうが、調べてみて損はないだろう。そんな軽い気持ちで足輪に触れた。
『理解しました。名称【呪魔の足枷】。大魔導士ヘンリー=クラリエッタが開発した魔力制御装着。足輪を装着した後、セキュリティコードをイメージすることにより効果を発動する。足輪の内側から魔力を吸収することで魔力の流れを遮断し、体内の魔力を完全に封じ込める。グリデッダ金鉱にヘンリー=クラリエッタの魔力を混合して作られている。シピンレベル86』
──シピンレベル86?!
シピンレベルってのが硬度なのは分かったが、26でダイヤモンドクラスなんだよな。この足輪を破壊するのは絶対に不可能ってことか。
明日の朝がくるまでに何か
『──解析できました』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます