第9話「必殺ロケット」
幼児教育や初等教育に於いて、前世の記憶を持っている事は少なからず障害になる事もあり、そこは慶一も苦労させられた。
失敗は数多い。
その結果、得られたものが今だ。
その動きは、双方共に自由。どこを打っても勝ち、どこを打たれても負けというスポーツチャンバラに定石や型はない。
連続攻撃に移る晴の姿は、いつも慶一を笑顔にする。
「いいな。いい気合いだね」
慶一にとって、いい刺激だった。異世界での剣術は敵を
晴にあるのは、一生懸命さ。
「練習したもんね!」
笑顔ひとつ見ても違う。楽しいから笑う、笑うから楽しい、そんな理屈を小賢しいと感じられる、自然とあふれ出した笑顔。
――いいな。本当に、面白い動きをしてくる。
剣術としてはデタラメで、晴はただ格好いいと思う動きをしてくる。
しかし晴のような笑顔を、慶一として手に入れられなかった事は、少々、辛い。
前世の記憶が邪魔をして、慶一は「ただ笑う」ができない。
子どもらしくない幼児らしくない、そういわれる日常と、また経験がスポーツや武道でも障害になった。
経験を伝えようにも、教える経験がないのでは、伝わるものも伝わらない。そんなつもりがなくとも達観したような態度と、完封する腕がある事を隠しての手加減が嫌悪された。
そんな慶一であるから、慕ってくれる晴の存在はありがたい。ありがたいが故に、慶一も本気を出す。
「こっちからもいくぞ!」
慶一のエアーソフト剣は、柄の双方に刃が伸びている杖タイプ。それを幻惑させるように回転させつつ迫る。
晴は剣を両手持ちにして防御態勢に入る。
「ムムム!」
どう振られても弾き返す構えであるが、慶一の攻撃は斬撃ではなかった。
――突きだ!
回転させていたエアーソフト剣を握りしめ、晴の胸へと狙いを定める。円から直線へ変わった動きは、鮮やかに虚を突く。
だが、晴は――、
「いくぞー!」
反射神経だけで対処した。
後ろへ跳ぶ。跳躍は慶一の踏み込みより速く、そして距離を稼げる。
そして着地と、ほぼタイムラグなしに急襲へ移る。
「ロケット~!」
慶一と同じという訳ではないが、自身の身体を砲弾に見立てての突進だった。
「おぉ!?」
思わず仰け反った慶一は、晴を抱きかかえるような形になったのだから負けである。
「参った」
降参の言葉は、笑みと共に出てくる。
――最高だな。
慶一は満足だ、と深呼吸した。
しかし本当の最高は、ここではない。
ここからだ。
「じゃあ、お兄ちゃん。おやつにしよう。ボクのチョコレート、半分あげるよ」
晴はポシェットから取り出したチョコレートを半分にする。
そして晴が半分こというと、ホシもいいだす。
「じゃあハルくんには、僕のを半分あげるね」
二つのチョコレートが4になると、晴は「う?」と首を傾げ、
「3人だけど、4……」
どうやって分けようかと悩み始める。1個余すという考えは、晴にはない。
だから慶一は手を伸ばし、
「あぁ、こうしよう」
4つをもう一度、半分にして8つにし、それを更に大小12個に割る。
「一人4つだ」
「お兄ちゃん、頭いい!」
晴はバンザイして歓声をあげた。
最高というなら、この瞬間だろう。
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