第16話 告白
あれよあれよという間に準備がなされていく。後宮内のため宮女の恰好は変えないらしいが、目の前に積まれた道具の数々はいったい何だろう。
「お化粧しましょ。亮亮は普段目尻に入れているだけだから、やりがいがあるわ」
「そんな、ただいらっしゃるってだけですからそこまでしなくても。それに約束は明日ですし」
「肌が良くなるように、みんなお化粧しない間もみんな保湿したりして頑張ってるのよ。亮亮も今日からやろうね」
「そうなんですか。全然知りませんでした」
決して拒否を許さない迫力がある。
この作業を朝晩一回ずつやるらしい。慣れなくて面倒だと思ってしまうが、身なりを整えるのも仕事の内と言われたらやるしかない。
「亮亮はこのままでもぷるんぷるんだけど、お化粧したり、甘い物食べるようになったら荒れてくるから、その予防にね」
「はい。頑張ります」
せっかく職をもらえたのだから、立派な仕事人になりたい。夏晴亮は拳を作って気合を入れた。
やる気になった後輩の為、
「これくらいかしら」
「はい。女性の皆様を尊敬します」
「貴方も女性じゃない。それに、男性もやる人はいるし」
「なんてこと……私は男性より顔をほったらかしに……」
こんな機会でもなければ経験出来なかったので、そういう意味では第一皇子に感謝した。
「お化粧は明日にね、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
今は亥の刻。いつもよりやや遅くなってしまった。明日も宮女の仕事はある。しっかりしなければ。
すぐに就寝した夏晴亮は八時間後、ぱっちりと目が覚めた。いろいろして疲れたらしく、夜中に起きることもなく朝を迎えられた。鏡を見ると、通常より肌がもちもちしている気がする。肌には睡眠が一番と言っていたので、保湿と睡眠ですでに効果が出た。
馬星星も肌の調子を褒めてくれた。そのまま化粧を施された。化粧については一日二日で上手く出来るものでもないので、追々詳しく教えてくれると言っていた。
「もう! 宮廷の小悪魔! 完璧!」
手放しで褒められて照れてしまう。小悪魔がなんなのか分からないが礼を言っておいた。
化粧をしっかりした状態で仕事をするのが初めてで少々気恥ずかしかったが、道行く人々に声をかけられて段々と自信を持てるようになった。
夢中で仕事をしていると、あっという間に
「さて、私は行くわね」
「有難う御座います」
馬星星が約束通り席を外す。夏晴亮が部屋で一人待った。
こんこん。
扉が小さく鳴る。
「どうぞ」
すると、扉がゆっくりと開かれ、予想通りの人物が入ってきた。任深持が毒見用の盆を机に置く。
「わざわざ持ってきて頂き恐縮です」
「いや、なに、別に」
はっきりしない言葉に夏晴亮の緊張が増す。
何を言われるのだろうか。悪いことでなければいいのだが。
「夏晴亮」
「はい」
徐に任深持が花束を取り出した。昨日とは違う花だ。宮廷の庭に咲いていて、確か蘭という名前だったと記憶している。
「これを」
「有難う御座います」
受け取ると、任深持が姿勢を正して言った。
「夏晴亮、私の正妃になれ」
「お断りします」
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