第二章
第11話 毒を入れたのは誰?
「
「使ってというか、一緒にというか。とりあえず私たちもお手伝い出来るんじゃないかって。阿雨なら誰にも見られず潜入出来ますし」
さっそく、毒見用の夕餉を持ってきた馬宰相に相談をした。
「ふむ」
考え込んだ馬宰相を不安気に見つめる。馬宰相が雨を見下ろして言った。
「いいですね。ただし、誰にもこのことは悟られず行ってください」
「はい」
『わん!』
提案が採用され、喜ぶ
「それでは、私は失礼します。今回は毒が無かったようで安心致しました」
「はい」
「あ、それと、少しでも危険な場合は無理せず逃げてください」
「分かりました」
空になった食器を手に、馬宰相が部屋を後にした。
「さて、さっそく報告しておかないと、後で面倒なことになりそうですね」
その足で向かった先は、
「何故そのような真似をさせる? あれに務まるはずがない」
「お言葉ですが、彼女は高等精霊の姿をその瞳に映し、操ることが出来ます。学び舎で学ばずにです。それだけの才能があれば、不可能ではないかと」
「そういう問題ではない!」
任深持が机を叩く。馬宰相はバレないように息を吐いた。
「せっかく術師にならないと約束させたのに」
「まだ、です。唯一の女性術師になったら周りの人間が放っておかないですから、任深持様としては心配ですね」
「心配ではない!」
報告したのに、結局面倒なことになった。夏晴亮が来てから彼は変わった。それは良い意味でだが、それを上回る面倒さが馬宰相の胃をきりきりさせる。
「とにかく、彼女の実力は本物ですから、我々は大人しく見守りましょう」
「…………もういい」
「それでは失礼致します」
「さて、阿雨。重要な役目をもらったから、慎重に行きましょ」
『わん』
一人と一匹しかいない部屋で作戦会議を始める。
実は夏晴亮にはすでに容疑者が一人浮かび上がっている。先日、偶然出会った余紫里だ。
彼女は調理場から出てきた。側室が出入りする場所ではない。つまり、何か用事があってそこにいたということだ。
毒は料理に入れられている。つまりはそういうことではないかと睨んでいる。あまりに単純だが、結末はあっさりしていることもある。
「悪い人には見えなかったけど、万が一ってこともあるしね」
もしも彼女が犯人だと仮定すると、動機が気になるところだ。
「彼女は側室、皇后より地位が低い。任深持様が彼女より地位の高い人の子どもだから? それなら皇后を狙った方が早い」
そう、回りくどいことをせず、毒を入れられる環境にあるならばもっと直接狙えばいい話である。そうすると、違うところに動機があるはず。
「第一皇子を狙うということは、第一皇子がいなくなると喜ぶ人がいるってことだ」
夏晴亮が顔を上げる。
「そうか……第二皇子」
第一皇子がいなくなれば、第二皇子が次期皇帝となる。
それを第二皇子が望んでいるのか、側室か。それは分からないが、調べる価値はある。
「第二皇子ってどんな方かしら」
引き出しに仕舞い込んでいた似顔絵一覧を引っ張り出す。第二皇子の顔をしっかり覚えておく。兄の任深持とは似ていない。彼はもっと強い瞳を持っている。弟は母親似らしい。
「どうしようかな」
無理はするなと言われているから、なるべく慎重に行きたい。いきなり突撃するのは浅慮だ。もっと彼らのことを知っておかねば。
「第二皇子も後宮内にいらっしゃることもあるだろうから、しばらくは阿雨に後宮を調べてもらおう」
幸い、毒見師として自分がいれば任深持まで毒が行くことは考えにくい。いつ出会えるか分からないため長期戦を覚悟していたが、二日後、
掃除中、
ここにいるのは皇帝か皇子、その側近のみだ。年齢を考えて第二皇子で間違いないだろう。きょろきょろと当たりを窺う姿は明らかに怪しい。まさか、母親だけではなく、この男も関与しているのだろうか。夏晴亮は何食わぬ顔でそちらに歩いていき、すれ違う際に拱手した。
「君は……」
「夏晴亮です」
「そ、そう」
動揺した第二皇子がそそくさと去っていく。いったいここで何をしていたのだろう。誰かに用事があったのか、何かすることがあったのか。
「とりあえず、毒の臭いはしなかったなぁ」
彼が後宮をうろつくということが分かったので、機会はまだある。夏晴亮は雨を一撫でし、掃除の続きを始めた。
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