第23話 金箔はどこから
「では、第二皇子のお食事には普段お酢が入っていないというわけですか」
「そうだね」
「他に好き嫌いはありますか?」
「茸くらいかな。あとは無い」
「分かりました。お忙しいところ有難う御座います」
「いやいや、そちらこそいつもありがとう。前から毒に関しては宮廷で頭を悩ませているから助かるよ」
料理長と別れ自室に戻る。
他にも話し合いで気が付いたことなどが書かれている。文字を書くのにも慣れた。勉強の賜物だ。それらを眺めていた夏晴亮が顔を上げた。
「もしかして──」
「酢と茸? どちらも嫌いではない。というより、嫌いで避けている食材は無い」
翌日、朝餉の際、夏晴亮は
「昨日、あれから料理長に第二皇子について伺ったんです。そしたら、彼はお酢と茸が嫌いで料理には入れていないそうです」
「酢と茸か……馬牙風、直近一週間分の料理名を教えてくれ」
「はい、こちらに」
「茸が使われたのは二回だが、毒が入っていた時は無いな。酢は五回で……その内三回毒が入っている。つまり、酢が関与していると考えていいだろう」
「お酢ですか!」
夏晴亮が紙を凝視する。これでかなり正解に近づいた。あとは酢がどう関係しているのか突き止めればいい。
「このお酢は王族と従者たちとで違うものを使っていたりは」
「しないと思います。皇帝たちは完全に別室で調理していますが、皇子お二人は出来る限り同じものを使用していると聞きました。それも不用意に毒が入らないようにという理由ですが」
「それをすり抜けている。巧妙な犯人だ」
夏晴亮が無言で紙を見つめ続ける。犯人が直接毒を入れていないのであれば、自分たちとの料理と違うものが他にあるはずだ。
「金箔」
「夏晴亮?」
「金箔です。王族にしか使われていないです。毒が使われた日は金箔とお酢の両方が使われている。そして、第二皇子にはお酢が入っておらず金箔のみ」
「つまり、両方合わせると毒が発生すると言いたいのですね」
「はい」
夏晴亮が神妙に頷く。任深持が指示し、馬宰相が調理場へ向かった。
程なくして、金箔と酢が持ち込まれた。
「お待たせ致しました」
「さっそくやるぞ」
皿を三枚置き、それぞれ金箔、酢、金箔と酢を混ぜたものを入れた。混ぜても変色はせず、見ただけでは本当に毒が入っているのか判断が付かない。
「夏晴亮」
「はい」
夏晴亮が順番に皿の匂いを嗅いでいく。最後に混ぜた皿の匂いを嗅ぎ、二人を見て頷いた。
「そのものでは全く毒の匂いはしませんが、混ぜると確かに毒が発生しています」
「本当か!」
ついに毒の原因を突き止めた。以前薬師が全食材を調べても分からなかった。混ぜないと毒にはならないのだから当然だ。
「それにしても、食材そのものでは毒が検出されないのはどういうことだ?」
「もしかしたら、法術がかけられているかもしれません」
直接毒を入れようとすれば、術者がその場にいなければならない。しかし、特定の何かに反応するような術であればかけられる可能性はある。しかし、それは高等なものとなる。その辺の名も知られていない術者が出来る芸当か疑問が残る。
「やはり、金箔から僅かばかり法術の跡を感じます」
「金箔をどこから仕入れたのか、料理長に聞いてきてくれ」
「承知しました」
馬宰相が皿を持って退出する。残された二人が何とも言えない顔をする。
「どう思う。
夏晴亮が静かに首を振った。
「王族が犯人だとすると、術師も宮廷付きになるかと。それでは証拠が宮廷内に残り過ぎる気がします。もしくは外の人間に頼んだか……」
「そうだな。ただ、あの親子が調理場に行ったことの説明が付かない。やはり、私の立場を狙い、外の人間に依頼したという推測が一番納得出来る」
どういう方法を取ったかにせよ、兄弟間での争い事が起こっていることになり、夏晴亮はもうすぐ解決しそうだというのにあまりいい気分にはなれなかった。
「私のことは気にしなくていい。慣れている」
「……」
こんなことに慣れるのはとても寂しいことだと思う。夏晴亮が膝に置いた拳を強く握る。
「失礼します」
そこへ馬宰相が戻ってきた。二人に緊張が走る。
「どうだ、分かったか」
「はい」
「どこから調達したものだ?」
思ったより、馬宰相の顔色がよくない。やはり、あの親子か。馬宰相の口が開いた。
「金箔は、
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