第34話 何が違うの
「普段と変わらないように見えました」
「私もです」
「いいえ、
「それだけ!?」
「それと、体の厚みも小指一本分ふくよかだった」
「服の厚みでは!?」
普段と違うらしい馬宰相より王美文の観察眼の方が恐ろしくなってきた。王美文が首を振る。
「いいえ、服ではなくてよ。きっと彼に何かあったんだわ」
「何か、ですか」
真剣な姿に、彼女の本気が窺える。馬宰相を一番観察している彼女だから、言うことが間違っているとは言い切れない。
「では、私も馬宰相にお変わりがないか、お会いした時観察してみます」
「宜しくお願いね。変わったことがあったら報告して。無くても報告して」
「は、はい」
「では気を取り直して」
櫛を手にした王美文が微笑む。そういえばそんなことを言っていた。すっかり忘れていた
「この髪飾り、任深持様がくださった物かしら」
「そうです。とても立派ですよね」
「そうねぇ。たしか、元々彼が皇后から頂いたのではなかったかしら」
「え! そんな大層な物を……!」
毎日平然と付けていた自分が恐ろしい。机に置かれているそれが眩しく見えてくる。明日から付けられるだろうか。
「ふふ、それだけ貴方が大切で、特別なのよ」
「……大事にしてくださっているのは分かります」
「今はそれで十分よ。時間はたっぷりあるんだから、ゆっくり深めていったらいいわ」
あっという間に新しい髪型が完成した。身分の高い女性でも自ら髪の毛を整えることがあるのか。随分手慣れた様子に感心する。
「有難う御座います。素敵です」
「うふふ。阿亮とても可愛らしいから、いつかやってみたいと思っていたの。これからもたまにさしてもいいかしら」
「はい。是非」
和やかな雰囲気で夕餉の時間が終了した。別れ際、王美文が念押しする。
「馬牙風の件、くれぐれもよろしくね」
「分かりました」
部屋に戻り、
翌日、朝餉の時間、任深持とともに来た馬宰相をそれとなく観察する。全然分からない。
「ちょちょ、見すぎよ」
「そうだ、変に思われますよね」
「それより、任深持様が嫉妬の怒りを馬宰相に向けているわ」
「わあ、二次被害」
夏晴亮が他人に必要以上の興味を見せることがないため、馬宰相を見つめたことでとんだ被害が発生していた。
「すみません。なんでもないです」
「何でもないなら、これではなく私を見ろ」
「はい。努力します」
誤魔化せていないのに無事誤魔化せた。任深持も夏晴亮関連になると正常では無くなるらしい。馬星星が横で胸を撫で下ろす。
──素直な亮亮に嘘を吐くなんて高度なことは難しいわ。私が手助けしないと。
何故なら自分は側室の付き人であり姉代わりだから。馬星星が今度は胸を張って決意した。
そこへ王美文が
いつも通り毒見をし、三人で食べ始める。
「今日は本物ですわ」
隣にいる王美文が耳打ちをしてくる。なるほど、今日は本人らしい。いつも本人なのだから本物も何も無さそうだが、彼女が言うには昨日は偽物だったということだ。
──なんだ。じゃあ、今日は観察してもだめね。
偽物な日が来ても、昨日のような非常に細かい違いであれば分からないのだが、彼女の言う通りしばらく観察を続ける予定だ。
しかし、食事時以外はあまり馬宰相と会う機会は無い。宮女だった頃の方が任務もあり、頻繁に会話していたように思う。この調子だとしばらくかかりそうな気がする。
「王美文様がおっしゃっていることが本当なら、一日で変わるはずないし、偽物説もあながち間違いではないのかも」
朝餉後、妃教育の教師が来るまで夏晴亮と馬星星が話し合う。昨日の段階では馬宰相に傾倒しているために表れた幻覚なのではないかと想像していたが、それも違うらしい。
「偽物って、かなり危ないのではないですか」
「そうね。でも、慎重にならないといけないわ」
とりあえず数日様子を見て、また偽物らしい日がある場合は、任深持が一人の時を見計らって聞いてみることになった。
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