第21話 毒を入れる方法
今の時点で推理出来るのはここまでか。ひとまず、毒が入った料理は何か、何曜日のいつかなど、細かい情報を集めることにした。
「一週間に数回入っていたこともありますから、決まった料理ではなさそうですが、小さい情報でもどんどん共有しましょう」
「はい」
「宜しく頼む」
犯人を絞り込むことは出来なかったが、第一皇子の部屋で毒見をするという任務は上手くこなせたと思う。さらに、向こうからの謝罪もあった。こちらとしては、困ってはいるものの謝られる程の悩みではなかったので恐縮したが、これで穏やかな日々が戻ってくることを考えると安心している自分もいた。
「今日の料理は酢豚、と」
部屋に戻って夏晴亮は忘れないよう、今日の料理名を紙に書いておく。何の変哲もない、変わった食材も使われていない美味しいものだった。
翌日、そのまた翌日と毒見は続く。任深持からの贈り物はあの日から無くなった。ほっとしたようななんだか気が抜けたような。せっかく贈ってくれたものだから使ってみようと匂い袋を服に忍ばせてみたら、一瞬
特に気に入っているのが髪留めで、掃除中邪魔な前髪を押さえるため毎日付けている。
珍しい物を付けていると
「良いと思う。うん」
「有難う御座います……?」
良いの主語が分からず適当に返答しておく。今日も毒見をしに行く。一週間経った。その間に毒が入っていたのは初日を合わせて二度。今までで一番入っていたのが一週間で四度。一度も無い週もあった。このばらつきのある頻度もよく分からない。こちらを混乱させるためか、他に目的があるのか。
朝餉に入っていたことはない。昼餉か夕餉。特に夕餉が多い。しかし、引き続き雨に調理場の監視をしてもらっているが、毒が入っていた日に料理人以外の出入りがあったことはなかった。
もう、
「む」
今日は麺料理だった。任深持が夏晴亮に声をかける。
「毒か」
「はい! ばっちり毒入りです!」
「毒を口にしてこんなにも元気なのはお前くらいだろうな」
「えへへ、恐縮です」
褒められていないのだが、単純に喜んでしまう。毒が食べられてよかった。技術もいらず身一つで、こうして人の役に立てるのだから。
「これで三度目ですね。状況整理をしてみましょう」
一度目は酢豚、二度目は肉料理、三度目は麺。どれも系統が違う。共通しているのは金箔が載っているくらいだが、毒が入っていない日も金箔が散らしてある日はあった。
「食べる順番とか……ご飯とおかずはどちらを先に食べますか?」
「おかずからだが、それが毒と関係あるのか?」
「いちおう聞いてみただけです」
任深持は呆れた顔を見せたが、どこに正解への糸が隠れているやもしれないため、否定することはなかった。
「飲み物と反応するとか」
「なるほど。夏晴亮、良い案をもらいました。飲み物など水分を含むと毒性が増す可能性はあります。他にも案を上げてみましょう」
三人であれこれ意見を言い合う。試しに、料理に水を入れてみたが、毒の匂いは変わらず、強くなっているようには思えなかった。
さらに料理の内容に注目する。一度目の酢豚は酢が沢山使われていたので気にしてみたら、他の二つの料理にも酢が使われていることに気が付いた。しかし、毒が入っていない日の料理にも酢が使われていることも分かった。
「そういえば、三日前に第二皇子がいらっしゃいましたよね。あれは何だったのでしょう」
雨からの報告で、第二皇子が調理場を訪ねたことは確認している。料理をもらうわけでもなく去っていったらしく、怪しいと言えば怪しい。
「
弟でありながら、執務上関わる以外は会話をしないらしい。それだけ聞くと仲が悪いとも取れる。もしくは興味が無いか。
「兄弟ってそういう感じなんですか?」
「なんだ。お前は兄弟を知らないのか」
「はい」
親がいない貧しい身分だということは知っているが、詳しくは聞いておらず、任深持は夏晴亮のことをあまり知らないことに気が付いた。
「たいして面白くないものだ。それより、今の生活を大切にしろ」
「そうですね。同僚の方みんな良い人で、毎日楽しいです」
夏晴亮が笑顔を見せる。任深持が視線を外した。
「青春はそこまでにして、とりあえず第二皇子は第一皇子を快く思っていない可能性は十分にあります。毒以外でもお気を付けを」
「分かっている。この立場だからな」
王族であれば、命を狙われることもある。これが次期皇帝ともなれば尚更だ。身内と言えども疑わなければならないこともある。
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