第6話 従兄妹

「息災か」


 数日後、今度は第一皇子自らやってきた。


「はい、元気そのものです。仕事ですか?」

「いや。そもそも毒見は毎食しているはずだ。食前に違う料理が少量出されているだろう」

「確かに! あれが毒見用の料理だったんですね」


 第一皇子は呆れながら、咳払いを一つした。


「仕事でないのなら、何故こちらに」

「仕事以外で来てはいけないというのか? 後宮なのだから私がいて当然だ」


 やや怒り気味に返される。何か癪に障ったようで、夏晴亮シァ・チンリァンは深々拱手した。


「申し訳ありません。世間を知らぬまま育ち、思い至らぬところでご迷惑をお掛けしていると思います。その際は何なりと罰をお申しつけください」

「いやッそこまで言われると……ふんッ。私は戻る」

「はい」


 結局何もせず戻ってしまった。小さくなる背中を見つめ、肩を落とす。仕方ない、部屋に戻ろう。


「もう少し、ここのことを学ばないといけないな。そうだ!」

「そうだ、とは何ですか?」

「ほわぁッ」


 今度は自室の前で宰相と出会ってしまった。今日は重要人物と鉢合わせになることが多い。


「いえ、実は……あれッまたお花が!」

「あれこれ忙しい方ですね。そちらは?」

「先日部屋の前にお花が落ちてたんですけど、今日もまた……これ先日と同じお花です」

「ふむ、奇妙なことです。ちなみに毒花ではないでしょうね」


 くんくん。


 匂いを嗅いでみる。良い匂いしかしない。


「ピリッとはしてませんね」

「匂いで判別出来るのですか?」

「したことないので出来ません」

「期待して損しました」


 その何気ない言葉が夏晴亮に響いた。働き始め、生まれて初めて自分に価値を見出せるようになったのに。自分の至らなさで皆にがっかりさせたくない。それにはやはり勉強だ。


「あの、学び舎に通いたいのですが」

「学び舎……術師のですか」

「はい。知識は全然無いのですが、学ぶことは出来ますか」

「なるほど」


 馬牙風マァ・ヤーフォンが腕を組む。やはり初心者では無理だろうか。学び舎に通えないのなら、他の勉強手段を考えねばならない。


「それでは」

「あ~~~ッッッ」


 返答を遮るが如く、静かな廊下に叫び声が響いた。同室の馬星星だった。


「何されてるんですか宰相!」


 馬牙風の片眉がぴくりと動く。馬星星マァ・シンシンが夏晴亮の前に立った。


「何もしていません」

「私の後輩に御用なら、私を通してからにしてください」

「同室者の許可を得る決まりはありません」

「キィィ! 相変わらず意地悪風兄フォンにぃィ!」


 馬星星の声が廊下に木霊する。夏晴亮が固まった。


「風兄?」


「お伝えしていませんでしたが、私と星星は従兄妹です。知ったところで今後への影響は全くありませんから、今すぐ忘れてくださって結構です」


「そうよッこんな意地悪しか言えない仕事人間、忘れて大丈夫だからね。意地悪されたら私に言って? 内緒で食事に虫入れておくから」


「実行したら一か月無給にします」

「ムキィィィィ!」

「あ、あの」

「なぁに? 亮亮。虫入れる?」

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