第37話 侵入者
翌日から、さっそく警備の見直しが行われた。宮廷付の軍人が入り口に配置され、
「いい? 何かあったら、すぐ私か
『わんッ』
雨は元気に返事をして駆けていった。どうやら雨は任務が好きらしく、こうやって役目を与えられると瞳をきらきら輝かせてくれる。こちらの希望で働いてもらっているので、前向きに動いてもらえると嬉しくなる。当然、嫌な時は十分休んでほしい。
「馬宰相、法術がかけられていても侵入される場合はあるのですか?」
「あります。基本は安心ですが、招かれた客に紛れて入った場合が挙げられます。これは精霊であれば異質なのでその場で気付きます。人であっても招かれた人数を把握しているので、食い違う時はその都度確認します。あとは、法術を破られた場合でしょうか。これはどこにいても分かります」
「では、招かれた客の身分が証明されれば安心ということですね」
「はい。ただ、そこの隙を突いてくる輩はいますので、常に気を付けなければなりません」
後宮内には法術師は馬宰相か宮廷から派遣されてきた者が一人いるだけだ。後宮内は特別な役職の無い男性が無暗にうろついてはいけないという決まりがあるのが大きい。そこで、精霊を視ることの出来る夏晴亮は貴重だ。自分もしっかり参加して、侵入者を許さないようにしたい。
「側妃は精霊を見つけたら私に知らせてください。知らない人間が入り込んでいたらすぐに逃げてください。決して無茶はなさらぬよう」
「承知しました」
精霊でも、敵側の場合はどんな攻撃を仕掛けてくるか分からない。非力な女性ではたちまちやられてしまう。
「貴方は自室以外では誰かといるように。絶対だ」
「はい」
見回りは休憩を挟んで、夕餉の前まで行われた。現在雨はご褒美に新しい玩具をもらい遊んでいる。警備も増員したが、特に変わったことはなかった。
それぞれ自室に戻る。任深持も例外ではない。今日の業務を終え、馬宰相が退室した。
気を張っていて随分疲れてしまった。もう寝て明日に備えよう。任深持は寝台に寝転がった。
一刻程経った頃、任深持の室内に小さな物音がした。それはゆっくりと寝台に近づいていく。寝ている人間が任深持本人だと確認した侵入者が胸元から短刀を取り出した。そして、凶器を振り上げ──。
「誰だ?」
短刀が下ろされる瞬間、任深持が目を開けた。驚いた様子も見せず、侵入者を見つめる。
「──やはり、お前だったか」
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