第46話 王都観光
王都の端であっても、宮廷の人間だということは見てすぐ分かるため、道を歩くと人がどんどん避けていった。夏晴亮は眉を下げたが、王美文にもっと堂々としなさいと言われ慌てて背筋を伸ばした。
「任子風様、王都はよくいらっしゃいますか?」
正妃の問いかけに、任子風は一度任明願を見遣ってから答えた。
「たまにですが、来ます」
「そうですか。私、美味しいお菓子が欲しいのですが、おすすめのお店はご存知ですか?」
「お菓子……ですか。それならこちらへ」
どうやら王美文のお願いが意外だったらしく、目を丸くさせながらも案内を始めた。
どこまで行くのかと思いきや、馬車から見える位置の店に入っていった。
「こんにちは」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
穏やかな年配の女主人が拱手する。店内は広くないが、天井まである棚の中に所狭しと様々なお菓子が並べられていた。
「わぁ、初めて見るお菓子ばかりです」
「そ、そうですか。それはよかった」
「おすすめは何ですの?」
正妃の笑みに圧倒されながらも、任子風がおずおずと商品の前に手を差し出した。
「この金平糖が美味しいと思います」
夏晴亮がそれを食い入るように見つめる。
「あ、一度だけ食べたことがあります。王美文様は召し上がったことはありますか?」
「あるわ。でも、ここのはもっと美味しいかも。任子風様はどの辺りがおすすめですか?」
「そうですね。定番のお菓子の一つですが、この店では白色以外の金平糖が売っているのです。味も甘すぎず何個でも頂けますよ。ほら」
白い球体の金平糖の横に、薄桃色の金平糖の瓶が飾られていた。これには夏晴亮だけでなく、王美文までも前のめりになって観察した。
「まあ、桃色の金平糖は初めてよ。素敵!」
女主人がにこにこと桃色の金平糖の瓶を開けた。
「試しに召し上がってください」
「宜しいのですか? 有難う御座います」
夏晴亮が満面の笑みで受け取る。他の二人も金平糖を一粒口に放り込んだ。
「……美味しい!」
想像以上の味に感嘆する。
「色付けにクチナシの実を使用しております」
「クチナシは黄色ではなくて?」
「赤色のものも御座いまして、それを薄めて桃色に」
「なるほど」
女主人の説明に皆一斉に頷き笑ってしまった。
「では、桃色のものを頂くわ」
「有難う御座います」
金平糖が包まれているところを眺めていた夏晴亮の顔が曇ったことに王美文が気が付いた。
「阿亮、どうしたの?」
「王美文様……このままでは私、我儘妃になってしまいそうです」
宮廷でもお菓子を食べることは出来、それで十分贅沢なものだと思っていた。しかし、こうして様々なお菓子を見て、さらなる贅沢があることを知ってしまった。
突然の宝の山にどうしていいか正妃に助けを求めたが、彼女からは軽い返事が返ってきた。
「あら、よろしくてよ。貴方は無欲だから、少しくらい我儘な方が我が主も安心するのではなくて?」
「そうでしょうか。私はずっと一人で生きてきたので、いきなり贅沢をしたら申し訳ない気持ちになります」
夏晴亮が俯くと、王美文が覗き込んで言った。
「庶民が質素だから王族も質素になさる? そんな風に我慢する側に合わせるよりも、王族は王族らしくる振る舞い、庶民もたまの贅沢が出来るような、豊かな生活を与えられるよう考えたらどうかしら」
思わず顔を上げる。王美文が自信あり気に微笑んでいた。
「目から鱗です」
「下に合わせたら庶民の暮らしは楽にならないわ。王族だって無駄な贅沢はしてはならないけれど、庶民の暮らしを少しでも上にもっていかれるようにしたら、皆笑顔になると思うわ。あ、非常時はもちろん私たちも質素にしなければだけれど」
「勉強になります」
知識が無いどころか庶民以下の生活を強いられてきたため、全ての言葉が新鮮だった。これからも勉強してあらゆるものを吸収し、自分の中で消化して、自身の考えを見出していきたい。
「私より貴方の方が皇子然としていてお恥ずかしい限りです」
夏晴亮の後ろで、任子風が消え入るような声で呟いた。王美文が腰に手を当てて言う。
「任子風様は一刻も早く国の代表としての威厳を身に付けて頂きたいですわ」
「あっ、あ、はい。善処します」
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